第1回
---
「え、何?」
女の子は、不思議そうに振り向いた。
(僕のことか?僕の体の、この女の子は『かおりん』と呼ばれているのか?ということは、やっぱり僕は転神したって事か。あの人の言ってたことは嘘じゃなかったんだ。よし、僕もこの世界を十分に楽しんで有名人になっちゃおう)
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
かおりんが推測してる間に、女子の話は進んでいた。
「あ、ごめん。よく聞いてなかった」
(この女子の話は、情報源になりそうだからしっかり聞いておこう)
「もー、しょうがないわね」
学生カバンの奥から“タバコのボックス”を取り出す女子。
「何、これ」
「さっき言ったじゃない、あいつから手紙、預かったって」
「あいつって?」
「ほら、いつも話してるじゃない。かおりんが去年1年8組の時に、クラスメイトだったあいつの事」
「ああ、あいつね」
(誰だかわかんないけど、一応話合わせとこう。ま、たぶん『かおりん』の女友達のことだろう)
「そ。それでね、あいつがあんたのこと好きなんだって。これ、ラブレターらしいんだ」
「え」
(え、ラブレターってことは、あいつって女の子じゃないの?)
唖然とするかおりんの手に、おばあちゃんが親に内緒でこづかいを手渡す時のように、その手を包み込み、手紙を握らせる女子。
「じゃ、渡したからね」
「で、でも、こんなものもらっても困るよ」
(僕は『かおりん』という女じゃなくて、『高山比呂(たかやまひいろ)』という男なんだから)
「それならあいつに、はっきり言ってやればいいじゃない。“あんたのこと嫌いだから、こんな手紙もらっても迷惑なのよ”って」
「いや、そうじゃなくて、好きだとか嫌いだとか、僕にはわからないんだ」
(だって、相手の男のこと全然わからないもの)
「僕?なに珍しい言葉使ってんの。さては、うれしすぎて舞い上がってんでしょ」
「そ、そんなんじゃないよ」
(うれしいわけないじゃない、僕ホモじゃないんだから)
「また、あわてちゃって。もしかして、かおりんもあいつのこと好きだったの?」
「だから、本当に違うんだって」
(僕は『かおりん』のことなんかわからないよ)
「はいはい、わかりました。……あんた達、青春って感じだねー」
「もー」
(ほんっとうに、もー)
「それじゃあ私は、お役目も終えたので帰らせていただきます。ダーリンからのお手紙は、お家に帰ってから読みなよ。“絶対他の奴に見せるなよ”ってダーリンが言ってたから。わかった?」
「う、うん」
(え、いま家って言ったよな。『かおりん』の家って何処にあるんだろう?)
学生カバンを閉める女子。
「それじゃあ、また明日」
右手を上げて、その場を立ち去ろうとした女子。
(そうだ、この女子に『かおりん』の家の場所聞こう)
「ちょ、ちょと待って」
「何?」
振り返って、右手を机の上に置く女子。
「ぼ、私の家って何処にあるんだっけ?」
「何言ってるの?いくらうれしいからって、家がわからなくなる位舞い上がることないでしょ」
(またそれか…。それなら)
「い、いやそういうことじゃなくて、一緒に帰ろうって意味なんだけど…」
「一緒に帰るって言っても、私とかおりんの家まったく正反対じゃない」
「そ、そうだったね」
(ちくしょう、作戦失敗か)
「そんなにうれしいなら、早速ダーリンとお手手つないで帰れば。あいつ、まだ写真部の部室にいると思うから。それじゃあ」
今度は右手も左手も上げず、その場を早足で立ち去ってしまった女子。音楽室の片隅に、一人きりで不器用にコントラバスを持っているかおりん。
