第1回 / 第2回 / 第3回 / 第4回 / 第5回 / 第6回
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一つの体育館に、二つの男女がそれぞれ集まった。
二つの男。
「女子、また卓球だぜ。いいな~」
前で体育座りしている小原。
「バレーなんかやりたかねえよな」
「でも、他んとこが試合してる時、休めるからいいじゃん」
「まあ、そうだけど、練習がうざいんだよな」
二つの女。
「かおりん、今日もダブルス、組もうね」
前で体育座りしている山元。
「うん」
(僕かなりうまいよ。ついてこれるかな?)
「ねえ、かおりん。返事、今しちゃいなよ」
斜め前で体育座りしている天川。
「え?」
(向こうに手紙の男子がいるってことか?)
「チャンスだよ、ねえ」
「い、いや、まだいいよ」
(僕が決めちゃまずいって)
「ねえ、返事ってなに?」
「あ、あの体育の出席の返事だよ」
(ばれたら、めんどくさくなりそうだからな)
「天川さん、ほんと?」
「え、うん。早く返事すれば、早く卓球始められるじゃない、だからね」
「あ、確かにそうだね」
「ね、そうでしょ」
(は~、頭弱くてよかった)
二つの男の一つの試合。
「だ~、疲れた~。練習つまんねえよ」
あぐらの小原。
「ああ、最悪だったな」
同じくあぐらの“窓側の後ろから二番目の男子”。
「あ~あ、やっぱ卓球いいよな~、ちくしょ~」
「典子と一緒にいたいからだろ」
足を放り出して座ってる“窓側の後ろから三番目の席の男”。
「あ、そうか。それでおまえ、スパイクの練習んとき女子の方にばっか打ってたのか」
「ちげえよ、偶然だよ」
「いいじゃん、別に。みんな知ってんだから」
「なんだよ」
「早く告白しちゃえばいいじゃんよ」
「そうだよ。だって、こいつなんか、工藤にラブレター10枚も書いたんだぜ」
「え、あの、隣のクラスの?」
「そうそう、あいつ」
「おい、変なこと言うなよ」
「ほんとに?」
「いや、嘘だよ、嘘。俺がそんな事するはずないだろ」
「ほんとだよ、ほんと。さっき、こいつ、天川と話してて注意されたじゃん。あん時このこと話してたんだよ」
「うわ、やば。ラブレター10枚って、おまえ」
「やってないって、ほんとに、も~。あ、そういや、守田。おまえ安部が好きなんだよな」
「え、そうなん?」
「だって、さっき着替えん時、言ってたもん。結婚したいくらい好きだって」
「おい、それ、おまえじゃねえかよ。嘘つくなよ」
「そうか、やっぱ安部が好きだったのか」
「だから、違うって。こいつが勝手に言ってるだけだって」
「照れなくてもいいって、事実なんだから。あ、せっかくだから、おまえ、女子んとこ行って、卓球、ダブルス組んでくればいいじゃん」
「待てよ、それは、小原だろ」
「馬鹿言うなよ。なんで俺がそんなことしなきゃいけねえんだよ。それに、できるわけねえじゃねえかよ」
「でも、できたらやりたいんだろ」
「ま、できたら、やりたいな。あ、でも、卓球をって意味だぞ。典子とって意味じゃねえぞ」
「だから、もういいって。おまえが典子のこと好きなのと、中谷が良子のこと好きなのって、みんな知ってんだから」
「そうそう、でもさ、中谷って、あいつ、毎日のように好きな奴が変わってんじゃねえの?こないだまで朋子だって言ってたじゃん。あいつって、女なら誰でもいいんじゃねえのか?」
「そういやそうだな。典子一筋の小原君、と比べちゃ悪かったな」
「も~、うるさいよ。安部一筋の守田君」
「おい、待てよ、それ違うって。10枚君の嘘だって」
「10枚君って、おまえ、なんだよそれ」
「工藤にラブレター10枚渡した君って具体的に言うよりはいいだろ?」
「なんだよ、この~、・・・あべべのくせに」
「え、あべべ?」
「そ、阿部好きだから、あべべ。いいでしょ」
「なんだよそれ」
「あ、いいじゃん、あべべ。これからよろしくね~、あべべ~」
「うるせ~な。の、のりお」
「のりおってなんだよ」
「典子好きの正雄君の略で、のりお。どうこれ?」
「あべべ、いいよそれ。な、のりお」
「おい、10枚君。あべべってのはやめろよ」
「おまえも、10枚君はなしだろ。ま、でも、あべべはアリだよな、のりお」
「ちょっと待ってよ、のりおは違うよ、10枚君も、あべべもアリだけど」
「違わねえよ、のりおと10枚君だけは、アリだ」
「いや、のりおとあべべだけだって」
―もう、いいですよね。どうせ、こいつらのあだ名は、“窓側の後ろから二番目の男子”は“10枚君”、小原は“のりお”、守田は“あべべ”になるんでしょうからね―
音楽室の片隅で、コントラバスを持つかおりん。
(まいったな、こんなの使い方わかんないよ)
「かおりん」
聞いたことのない女の子の声が、うしろ髪をひいた。
「ん、なに?」
(だれ?)
