第1回 / 第2回 / 第3回 / 第4回
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何気ない朝。
トースターの焼き終わりの音。
洗濯機の回る音。
目覚まし代わりにコンポから流れる、地平線の風のような気持ちのいい音。
家の前を通り過ぎる車の音。
遠くに聞こえる踏切の音。
なにかを焼く音。
バターの香り。
カーテンの隙間から朝の光。
昨日の部屋。
体はかおりんのもの。
(まだ、僕じゃない。)
まず、靴下を左足から履き、セーラー服に着替えた。
時間割を見つめ、教科書を入れ替え、ノートを入れ替え、ジャージを持った。
(僕の朝と変わらないな)
“トースターの音とバターの香り”の部屋へ向かう。
「あ、おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
部屋に入ったとたん、家族からのお出迎えの言葉。何気ない、いつも通りの朝のあいさつ。
「おはよう」
(やっぱり異世界でも“おはよう”なんだ。昨日もそうだったし、あいさつはみんな、同じなんだな。さわやかだ)
カリカリ音を立てて、トーストにマーガリンを滑らせる。いちごジャムを滑らせる。
スクランブルエッグをそのまま食べる。バターの香り。
少し焦げかけのベーコン。丸めて口に放り込む。
フォークですくいながら、コーンポタージュスープを飲む。
雪印3.5牛乳1lパックを、目の前のコップに注ぎ、口に入れ、よく噛んで飲む。
(こんなふうに穏やかな生活、いいな)
父さんが一番先に食べ終える。食卓から離れる。会社へ向かう。
「いってきます」
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃい」
「いって、らっしゃ~い」
(なんか、家族、してる)
隆司が食べ終える。トイレに入る。
かおりんが食べ終える。新聞を読んでみる。
(やっぱ番組、全然違うな。あ、4コマもあるのか。スポーツも違うな。マラソンっていったら、行川でしょ)
隆司が学校に向かう。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃ~い」
(普通だな~)
「かおり、あなたもそろそろ行かないと遅刻よ」
「は~い」
(そういや、どうやって行けばいいんだ?う~ん、ま、なんとかなるだろう)
「あ、お弁当、持ってきなさい」
「え、あ、はい」
(あれ?そういや、僕、これ、昨日カバンの中に入れっぱなしだったよね。いつのまに取り出したんだ?)
かおりんは“白ブタ”のきんちゃく袋に入った弁当箱を学生カバンに詰め込んで、
「いってきま~す」
「いってらっしゃ~い」
家を出た。とりあえず前の路地を左に折れてみた。
「おはよう」
坊主頭で制服の男の子が左から声をかけてきた。
「え、あ、おはよう」
(誰だ、こいつ?ま、いいか。こいつの後付ければ学校行けるだろう)
「今日はゆっくりなんだね。あ、ブラバンの朝練がない日か」
「え、あ、そう」
(なんだ、その白々しい台詞は)
「今日の英語の訳やってきた?」
「え、そんなのあったの?知らなかった」
(宿題か・・・。でも所詮、中学の英語だろ。楽勝だな)
「あ、じゃあ俺の見せてあげようか?」
「え、いいよ」
(この下心見え見えの男はなんなんだ?もしかして手紙の主か?)
「遠慮しないでいいよ。いつも俺が見せてもらってるからそのお返しだよ。ね?」
「いや、本当に要らないよ」
(しつこい奴だな。そういうの嫌われるよ)
「でもさ~」
「学校行ってからやるから」
(も~、このガキ君は)
「あ、そう?でも、わからないとこあったら俺、教えるから」
「うん。そうして」
(わからないとこがあるわけないだろ)
“坊主頭”はその後、自分の部活について話し続けた。
かおりんはてきとうに返事をし続けた。
そして学校に着いた。
「かおりん、おはよう」
下駄箱でおかっぱの女があいさつをしてきた。
「あ、おはよう」
(だれ?)