(次から次へと、どうなってるんだ。男からのラブレター、『かおりん』の家、どうしたらいいんだろう。……とりあえず、家に帰ることを考えよう。じゃあどうやって帰る?このままここにいれば『かおりん』の親が迎えにきてくれるかもしれない。だけど問題を起こすのはまずい。『かおりん』がいつもと違うことがすぐにわかってしまう。それに、知らない人に怒られるのも嫌だ。だったらどうする?……そういえば「泥酔者が意識のないまま家に帰れるのは、自律神経のおかげだ」って生物の岡田先生が言ってたな。ってことは、『かおりん』の意識がこの体の中に残ってるとしたら家に帰ってくれるってことか。でも、未成年の女の子が酒を飲むのはまずいよな。その他の手段で意識を無くすためには、…何も考えないって手もあるけど、人間何にも考えないことは無理だって言うから、…別のことを考えればいいのか。家に帰るって事以外を。でも何を考えよう?…いや、ただ考えてるだけじゃだめだ。すぐに家の事が気になってしまう。…そうだ!さっき貰ったラブレターを読んで帰ろう。ものを読んでる間ならば、家の事なんか考えないだろうし、こんだけ厚みがあるんだから、家に着くまでの間読みつづける事ができるだろう。本来こういうの読むのはよくないけど非常事態だからしょうがないよな。これ書いた人ごめん。僕、読んじゃいます)
かおりんはその手に持ったコントラバスをケースにいれ、近くにあったミッキーマウスのキーホルダーのついた学生カバンを持ち、音楽室を出た。
(あ、そういえばさっき、男と帰れとか女子言ってたよな。その方が楽かな?でも一緒に帰るって事は付き合うのOKって事になるから『かおりん』の了解取らなきゃまずいよな。それに一緒に帰る途中、男にキスとかされたら気持ち悪いからな。やっぱ一人で帰るか。…それにしても『かおりん』って「かおり」っていう名前のあだ名だよな。もし留学生かなんかで『香林』なんていう名前だったらどうしよう。ラブレター読み終わって気づいてみたら背中から“ニーハオ”なんて言われて、北京郊外の精肉店の前かなんかにいたらどうしよう。でも、これは僕の世界の事だからこの世界には中国なんてないのかな?でも異世界に来たと思い込んでるだけで、ただ同じ世界の別人になってたってこともあるだろうしな。だって日本語使ってるしな…うーん、なんかこういうのも嫌なんだけど)
かおりんは音楽室のドアの向かい側にある柱に寄り掛かって学生カバンをあさりだした。まず最初に“キティちゃん”のきんちゃく袋に入った弁当箱を取り出した。
(なんだ?このひげの生えた白ブタは。どういう趣味してるんだろう?それに、このねずみのキーホルダーといい、なんか動物愛護協会の会員なのかな?)
一番上ででかい顔していた“白ブタ”を床に置いて、次にノートを取り出した。
(うあーやばいな『かおりん』字がすごいうまいよ。それにこの漢字のうまさは半端じゃないな。やっぱ中国人だよ)
核心に迫るために学生手帳を取り出した。
(えーと、名前は…。あーよかった『工藤かおり』中国人じゃないや日本人だ。それで、ここは千葉県八街市って所か、やっぱり異世界だ、こんな地名知らないもの。八街中学校2年1組3番・・・・・・僕の3っつ下か)
かおりんは学生カバンを整理すると下駄箱に向かった。運が良い事に下駄箱は音楽室の隣にあったので、探す手間が省けた。そして手帳に書いてあった番号の所にあった黒い革靴をはいた。そして手紙を開いた。
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第3回
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『波』
波 が
そ っ と
で は な く
ど っ と
押 し 寄 せ て き て も
僕 は
ほ ん の 少 し だ け
下 を 向 く か も し れ な い
け れ ど
自 分 の 足 で
歩 い て
み せ よ う
---
第2回あとがき
[当時]
説明的台詞(ひとりじょうず)が長すぎて
読みづらくなってしまいました。
でも、あれはあれでしょうがないんじゃないかと思うんです。
自分があの立場に立ったら?