振り向くとそこには、写真で見た裕子がフルートを持って立っていた。
「あ、裕子」
(って、呼び捨てした方がいいんだよな。それにしてもかわいいな~。写真よりもいいよ。うあ~、なんか一目ぼれって感じ。こんなの初めてだ。僕って、ロリコンか?でも、中2と高2なら別に、大丈夫だよな。ああ、こんな子、彼女にしたいな~。ま、せっかく女になって、気兼ねなく話せるんだから、仲良くなっちゃおうっと)
「…じゃない。ねえ、聞いてる?」
「え、いや、ごめん。ちょっと考えごとしてて」
(裕子のことをね)
「そう、で、今回の曲って、うまくできる?」
「あ、まだ、よく」
(使い方わからない、なんて言えないよな)
「だよね。私もまだ、うまくできないんだ」
「今回の曲、難しいからね」
(わかんないけど、適当に話しあわせておこう)
「そうそう、特に、あの盛り上がりの、ブラスとティンパニーが入ってくるところが難しいんだよね」
「本当、あれは人間業じゃないよね」
(ちょっと言い過ぎか?)
「でも、練習すれば、きっとできるようになるんだよ」
「そうだね」
(僕も練習しなきゃまずいのかな?)
「じゃ、私、今日塾あるから、先帰るね」
「うん、それじゃ。また明日」
(え、もう帰るの?もっと話したいのにな)
「また、明日ね」
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『言葉』
言 葉 は 軽 く
息 を 吐 く よ う に
響 い て
息 を 吸 う よ う に
取 り 入 れ ら れ る
が
言 葉 は 重 い 時 も あ る
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第7回
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第7回あとがき
[当時]
大失敗です。台詞だけで、
同地域、同い年の三人を分けるのは無理がありました。
それでも描写を使わず、最後まで行ってみました。
この作品はいろんな要素を含んだものだって公言してますから、
失敗したとしても、こういう試みもOKですってことで。
[現在]
そんなにも失敗してないです。今読むと。
頭に思い浮かんでる映像をくっつければ、
きっと面白い画になることでしょう。
ちなみに文中の「典子一筋の小原君」をクリックすると、
同時期に書いた、恐るべき文章作品を読むことが出来ます。
リンク先のリンクをクリックしながらお読みください。
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一つの体育館に、二つの男女がそれぞれ集まった。
二つの男。
「女子、また卓球だぜ。いいな~」
前で体育座りしている小原。
「バレーなんかやりたかねえよな」
「でも、他んとこが試合してる時、休めるからいいじゃん」
「まあ、そうだけど、練習がうざいんだよな」
二つの女。
「かおりん、今日もダブルス、組もうね」
前で体育座りしている山元。
「うん」
(僕かなりうまいよ。ついてこれるかな?)
「ねえ、かおりん。返事、今しちゃいなよ」
斜め前で体育座りしている天川。
「え?」
(向こうに手紙の男子がいるってことか?)
「チャンスだよ、ねえ」
「い、いや、まだいいよ」
(僕が決めちゃまずいって)
「ねえ、返事ってなに?」
「あ、あの体育の出席の返事だよ」
(ばれたら、めんどくさくなりそうだからな)
「天川さん、ほんと?」
「え、うん。早く返事すれば、早く卓球始められるじゃない、だからね」
「あ、確かにそうだね」
「ね、そうでしょ」
(は~、頭弱くてよかった)
二つの男の一つの試合。
「だ~、疲れた~。練習つまんねえよ」
あぐらの小原。
「ああ、最悪だったな」
同じくあぐらの“窓側の後ろから二番目の男子”。
「あ~あ、やっぱ卓球いいよな~、ちくしょ~」
「典子と一緒にいたいからだろ」
足を放り出して座ってる“窓側の後ろから三番目の席の男”。
「あ、そうか。それでおまえ、スパイクの練習んとき女子の方にばっか打ってたのか」
「ちげえよ、偶然だよ」
「いいじゃん、別に。みんな知ってんだから」
「なんだよ」
「早く告白しちゃえばいいじゃんよ」
「そうだよ。だって、こいつなんか、工藤にラブレター10枚も書いたんだぜ」
「え、あの、隣のクラスの?」
「そうそう、あいつ」
「おい、変なこと言うなよ」
「ほんとに?」
「いや、嘘だよ、嘘。俺がそんな事するはずないだろ」
「ほんとだよ、ほんと。さっき、こいつ、天川と話してて注意されたじゃん。あん時このこと話してたんだよ」
「うわ、やば。ラブレター10枚って、おまえ」
「やってないって、ほんとに、も~。あ、そういや、守田。おまえ安部が好きなんだよな」
「え、そうなん?」
「だって、さっき着替えん時、言ってたもん。結婚したいくらい好きだって」
「おい、それ、おまえじゃねえかよ。嘘つくなよ」