「今日の英語の訳やってきた?」
「いや、やってきてないけど」
(またそれか)
「そう。昨日、教科書持って帰るの忘れちゃって、できなかったんだ」
「あ、俺やってきたよ」
「え、ほんと?」
「うん、なんならうつす?」
「でも、佐藤の訳は当てにならないんだよな」
(あ、この坊主、佐藤って言うのか)
「今日はちゃんと辞書見たから大丈夫だよ」
「そう?なら借りよっかな?」
「じゃあ教室で渡すよ」
「うん、お願いね。あれ、でも、かおりんはいいの?」
「いいよ別に。その場でやるから」
(なんでみんな、そんな気にするのかな?)
「でも、やってきてないのばれたら、先生に怒られるよ」
「大丈夫だって」
(でも、怒られるのやだな)
「後で後悔しても知らないよ」
「え、うん」
(後悔なんてしないよ)
窓側の後ろから二番目の席に、男子が座っていた。
「おはよう」
天川があいさつをし、隣に座った。
「おはよう。あ、昨日の渡してくれた?」
「え、昨日のって?」
「あの手紙だよ。手紙」
「あ、渡しといたよ」
「それで、どうだって?」
「どうっていわれても、なんか困ってたみたいだよ」
「え、あ、そう」
「でも、結構うれしそうにもしてたよ」
「ほんと?」
「うん、でもまだ、好きとか嫌いとかわからないって」
「へ~」
「ま、そのうち返事が来るでしょう。あんたなんか大嫌いって」
「そりゃないよ」
「冗談よ、冗談」
「は~、でも返事いつ来るのかな?」
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第6回
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『朝の色』
朝 の 色 は
ベ ー ジ ュ 色
カ ー テ ン の 隙 間 か ら 差 し 込 む
ヒ カ リ 色
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第5回あとがき
[当時]
今回も細かくし過ぎて、話がすごく鈍化してしまいました。
しょうがないから途中飛ばしてしまったところもあります。
それにしても、今回はこの作品よりも
他の作品に使った方がいいような文章でしたね。
[現在]
冒頭の短文の羅列は、今の私が好む作風な気がします。
展開のなにもないお話ですが、
全体から見ると、こんな部分も必要だったのでしょう。
それにしても誰がどの台詞を話しているかわからないですね。
多人数を書くのは、昔も今もずっと苦手なようです。
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何気ない朝。
トースターの焼き終わりの音。
洗濯機の回る音。
目覚まし代わりにコンポから流れる、地平線の風のような気持ちのいい音。
家の前を通り過ぎる車の音。
遠くに聞こえる踏切の音。
なにかを焼く音。
バターの香り。
カーテンの隙間から朝の光。
昨日の部屋。
体はかおりんのもの。
(まだ、僕じゃない。)
まず、靴下を左足から履き、セーラー服に着替えた。
時間割を見つめ、教科書を入れ替え、ノートを入れ替え、ジャージを持った。
(僕の朝と変わらないな)
“トースターの音とバターの香り”の部屋へ向かう。
「あ、おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
部屋に入ったとたん、家族からのお出迎えの言葉。何気ない、いつも通りの朝のあいさつ。
「おはよう」
(やっぱり異世界でも“おはよう”なんだ。昨日もそうだったし、あいさつはみんな、同じなんだな。さわやかだ)
カリカリ音を立てて、トーストにマーガリンを滑らせる。いちごジャムを滑らせる。
スクランブルエッグをそのまま食べる。バターの香り。
少し焦げかけのベーコン。丸めて口に放り込む。
フォークですくいながら、コーンポタージュスープを飲む。
雪印3.5牛乳1lパックを、目の前のコップに注ぎ、口に入れ、よく噛んで飲む。
(こんなふうに穏やかな生活、いいな)
父さんが一番先に食べ終える。食卓から離れる。会社へ向かう。
「いってきます」
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃい」
「いって、らっしゃ~い」
(なんか、家族、してる)
隆司が食べ終える。トイレに入る。
かおりんが食べ終える。新聞を読んでみる。
(やっぱ番組、全然違うな。あ、4コマもあるのか。スポーツも違うな。マラソンっていったら、行川でしょ)
隆司が学校に向かう。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃ~い」
(普通だな~)
「かおり、あなたもそろそろ行かないと遅刻よ」
「は~い」
(そういや、どうやって行けばいいんだ?う~ん、ま、なんとかなるだろう)
「あ、お弁当、持ってきなさい」
「え、あ、はい」
(あれ?そういや、僕、これ、昨日カバンの中に入れっぱなしだったよね。いつのまに取り出したんだ?)