…そう思うと、(確かに読者用の余分なものがあるものの)
どうしてもああいう風に考えざるをえないような気がします。
[現在]
やっぱり若い。さすが18歳。
なによりもあとがきが痛々しい。
これを書いた7年前、キティちゃんは枯れたキャラクターでした。
復権した今は今で違う意味を持っていますが、
笑いというのは時代背景が反映される難しいものです。
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「え、何?」
女の子は、不思議そうに振り向いた。
(僕のことか?僕の体の、この女の子は『かおりん』と呼ばれているのか?ということは、やっぱり僕は転神したって事か。あの人の言ってたことは嘘じゃなかったんだ。よし、僕もこの世界を十分に楽しんで有名人になっちゃおう)
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
かおりんが推測してる間に、女子の話は進んでいた。
「あ、ごめん。よく聞いてなかった」
(この女子の話は、情報源になりそうだからしっかり聞いておこう)
「もー、しょうがないわね」
学生カバンの奥から“タバコのボックス”を取り出す女子。
「何、これ」
「さっき言ったじゃない、あいつから手紙、預かったって」
「あいつって?」
「ほら、いつも話してるじゃない。かおりんが去年1年8組の時に、クラスメイトだったあいつの事」
「ああ、あいつね」
(誰だかわかんないけど、一応話合わせとこう。ま、たぶん『かおりん』の女友達のことだろう)
「そ。それでね、あいつがあんたのこと好きなんだって。これ、ラブレターらしいんだ」
「え」
(え、ラブレターってことは、あいつって女の子じゃないの?)
唖然とするかおりんの手に、おばあちゃんが親に内緒でこづかいを手渡す時のように、その手を包み込み、手紙を握らせる女子。
「じゃ、渡したからね」
「で、でも、こんなものもらっても困るよ」
(僕は『かおりん』という女じゃなくて、『高山比呂(たかやまひいろ)』という男なんだから)
「それならあいつに、はっきり言ってやればいいじゃない。“あんたのこと嫌いだから、こんな手紙もらっても迷惑なのよ”って」
「いや、そうじゃなくて、好きだとか嫌いだとか、僕にはわからないんだ」
(だって、相手の男のこと全然わからないもの)
「僕?なに珍しい言葉使ってんの。さては、うれしすぎて舞い上がってんでしょ」
「そ、そんなんじゃないよ」
(うれしいわけないじゃない、僕ホモじゃないんだから)
「また、あわてちゃって。もしかして、かおりんもあいつのこと好きだったの?」
「だから、本当に違うんだって」
(僕は『かおりん』のことなんかわからないよ)
「はいはい、わかりました。……あんた達、青春って感じだねー」
「もー」
(ほんっとうに、もー)
「それじゃあ私は、お役目も終えたので帰らせていただきます。ダーリンからのお手紙は、お家に帰ってから読みなよ。“絶対他の奴に見せるなよ”ってダーリンが言ってたから。わかった?」
「う、うん」
(え、いま家って言ったよな。『かおりん』の家って何処にあるんだろう?)
学生カバンを閉める女子。
「それじゃあ、また明日」
右手を上げて、その場を立ち去ろうとした女子。
(そうだ、この女子に『かおりん』の家の場所聞こう)
「ちょ、ちょと待って」
「何?」
振り返って、右手を机の上に置く女子。
「ぼ、私の家って何処にあるんだっけ?」
「何言ってるの?いくらうれしいからって、家がわからなくなる位舞い上がることないでしょ」
(またそれか…。それなら)
「い、いやそういうことじゃなくて、一緒に帰ろうって意味なんだけど…」
「一緒に帰るって言っても、私とかおりんの家まったく正反対じゃない」
「そ、そうだったね」
(ちくしょう、作戦失敗か)
「そんなにうれしいなら、早速ダーリンとお手手つないで帰れば。あいつ、まだ写真部の部室にいると思うから。それじゃあ」
今度は右手も左手も上げず、その場を早足で立ち去ってしまった女子。音楽室の片隅に、一人きりで不器用にコントラバスを持っているかおりん。
