第1回 / 第2回 / 第3回 / 第4回 / 第5回 / 第6回 / 第7回 / 第8回
第9回
---
1ヶ月後
「なんで私が言わなきゃいけないのよ」
「いいじゃん、別に」
窓側の後ろから二番目の男女は、相変わらず授業中にお喋りをしていた。
「よくないわよ、あんたが言えばいいでしょ」
「だっ、俺が言ったらおかしいだろ」
「おかしくないわよ」
「いや、絶対変だって」
「変でも、見つけた人が言うのが普通でしょ」
「おまえな、そりゃヘリクツだよ」
「ヘリクツでもいいよ~だ、私は絶対に言わないからね」
「あ~、じゃ俺も言わねえや」
「なによそれ、卑怯じゃない」
「卑怯でもなんでもいいだろ、別に関係ねえんだから」
「あんたね、カワイソウだとか思わないの」
「なんだよ、そんなこと言うならおまえが言えばいいじゃん」
「いやよ、恥ずかしいもん」
「だろ、だから言わなくていいんだよ」
「でもさ、言っといた方がいいって。ねっ」
そう言いながら、右手で男子の左肩をポンと叩く天川。
「待てよ、女のおまえが恥ずかしいってんだから、男の俺が言えると思うか」
「あんたなら言えんじゃないの」
「バカ、そんなはずねえだろ」
「バカまで言うことないじゃない」
「実際バカなんだからしょうがねえだろ」
「も~、バカって言う方がバカなんだよ」
「おい、今時そんなの、幼稚園生でも言わねえぜ」
「そんなことないよ、私の妹、小4だけどよく言ってるよ」
「じゃ、おまえらがバカ兄弟だってことだよ」
「あんた、それチョット言い過ぎじゃない?」
「言い過ぎじゃない」
「ふざけないでよ」
「天川さん、静かにしなさい」
大きすぎた天川の声に、大人の一言が教室中に響く。
「・・・はい」
「いぇ~、怒られてやんの」
「あんたのせいじゃない」
「え、そうだった?」
「あんたね~」
「ま、そう気にすんなよ」
「気にするわよ」
「そりゃあ、わるうございました、お嬢様」
「また、それやる~」
「なんだ、ノってくれよ」
「・・・よかよか、許すぞ、爺」
「はは~、ありがたき幸せでございます~」
「あんた、ほんと、これ好きだよね」
「好きなのはおまえだろ、俺が合わせてやってんだよ」
「人のせいにしないでよ」
「してねえよ、真実を言ったまでだよ」
「まあ、たしかに嫌いじゃないけど」
「ほら~」
「・・・うん、だね」
昼休み。
隣の教室。
かおりんと山元が2人向き合って話をしていた。
「っふ~ん、そうなんだ」
(やっぱ、異世界だから違うんだな)
「あ、ねえねえねえ、ちょっと話し変わるけどさ、佐藤のことどう思う?」
「え、いや、別になんとも」
(あいつ、わざとらしくて嫌いなんだよな)
「そう・・・」
「ん、それがどうしたの?」
(突然何なんだろう)
「え、いや、ただ聞いてみただけ」
「もしかして、好きなの?」
(まさかとは思うけどね)
「ち、ちが・・・わない。うん、好きなんだ」
「へ~」
(本当に?あんな、奴のどこがいいんだろう)
「ね、もしなにかあったら協力してくれない?」
「うん、いいよ、喜んで」
(って言っとかないとね)
「ありがと~、かおりん」
山元は、かおりんの両手を各々掴んで振りながらそう言った。
「いや~、まかせといてよ」
(やばいな~、すごい喜んじゃってる)
「お願い、なんかあったら絶対協力してね」
両手を掴んだまま顔を近づけてきた。
「は、はい」
(すごい迫力だよ)
暗室の流し台にへばりついてるかおりんの写真。
〈あ~、いつになったら返事来るんだろ~な〉
少年は、スポンジの飛び出した椅子の背もたれに体を預け、赤のライトを見つめていた。
トントン
「はいってますか~?」
黒のカーテンの向こうにある扉から聞こえてきたノック音と男の声。
「あ、今、ズボン上げてる最中なんで、もうちょっとお待ち下さい」
少年はそう言いながら立ち上がり、扉に近づいていった。
ドンドンドン、ガチャガチャガチャ
「ちょっと、早くして下さいよ、漏れちゃいますよ」
強くなったノック音、鍵のかかったノブを強引に回す音、そして男の声。
「じゃ、漏らして下さい」
少年は、つまみを左に回し、鍵を開けた。
「よ」
男は扉を開けるとすぐに、右手を上げながらそう言った。
「なんだよ、ハンナマ。ここ使うのか?」
