Scarving 1979 : Always Look on the Bright Side of Life

1979年生な視点でちょっと明るく世の中を見てみようかと思います。

「犬(dog)」第10回

2004年06月22日 12時00分00秒 | 物語
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1ヶ月後

「なんで私が言わなきゃいけないのよ」

「いいじゃん、別に」

 窓側の後ろから二番目の男女は、相変わらず授業中にお喋りをしていた。

「よくないわよ、あんたが言えばいいでしょ」

「だっ、俺が言ったらおかしいだろ」

「おかしくないわよ」

「いや、絶対変だって」

「変でも、見つけた人が言うのが普通でしょ」

「おまえな、そりゃヘリクツだよ」

「ヘリクツでもいいよ~だ、私は絶対に言わないからね」

「あ~、じゃ俺も言わねえや」

「なによそれ、卑怯じゃない」

「卑怯でもなんでもいいだろ、別に関係ねえんだから」

「あんたね、カワイソウだとか思わないの」

「なんだよ、そんなこと言うならおまえが言えばいいじゃん」

「いやよ、恥ずかしいもん」

「だろ、だから言わなくていいんだよ」

「でもさ、言っといた方がいいって。ねっ」

 そう言いながら、右手で男子の左肩をポンと叩く天川。

「待てよ、女のおまえが恥ずかしいってんだから、男の俺が言えると思うか」

「あんたなら言えんじゃないの」

「バカ、そんなはずねえだろ」

「バカまで言うことないじゃない」

「実際バカなんだからしょうがねえだろ」

「も~、バカって言う方がバカなんだよ」

「おい、今時そんなの、幼稚園生でも言わねえぜ」

「そんなことないよ、私の妹、小4だけどよく言ってるよ」

「じゃ、おまえらがバカ兄弟だってことだよ」

「あんた、それチョット言い過ぎじゃない?」

「言い過ぎじゃない」

「ふざけないでよ」

「天川さん、静かにしなさい」

 大きすぎた天川の声に、大人の一言が教室中に響く。

「・・・はい」

「いぇ~、怒られてやんの」

「あんたのせいじゃない」

「え、そうだった?」

「あんたね~」

「ま、そう気にすんなよ」

「気にするわよ」

「そりゃあ、わるうございました、お嬢様」

「また、それやる~」

「なんだ、ノってくれよ」

「・・・よかよか、許すぞ、爺」

「はは~、ありがたき幸せでございます~」

「あんた、ほんと、これ好きだよね」

「好きなのはおまえだろ、俺が合わせてやってんだよ」

「人のせいにしないでよ」

「してねえよ、真実を言ったまでだよ」

「まあ、たしかに嫌いじゃないけど」

「ほら~」

「・・・うん、だね」



 昼休み。

 隣の教室。

 かおりんと山元が2人向き合って話をしていた。

「っふ~ん、そうなんだ」

(やっぱ、異世界だから違うんだな)

「あ、ねえねえねえ、ちょっと話し変わるけどさ、佐藤のことどう思う?」

「え、いや、別になんとも」

(あいつ、わざとらしくて嫌いなんだよな)

「そう・・・」

「ん、それがどうしたの?」

(突然何なんだろう)

「え、いや、ただ聞いてみただけ」

「もしかして、好きなの?」

(まさかとは思うけどね)

「ち、ちが・・・わない。うん、好きなんだ」

「へ~」

(本当に?あんな、奴のどこがいいんだろう)

「ね、もしなにかあったら協力してくれない?」

「うん、いいよ、喜んで」

(って言っとかないとね)

「ありがと~、かおりん」

 山元は、かおりんの両手を各々掴んで振りながらそう言った。

「いや~、まかせといてよ」

(やばいな~、すごい喜んじゃってる)

「お願い、なんかあったら絶対協力してね」

 両手を掴んだまま顔を近づけてきた。

「は、はい」

(すごい迫力だよ)



