Scarving 1979 : Always Look on the Bright Side of Life

1979年生な視点でちょっと明るく世の中を見てみようかと思います。

「犬(dog)」第5回

2004年06月09日 17時00分00秒 | 物語
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 何気ない朝。

 トースターの焼き終わりの音。

 洗濯機の回る音。

 目覚まし代わりにコンポから流れる、地平線の風のような気持ちのいい音。

 家の前を通り過ぎる車の音。

 遠くに聞こえる踏切の音。

 なにかを焼く音。

 バターの香り。

 カーテンの隙間から朝の光。

 昨日の部屋。

 体はかおりんのもの。

(まだ、僕じゃない。)

 まず、靴下を左足から履き、セーラー服に着替えた。

 時間割を見つめ、教科書を入れ替え、ノートを入れ替え、ジャージを持った。

(僕の朝と変わらないな)

 “トースターの音とバターの香り”の部屋へ向かう。

「あ、おはよう」

「おはよう」

「おはよう」

 部屋に入ったとたん、家族からのお出迎えの言葉。何気ない、いつも通りの朝のあいさつ。

「おはよう」

(やっぱり異世界でも“おはよう”なんだ。昨日もそうだったし、あいさつはみんな、同じなんだな。さわやかだ)

 カリカリ音を立てて、トーストにマーガリンを滑らせる。いちごジャムを滑らせる。

 スクランブルエッグをそのまま食べる。バターの香り。

 少し焦げかけのベーコン。丸めて口に放り込む。

 フォークですくいながら、コーンポタージュスープを飲む。

 雪印3.5牛乳1lパックを、目の前のコップに注ぎ、口に入れ、よく噛んで飲む。

(こんなふうに穏やかな生活、いいな)

 父さんが一番先に食べ終える。食卓から離れる。会社へ向かう。

「いってきます」

「いってらっしゃーい」

「いってらっしゃい」

「いって、らっしゃ~い」

(なんか、家族、してる)

 隆司が食べ終える。トイレに入る。

 かおりんが食べ終える。新聞を読んでみる。

(やっぱ番組、全然違うな。あ、4コマもあるのか。スポーツも違うな。マラソンっていったら、行川でしょ)

 隆司が学校に向かう。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

「いってらっしゃ~い」

(普通だな~)

「かおり、あなたもそろそろ行かないと遅刻よ」

「は~い」

(そういや、どうやって行けばいいんだ?う~ん、ま、なんとかなるだろう)

「あ、お弁当、持ってきなさい」

「え、あ、はい」

(あれ?そういや、僕、これ、昨日カバンの中に入れっぱなしだったよね。いつのまに取り出したんだ?)

 かおりんは“白ブタ”のきんちゃく袋に入った弁当箱を学生カバンに詰め込んで、

「いってきま~す」

「いってらっしゃ~い」

 家を出た。とりあえず前の路地を左に折れてみた。

「おはよう」

 坊主頭で制服の男の子が左から声をかけてきた。

「え、あ、おはよう」

(誰だ、こいつ?ま、いいか。こいつの後付ければ学校行けるだろう)

「今日はゆっくりなんだね。あ、ブラバンの朝練がない日か」

「え、あ、そう」

(なんだ、その白々しい台詞は)

「今日の英語の訳やってきた?」

「え、そんなのあったの?知らなかった」

(宿題か・・・。でも所詮、中学の英語だろ。楽勝だな)

「あ、じゃあ俺の見せてあげようか?」

「え、いいよ」

(この下心見え見えの男はなんなんだ?もしかして手紙の主か?)

「遠慮しないでいいよ。いつも俺が見せてもらってるからそのお返しだよ。ね?」

「いや、本当に要らないよ」

(しつこい奴だな。そういうの嫌われるよ)

「でもさ~」

「学校行ってからやるから」

(も~、このガキ君は)

「あ、そう?でも、わからないとこあったら俺、教えるから」

「うん。そうして」

(わからないとこがあるわけないだろ)

 “坊主頭”はその後、自分の部活について話し続けた。

 かおりんはてきとうに返事をし続けた。

 そして学校に着いた。

「かおりん、おはよう」

 下駄箱でおかっぱの女があいさつをしてきた。

「あ、おはよう」

(だれ?)

「今日の英語の訳やってきた?」

「いや、やってきてないけど」

(またそれか)

「そう。昨日、教科書持って帰るの忘れちゃって、できなかったんだ」

「あ、俺やってきたよ」

「え、ほんと?」

「うん、なんならうつす?」

「でも、佐藤の訳は当てにならないんだよな」

(あ、この坊主、佐藤って言うのか)

「今日はちゃんと辞書見たから大丈夫だよ」

「そう?なら借りよっかな?」

「じゃあ教室で渡すよ」

「うん、お願いね。あれ、でも、かおりんはいいの?」

「いいよ別に。その場でやるから」

(なんでみんな、そんな気にするのかな?)

「でも、やってきてないのばれたら、先生に怒られるよ」

「大丈夫だって」

(でも、怒られるのやだな)

「後で後悔しても知らないよ」

「え、うん」

(後悔なんてしないよ)


 窓側の後ろから二番目の席に、男子が座っていた。

「おはよう」

 天川があいさつをし、隣に座った。

「おはよう。あ、昨日の渡してくれた?」

「え、昨日のって?」

「あの手紙だよ。手紙」

「あ、渡しといたよ」

「それで、どうだって?」

「どうっていわれても、なんか困ってたみたいだよ」

「え、あ、そう」

「でも、結構うれしそうにもしてたよ」

「ほんと?」

「うん、でもまだ、好きとか嫌いとかわからないって」

「へ~」

「ま、そのうち返事が来るでしょう。あんたなんか大嫌いって」

「そりゃないよ」

「冗談よ、冗談」

「は~、でも返事いつ来るのかな?」

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第6回

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『朝の色』

朝 の 色 は

ベ ー ジ ュ 色

カ ー テ ン の 隙 間 か ら 差 し 込 む

ヒ カ リ 色

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第5回あとがき

[当時]
今回も細かくし過ぎて、話がすごく鈍化してしまいました。
しょうがないから途中飛ばしてしまったところもあります。
それにしても、今回はこの作品よりも
他の作品に使った方がいいような文章でしたね。

[現在]
冒頭の短文の羅列は、今の私が好む作風な気がします。
展開のなにもないお話ですが、
全体から見ると、こんな部分も必要だったのでしょう。
それにしても誰がどの台詞を話しているかわからないですね。
多人数を書くのは、昔も今もずっと苦手なようです。

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