「いや、別に。暇だったから来てみただけ」
「そんなら、久我石鹸でも作ってろよ。俺は忙しいんだよ」
「何処が忙しいんだよ。何にもしてねえじゃねえか」
整頓された暗室の中を指差しながら、ハンナマ。
「え、お前には見えないの?薬品とか全部出てるじゃん」
「いや~、見えませんね~」
「そうですか。え~、ではですね、そこの突き当たりを左に曲がると泌尿器科がありますから、そこで診察を受けて下さい」
少年は、正面の窓を指差しながらそう言った。
「あの~、今日受診カード忘れちゃったんですけど」
「ふふふっ、は、は、バ~カ」
「なんだよ」
「ほんと、お前くだんねえな」
「そりゃ、お前だろ」
「ま、ともかく、よいこはお外で遊びなさ~い」
少年は、またも正面の窓を指差しながらそう言った。
「え~、でも、ちゅまんない~」
「ゴリとか、モナカとかいるだろ、そいつらと遊んでろよ」
「だって、今、誰もいないんだも~ん」
「嘘つくなよ、声聞こえてきてんじゃねえか」
「あれは、あれだよ。あの、・・・ゴーストライター」
「なっに、わけわかんねえこと言ってんだよ」
「ともかく、入れてくれよ」
「じゃ、入場料5000円な」
「あらま、お安いわね」
「そのかわり、テーブルチャージ料6千万円頂きます」
「ほんと、も~さ~、いいから入れろよ」
「ダメ~」
「も~、そんなことすゆと、健ちゃんぶつぞ」
ハンナマは右腕を上げ、げんこつのポーズを取った。
「わかったわかった、じゃ俺が外に出るよ」
「い~よ~、別に~」
「なんだよ、それ。じゃ、また戻るぞ」
「冗談冗談」
「ま、いいや。じゃさ、また静電気グルグルやろうぜ」
「お、いいね~」
カーテンの隙間から赤い西日の射す音楽室。
「すっごい、うまかったよ」
そう言いながら裕子は、軽く手を叩き合わせた。
「そう?」
(やった、誉められたよ)
演奏を終え、座りながら答えるかおりん。
「うん、ほんと、すごいすごい」
「それほどでもないよ」
(なんか照れるな)
「頑張ったんだね」
「うん、まあ、それなりに。でも、まだ裕子の方がうまいよ」
(毎日練習し続けたけど、まだかなわないよ)
「そんなことないって、かおりんの方がずっとうまいよ」
「え~、だって、私まだ失敗するとこあるじゃん」
(あのコード進行、難しいんだもん)
「でも、なんか心がこもってるって感じがして、すごくいいよ」
「そう?」
(こんなに誉められると、恥ずかしいな)
「うん。私のなんて失敗はしないけど、心がこもってないと思うの」
「そうかな~?結構心に響くものあるよ」
(よくわからないけど)
「ありがと。・・・でも、私も頑張らなきゃ」
「そうだね、一緒に頑張ろ」
(あ、なんか青春ドラマみたい)
そう言いながらかおりんは、右手を差し出した。
「え、あ、う、うん」
裕子はうつむきながら、その手をそっと握った。
少女達の太陽はまだ小さい。
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『瞬間』
一 日 は
な に げ な く
そ れ と な く
流 れ て い く も の だ か ら
そ の 瞬 間 が
楽 し け れ ば い い し
そ の 瞬 間 の
楽 し み し か 考 え ら れ な い
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第11回
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第10回あとがき
[当時]
今回は、特にくだらないなと感じると思います。
ですが、そう思って頂ければ成功なんです。
やっぱり日常というのは、
大抵くだらない話題で笑っているものなんだと思うんです。
また、内容は前の繰り返しのようですが、
それもやはり日常だと思うんです。
[現在]
7年前から日常の解釈については、
変わらないものがありますね。
今では普通のくだらない会話を物語に入れ込むのは、
とても普通ですけど、トレンディードラマ全盛の当時は、
そんなでなかった気もします。
男はバカで女子は真面目、この解釈も今と同じですね。
第9回