(次から次へと、どうなってるんだ。男からのラブレター、『かおりん』の家、どうしたらいいんだろう。……とりあえず、家に帰ることを考えよう。じゃあどうやって帰る?このままここにいれば『かおりん』の親が迎えにきてくれるかもしれない。だけど問題を起こすのはまずい。『かおりん』がいつもと違うことがすぐにわかってしまう。それに、知らない人に怒られるのも嫌だ。だったらどうする?……そういえば「泥酔者が意識のないまま家に帰れるのは、自律神経のおかげだ」って生物の岡田先生が言ってたな。ってことは、『かおりん』の意識がこの体の中に残ってるとしたら家に帰ってくれるってことか。でも、未成年の女の子が酒を飲むのはまずいよな。その他の手段で意識を無くすためには、…何も考えないって手もあるけど、人間何にも考えないことは無理だって言うから、…別のことを考えればいいのか。家に帰るって事以外を。でも何を考えよう?…いや、ただ考えてるだけじゃだめだ。すぐに家の事が気になってしまう。…そうだ!さっき貰ったラブレターを読んで帰ろう。ものを読んでる間ならば、家の事なんか考えないだろうし、こんだけ厚みがあるんだから、家に着くまでの間読みつづける事ができるだろう。本来こういうの読むのはよくないけど非常事態だからしょうがないよな。これ書いた人ごめん。僕、読んじゃいます)
かおりんはその手に持ったコントラバスをケースにいれ、近くにあったミッキーマウスのキーホルダーのついた学生カバンを持ち、音楽室を出た。
(あ、そういえばさっき、男と帰れとか女子言ってたよな。その方が楽かな?でも一緒に帰るって事は付き合うのOKって事になるから『かおりん』の了解取らなきゃまずいよな。それに一緒に帰る途中、男にキスとかされたら気持ち悪いからな。やっぱ一人で帰るか。…それにしても『かおりん』って「かおり」っていう名前のあだ名だよな。もし留学生かなんかで『香林』なんていう名前だったらどうしよう。ラブレター読み終わって気づいてみたら背中から“ニーハオ”なんて言われて、北京郊外の精肉店の前かなんかにいたらどうしよう。でも、これは僕の世界の事だからこの世界には中国なんてないのかな?でも異世界に来たと思い込んでるだけで、ただ同じ世界の別人になってたってこともあるだろうしな。だって日本語使ってるしな…うーん、なんかこういうのも嫌なんだけど)
かおりんは音楽室のドアの向かい側にある柱に寄り掛かって学生カバンをあさりだした。まず最初に“キティちゃん”のきんちゃく袋に入った弁当箱を取り出した。
(なんだ?このひげの生えた白ブタは。どういう趣味してるんだろう?それに、このねずみのキーホルダーといい、なんか動物愛護協会の会員なのかな?)
一番上ででかい顔していた“白ブタ”を床に置いて、次にノートを取り出した。
(うあーやばいな『かおりん』字がすごいうまいよ。それにこの漢字のうまさは半端じゃないな。やっぱ中国人だよ)
核心に迫るために学生手帳を取り出した。
(えーと、名前は…。あーよかった『工藤かおり』中国人じゃないや日本人だ。それで、ここは千葉県八街市って所か、やっぱり異世界だ、こんな地名知らないもの。八街中学校2年1組3番・・・・・・僕の3っつ下か)
かおりんは学生カバンを整理すると下駄箱に向かった。運が良い事に下駄箱は音楽室の隣にあったので、探す手間が省けた。そして手帳に書いてあった番号の所にあった黒い革靴をはいた。そして手紙を開いた。
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第3回
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『波』
波 が
そ っ と
で は な く
ど っ と
押 し 寄 せ て き て も
僕 は
ほ ん の 少 し だ け
下 を 向 く か も し れ な い
け れ ど
自 分 の 足 で
歩 い て
み せ よ う
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第2回あとがき
[当時]
説明的台詞(ひとりじょうず)が長すぎて
読みづらくなってしまいました。
でも、あれはあれでしょうがないんじゃないかと思うんです。
自分があの立場に立ったら?
…そう思うと、(確かに読者用の余分なものがあるものの)
どうしてもああいう風に考えざるをえないような気がします。
[現在]
やっぱり若い。さすが18歳。
なによりもあとがきが痛々しい。
これを書いた7年前、キティちゃんは枯れたキャラクターでした。
復権した今は今で違う意味を持っていますが、
笑いというのは時代背景が反映される難しいものです。
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