かおりんは“白ブタ”のきんちゃく袋に入った弁当箱を学生カバンに詰め込んで、
「いってきま~す」
「いってらっしゃ~い」
家を出た。とりあえず前の路地を左に折れてみた。
「おはよう」
坊主頭で制服の男の子が左から声をかけてきた。
「え、あ、おはよう」
(誰だ、こいつ?ま、いいか。こいつの後付ければ学校行けるだろう)
「今日はゆっくりなんだね。あ、ブラバンの朝練がない日か」
「え、あ、そう」
(なんだ、その白々しい台詞は)
「今日の英語の訳やってきた?」
「え、そんなのあったの?知らなかった」
(宿題か・・・。でも所詮、中学の英語だろ。楽勝だな)
「あ、じゃあ俺の見せてあげようか?」
「え、いいよ」
(この下心見え見えの男はなんなんだ?もしかして手紙の主か?)
「遠慮しないでいいよ。いつも俺が見せてもらってるからそのお返しだよ。ね?」
「いや、本当に要らないよ」
(しつこい奴だな。そういうの嫌われるよ)
「でもさ~」
「学校行ってからやるから」
(も~、このガキ君は)
「あ、そう?でも、わからないとこあったら俺、教えるから」
「うん。そうして」
(わからないとこがあるわけないだろ)
“坊主頭”はその後、自分の部活について話し続けた。
かおりんはてきとうに返事をし続けた。
そして学校に着いた。
「かおりん、おはよう」
下駄箱でおかっぱの女があいさつをしてきた。
「あ、おはよう」
(だれ?)
「今日の英語の訳やってきた?」
「いや、やってきてないけど」
(またそれか)
「そう。昨日、教科書持って帰るの忘れちゃって、できなかったんだ」
「あ、俺やってきたよ」
「え、ほんと?」
「うん、なんならうつす?」
「でも、佐藤の訳は当てにならないんだよな」
(あ、この坊主、佐藤って言うのか)
「今日はちゃんと辞書見たから大丈夫だよ」
「そう?なら借りよっかな?」
「じゃあ教室で渡すよ」
「うん、お願いね。あれ、でも、かおりんはいいの?」
「いいよ別に。その場でやるから」
(なんでみんな、そんな気にするのかな?)
「でも、やってきてないのばれたら、先生に怒られるよ」
「大丈夫だって」
(でも、怒られるのやだな)
「後で後悔しても知らないよ」
「え、うん」
(後悔なんてしないよ)
窓側の後ろから二番目の席に、男子が座っていた。
「おはよう」
天川があいさつをし、隣に座った。
「おはよう。あ、昨日の渡してくれた?」
「え、昨日のって?」
「あの手紙だよ。手紙」
「あ、渡しといたよ」
「それで、どうだって?」
「どうっていわれても、なんか困ってたみたいだよ」
「え、あ、そう」
「でも、結構うれしそうにもしてたよ」
「ほんと?」
「うん、でもまだ、好きとか嫌いとかわからないって」
「へ~」
「ま、そのうち返事が来るでしょう。あんたなんか大嫌いって」
「そりゃないよ」
「冗談よ、冗談」
「は~、でも返事いつ来るのかな?」
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第6回
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『朝の色』
朝 の 色 は
ベ ー ジ ュ 色
カ ー テ ン の 隙 間 か ら 差 し 込 む
ヒ カ リ 色
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第5回あとがき
[当時]
今回も細かくし過ぎて、話がすごく鈍化してしまいました。
しょうがないから途中飛ばしてしまったところもあります。
それにしても、今回はこの作品よりも
他の作品に使った方がいいような文章でしたね。
[現在]
冒頭の短文の羅列は、今の私が好む作風な気がします。
展開のなにもないお話ですが、
全体から見ると、こんな部分も必要だったのでしょう。
それにしても誰がどの台詞を話しているかわからないですね。
多人数を書くのは、昔も今もずっと苦手なようです。
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