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1ヶ月後
「なんで私が言わなきゃいけないのよ」
「いいじゃん、別に」
窓側の後ろから二番目の男女は、相変わらず授業中にお喋りをしていた。
「よくないわよ、あんたが言えばいいでしょ」
「だっ、俺が言ったらおかしいだろ」
「おかしくないわよ」
「いや、絶対変だって」
「変でも、見つけた人が言うのが普通でしょ」
「おまえな、そりゃヘリクツだよ」
「ヘリクツでもいいよ~だ、私は絶対に言わないからね」
「あ~、じゃ俺も言わねえや」
「なによそれ、卑怯じゃない」
「卑怯でもなんでもいいだろ、別に関係ねえんだから」
「あんたね、カワイソウだとか思わないの」
「なんだよ、そんなこと言うならおまえが言えばいいじゃん」
「いやよ、恥ずかしいもん」
「だろ、だから言わなくていいんだよ」
「でもさ、言っといた方がいいって。ねっ」
そう言いながら、右手で男子の左肩をポンと叩く天川。
「待てよ、女のおまえが恥ずかしいってんだから、男の俺が言えると思うか」
「あんたなら言えんじゃないの」
「バカ、そんなはずねえだろ」
「バカまで言うことないじゃない」
「実際バカなんだからしょうがねえだろ」
「も~、バカって言う方がバカなんだよ」
「おい、今時そんなの、幼稚園生でも言わねえぜ」
「そんなことないよ、私の妹、小4だけどよく言ってるよ」
「じゃ、おまえらがバカ兄弟だってことだよ」
「あんた、それチョット言い過ぎじゃない?」
「言い過ぎじゃない」
「ふざけないでよ」
「天川さん、静かにしなさい」
大きすぎた天川の声に、大人の一言が教室中に響く。
「・・・はい」
「いぇ~、怒られてやんの」
「あんたのせいじゃない」
「え、そうだった?」
「あんたね~」
「ま、そう気にすんなよ」
「気にするわよ」
「そりゃあ、わるうございました、お嬢様」
「また、それやる~」
「なんだ、ノってくれよ」
「・・・よかよか、許すぞ、爺」
「はは~、ありがたき幸せでございます~」
「あんた、ほんと、これ好きだよね」
「好きなのはおまえだろ、俺が合わせてやってんだよ」
「人のせいにしないでよ」
「してねえよ、真実を言ったまでだよ」
「まあ、たしかに嫌いじゃないけど」
「ほら~」
「・・・うん、だね」
昼休み。
隣の教室。
かおりんと山元が2人向き合って話をしていた。
「っふ~ん、そうなんだ」
(やっぱ、異世界だから違うんだな)
「あ、ねえねえねえ、ちょっと話し変わるけどさ、佐藤のことどう思う?」
「え、いや、別になんとも」
(あいつ、わざとらしくて嫌いなんだよな)
「そう・・・」
「ん、それがどうしたの?」
(突然何なんだろう)
「え、いや、ただ聞いてみただけ」
「もしかして、好きなの?」
(まさかとは思うけどね)
「ち、ちが・・・わない。うん、好きなんだ」
「へ~」
(本当に?あんな、奴のどこがいいんだろう)
「ね、もしなにかあったら協力してくれない?」
「うん、いいよ、喜んで」
(って言っとかないとね)
「ありがと~、かおりん」
山元は、かおりんの両手を各々掴んで振りながらそう言った。
「いや~、まかせといてよ」
(やばいな~、すごい喜んじゃってる)
「お願い、なんかあったら絶対協力してね」
両手を掴んだまま顔を近づけてきた。
「は、はい」
(すごい迫力だよ)
暗室の流し台にへばりついてるかおりんの写真。
〈あ~、いつになったら返事来るんだろ~な〉
少年は、スポンジの飛び出した椅子の背もたれに体を預け、赤のライトを見つめていた。
トントン
「はいってますか~?」
黒のカーテンの向こうにある扉から聞こえてきたノック音と男の声。
「あ、今、ズボン上げてる最中なんで、もうちょっとお待ち下さい」
少年はそう言いながら立ち上がり、扉に近づいていった。
ドンドンドン、ガチャガチャガチャ
「ちょっと、早くして下さいよ、漏れちゃいますよ」
強くなったノック音、鍵のかかったノブを強引に回す音、そして男の声。
「じゃ、漏らして下さい」
少年は、つまみを左に回し、鍵を開けた。
「よ」
男は扉を開けるとすぐに、右手を上げながらそう言った。
「なんだよ、ハンナマ。ここ使うのか?」
「いや、別に。暇だったから来てみただけ」