 暗室の流し台にへばりついてるかおりんの写真。

〈あ~、いつになったら返事来るんだろ~な〉

 少年は、スポンジの飛び出した椅子の背もたれに体を預け、赤のライトを見つめていた。

トントン

「はいってますか~?」

 黒のカーテンの向こうにある扉から聞こえてきたノック音と男の声。

「あ、今、ズボン上げてる最中なんで、もうちょっとお待ち下さい」

 少年はそう言いながら立ち上がり、扉に近づいていった。

ドンドンドン、ガチャガチャガチャ

「ちょっと、早くして下さいよ、漏れちゃいますよ」

 強くなったノック音、鍵のかかったノブを強引に回す音、そして男の声。

「じゃ、漏らして下さい」

 少年は、つまみを左に回し、鍵を開けた。

「よ」

 男は扉を開けるとすぐに、右手を上げながらそう言った。

「なんだよ、ハンナマ。ここ使うのか?」

「いや、別に。暇だったから来てみただけ」

「そんなら、久我石鹸でも作ってろよ。俺は忙しいんだよ」

「何処が忙しいんだよ。何にもしてねえじゃねえか」

 整頓された暗室の中を指差しながら、ハンナマ。

「え、お前には見えないの?薬品とか全部出てるじゃん」

「いや~、見えませんね~」

「そうですか。え~、ではですね、そこの突き当たりを左に曲がると泌尿器科がありますから、そこで診察を受けて下さい」

 少年は、正面の窓を指差しながらそう言った。

「あの~、今日受診カード忘れちゃったんですけど」

「ふふふっ、は、は、バ~カ」

「なんだよ」

「ほんと、お前くだんねえな」

「そりゃ、お前だろ」

「ま、ともかく、よいこはお外で遊びなさ~い」

 少年は、またも正面の窓を指差しながらそう言った。

「え~、でも、ちゅまんない~」

「ゴリとか、モナカとかいるだろ、そいつらと遊んでろよ」

「だって、今、誰もいないんだも~ん」

「嘘つくなよ、声聞こえてきてんじゃねえか」

「あれは、あれだよ。あの、・・・ゴーストライター」

「なっに、わけわかんねえこと言ってんだよ」

「ともかく、入れてくれよ」

「じゃ、入場料5000円な」

「あらま、お安いわね」

「そのかわり、テーブルチャージ料6千万円頂きます」

「ほんと、も~さ~、いいから入れろよ」

「ダメ~」

「も~、そんなことすゆと、健ちゃんぶつぞ」

 ハンナマは右腕を上げ、げんこつのポーズを取った。

「わかったわかった、じゃ俺が外に出るよ」

「い~よ~、別に~」

「なんだよ、それ。じゃ、また戻るぞ」

「冗談冗談」

「ま、いいや。じゃさ、また静電気グルグルやろうぜ」

「お、いいね~」



 カーテンの隙間から赤い西日の射す音楽室。

「すっごい、うまかったよ」

 そう言いながら裕子は、軽く手を叩き合わせた。

「そう?」

(やった、誉められたよ)

 演奏を終え、座りながら答えるかおりん。

「うん、ほんと、すごいすごい」

「それほどでもないよ」

(なんか照れるな)

「頑張ったんだね」

「うん、まあ、それなりに。でも、まだ裕子の方がうまいよ」

(毎日練習し続けたけど、まだかなわないよ)

「そんなことないって、かおりんの方がずっとうまいよ」

「え~、だって、私まだ失敗するとこあるじゃん」

(あのコード進行、難しいんだもん)

「でも、なんか心がこもってるって感じがして、すごくいいよ」

「そう?」

(こんなに誉められると、恥ずかしいな)

「うん。私のなんて失敗はしないけど、心がこもってないと思うの」

「そうかな~?結構心に響くものあるよ」

(よくわからないけど)

「ありがと。・・・でも、私も頑張らなきゃ」

「そうだね、一緒に頑張ろ」

(あ、なんか青春ドラマみたい)

 そう言いながらかおりんは、右手を差し出した。

「え、あ、う、うん」

 裕子はうつむきながら、その手をそっと握った。

 少女達の太陽はまだ小さい。

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『瞬間』

一 日 は

な に げ な く

そ れ と な く

流 れ て い く も の だ か ら

 

そ の 瞬 間 が

楽 し け れ ば い い し

 

そ の 瞬 間 の

楽 し み し か 考 え ら れ な い

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第11回

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第10回あとがき

[当時]
今回は、特にくだらないなと感じると思います。
ですが、そう思って頂ければ成功なんです。
やっぱり日常というのは、
大抵くだらない話題で笑っているものなんだと思うんです。
また、内容は前の繰り返しのようですが、
それもやはり日常だと思うんです。

[現在]
7年前から日常の解釈については、
変わらないものがありますね。
今では普通のくだらない会話を物語に入れ込むのは、
とても普通ですけど、トレンディードラマ全盛の当時は、
そんなでなかった気もします。
男はバカで女子は真面目、この解釈も今と同じですね。

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