「そうか、やっぱ安部が好きだったのか」
「だから、違うって。こいつが勝手に言ってるだけだって」
「照れなくてもいいって、事実なんだから。あ、せっかくだから、おまえ、女子んとこ行って、卓球、ダブルス組んでくればいいじゃん」
「待てよ、それは、小原だろ」
「馬鹿言うなよ。なんで俺がそんなことしなきゃいけねえんだよ。それに、できるわけねえじゃねえかよ」
「でも、できたらやりたいんだろ」
「ま、できたら、やりたいな。あ、でも、卓球をって意味だぞ。典子とって意味じゃねえぞ」
「だから、もういいって。おまえが典子のこと好きなのと、中谷が良子のこと好きなのって、みんな知ってんだから」
「そうそう、でもさ、中谷って、あいつ、毎日のように好きな奴が変わってんじゃねえの?こないだまで朋子だって言ってたじゃん。あいつって、女なら誰でもいいんじゃねえのか?」
「そういやそうだな。典子一筋の小原君、と比べちゃ悪かったな」
「も~、うるさいよ。安部一筋の守田君」
「おい、待てよ、それ違うって。10枚君の嘘だって」
「10枚君って、おまえ、なんだよそれ」
「工藤にラブレター10枚渡した君って具体的に言うよりはいいだろ?」
「なんだよ、この~、・・・あべべのくせに」
「え、あべべ?」
「そ、阿部好きだから、あべべ。いいでしょ」
「なんだよそれ」
「あ、いいじゃん、あべべ。これからよろしくね~、あべべ~」
「うるせ~な。の、のりお」
「のりおってなんだよ」
「典子好きの正雄君の略で、のりお。どうこれ?」
「あべべ、いいよそれ。な、のりお」
「おい、10枚君。あべべってのはやめろよ」
「おまえも、10枚君はなしだろ。ま、でも、あべべはアリだよな、のりお」
「ちょっと待ってよ、のりおは違うよ、10枚君も、あべべもアリだけど」
「違わねえよ、のりおと10枚君だけは、アリだ」
「いや、のりおとあべべだけだって」
―もう、いいですよね。どうせ、こいつらのあだ名は、“窓側の後ろから二番目の男子”は“10枚君”、小原は“のりお”、守田は“あべべ”になるんでしょうからね―
音楽室の片隅で、コントラバスを持つかおりん。
(まいったな、こんなの使い方わかんないよ)
「かおりん」
聞いたことのない女の子の声が、うしろ髪をひいた。
「ん、なに?」
(だれ?)
振り向くとそこには、写真で見た裕子がフルートを持って立っていた。
「あ、裕子」
(って、呼び捨てした方がいいんだよな。それにしてもかわいいな~。写真よりもいいよ。うあ~、なんか一目ぼれって感じ。こんなの初めてだ。僕って、ロリコンか?でも、中2と高2なら別に、大丈夫だよな。ああ、こんな子、彼女にしたいな~。ま、せっかく女になって、気兼ねなく話せるんだから、仲良くなっちゃおうっと)
「…じゃない。ねえ、聞いてる?」
「え、いや、ごめん。ちょっと考えごとしてて」
(裕子のことをね)
「そう、で、今回の曲って、うまくできる?」
「あ、まだ、よく」
(使い方わからない、なんて言えないよな)
「だよね。私もまだ、うまくできないんだ」
「今回の曲、難しいからね」
(わかんないけど、適当に話しあわせておこう)
「そうそう、特に、あの盛り上がりの、ブラスとティンパニーが入ってくるところが難しいんだよね」
「本当、あれは人間業じゃないよね」
(ちょっと言い過ぎか?)
「でも、練習すれば、きっとできるようになるんだよ」
「そうだね」
(僕も練習しなきゃまずいのかな?)
「じゃ、私、今日塾あるから、先帰るね」
「うん、それじゃ。また明日」
(え、もう帰るの?もっと話したいのにな)
「また、明日ね」
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『言葉』
言 葉 は 軽 く
息 を 吐 く よ う に
響 い て
息 を 吸 う よ う に
取 り 入 れ ら れ る
が
言 葉 は 重 い 時 も あ る
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第7回
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第7回あとがき
[当時]
大失敗です。台詞だけで、
同地域、同い年の三人を分けるのは無理がありました。
それでも描写を使わず、最後まで行ってみました。
この作品はいろんな要素を含んだものだって公言してますから、
失敗したとしても、こういう試みもOKですってことで。
[現在]
そんなにも失敗してないです。今読むと。
頭に思い浮かんでる映像をくっつければ、
きっと面白い画になることでしょう。
ちなみに文中の「典子一筋の小原君」をクリックすると、
同時期に書いた、恐るべき文章作品を読むことが出来ます。
リンク先のリンクをクリックしながらお読みください。
でも私が本を読めない理由が、
変に凝ろうとダラダラしてる、
行動描写やら心理描写やらなので、
私の読めるように書くとスッキリこうなるのです。