「そんなら、久我石鹸でも作ってろよ。俺は忙しいんだよ」
「何処が忙しいんだよ。何にもしてねえじゃねえか」
整頓された暗室の中を指差しながら、ハンナマ。
「え、お前には見えないの?薬品とか全部出てるじゃん」
「いや~、見えませんね~」
「そうですか。え~、ではですね、そこの突き当たりを左に曲がると泌尿器科がありますから、そこで診察を受けて下さい」
少年は、正面の窓を指差しながらそう言った。
「あの~、今日受診カード忘れちゃったんですけど」
「ふふふっ、は、は、バ~カ」
「なんだよ」
「ほんと、お前くだんねえな」
「そりゃ、お前だろ」
「ま、ともかく、よいこはお外で遊びなさ~い」
少年は、またも正面の窓を指差しながらそう言った。
「え~、でも、ちゅまんない~」
「ゴリとか、モナカとかいるだろ、そいつらと遊んでろよ」
「だって、今、誰もいないんだも~ん」
「嘘つくなよ、声聞こえてきてんじゃねえか」
「あれは、あれだよ。あの、・・・ゴーストライター」
「なっに、わけわかんねえこと言ってんだよ」
「ともかく、入れてくれよ」
「じゃ、入場料5000円な」
「あらま、お安いわね」
「そのかわり、テーブルチャージ料6千万円頂きます」
「ほんと、も~さ~、いいから入れろよ」
「ダメ~」
「も~、そんなことすゆと、健ちゃんぶつぞ」
ハンナマは右腕を上げ、げんこつのポーズを取った。
「わかったわかった、じゃ俺が外に出るよ」
「い~よ~、別に~」
「なんだよ、それ。じゃ、また戻るぞ」
「冗談冗談」
「ま、いいや。じゃさ、また静電気グルグルやろうぜ」
「お、いいね~」
カーテンの隙間から赤い西日の射す音楽室。
「すっごい、うまかったよ」
そう言いながら裕子は、軽く手を叩き合わせた。
「そう?」
(やった、誉められたよ)
演奏を終え、座りながら答えるかおりん。
「うん、ほんと、すごいすごい」
「それほどでもないよ」
(なんか照れるな)
「頑張ったんだね」
「うん、まあ、それなりに。でも、まだ裕子の方がうまいよ」
(毎日練習し続けたけど、まだかなわないよ)
「そんなことないって、かおりんの方がずっとうまいよ」
「え~、だって、私まだ失敗するとこあるじゃん」
(あのコード進行、難しいんだもん)
「でも、なんか心がこもってるって感じがして、すごくいいよ」
「そう?」
(こんなに誉められると、恥ずかしいな)
「うん。私のなんて失敗はしないけど、心がこもってないと思うの」
「そうかな~?結構心に響くものあるよ」
(よくわからないけど)
「ありがと。・・・でも、私も頑張らなきゃ」
「そうだね、一緒に頑張ろ」
(あ、なんか青春ドラマみたい)
そう言いながらかおりんは、右手を差し出した。
「え、あ、う、うん」
裕子はうつむきながら、その手をそっと握った。
少女達の太陽はまだ小さい。
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『瞬間』
一 日 は
な に げ な く
そ れ と な く
流 れ て い く も の だ か ら
そ の 瞬 間 が
楽 し け れ ば い い し
そ の 瞬 間 の
楽 し み し か 考 え ら れ な い
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第11回
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第10回あとがき
[当時]
今回は、特にくだらないなと感じると思います。
ですが、そう思って頂ければ成功なんです。
やっぱり日常というのは、
大抵くだらない話題で笑っているものなんだと思うんです。
また、内容は前の繰り返しのようですが、
それもやはり日常だと思うんです。
[現在]
7年前から日常の解釈については、
変わらないものがありますね。
今では普通のくだらない会話を物語に入れ込むのは、
とても普通ですけど、トレンディードラマ全盛の当時は、
そんなでなかった気もします。
男はバカで女子は真面目、この解釈も今と同じですね。
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