Scarving 1979 : Always Look on the Bright Side of Life

1979年生な視点でちょっと明るく世の中を見てみようかと思います。

「intermission」

2004年06月24日 13時00分00秒 | 短編


今の私は、空白です。

 

自分自身を正当化することが、もう出来なくなっています。

何処の空を見つめれば、瞳は潤むのでしょうか。

丸い赤木の椅子で埃を拭き取れるような淡白い折柄空の下では、幸福は掴めそうにありません。

昔の温かな温もりに包まれてみても、瞬間だけで冷えてしまいます。

 

今までの私が、残したもの。

人の内側に刻んだ、ささやかな傷。

薄茶色の紙で渡した、ホンの少しの幸せ。

そのくらいしか、ありません。

 

逃げて行く景色の中にある、色違いのシート。

いつも少し離れて、窓の境界に寄り掛かっています。

上と左右から吹いてくる、香りの違う風。

摺り足の中で本をめくる人は、とても嫌いです。

たったひとつの、怒り事。

しばらく待てば、消えるでしょう。

 

そして針は動き、長方形に沿える。

新しい空気に、人は波をつくる。

黄色のパネルに、見上げられて。

 

私の足で、青い空は動きます。

鳴り響く黒いゴム底を、交互に差し出しているだけで。

私は知らない、遠くに行きます。

目をつむることに、何度出逢ったのでしょうか。

重ね着のシャッツが、反対側に揺れています。

 

暑い光を、浴びました。

ぽっかり浮かぶ、波の上。

ふたつの青に囲まれて、私の白は際立ちます。

流してくれるのは、月と風の引力。

外から見ればゆっくりと、私は素早く移ろいで行きます。

けれども氷は溶けることなく内側の気泡をひとつ、ポッと音を鳴らすだけ。

本当の安らぎは、やはりひとりでは得られません。

赤い光に、紫は生まれませんでした。

少し後に、疎ら水玉の紺色が広がりました。

 

18世紀の、彼方の中。

感じたことのない肌触りの生地を、ふたつ折りにします。

両手を組むだけのお祈りをして、瞼裏を覗きます。

 

音は鳴らず、白黒のままで。

 

香りのある夢が、映りました。

ともだちの笑顔が、映りました。

 

 

光の両手を広げ、朝を迎えました。

 

今の私は、空白です。



---
あとがき

[当時]
この作品では、とにかく引き算をしようと心がけました。
言葉を簡素化することで、
主人公の気持ちの痛さを強く伝えてみたかったんです。
今までの短編作品と比べると
少し毛色が違う雰囲気になっていますが、
ストーリーが存在しない分、
詩の延長線上にあるように捉えてもらえると思います。
思考ではなく、感覚で読んでみて下さい。

[現在]
この作品は2000年5月2日に書かれたそうです。
今までの短編作品を掲載してないので比べようもないですが、
この作品は言葉を紡ぐことだけにこだわっており、
もはやよくわからないとこになってます。
つまりはチョットした勘違い作品ですね。
遠く、飛んで行きそうです。
サトエリみたい。

「お見合い」

2004年06月13日 11時29分32秒 | 短編
「それでは、あとは若いもの同士ってことで・・・」

 ありきたりの決まり文句を床に転がし、中年女が3人立ち去っていった。

「ふ~っ。あ~、疲れた」

 男は、右手でうなじを押さえながら左回しに2回半首を回した。

「・・・」

 女は、無言のままハンケチで口を覆い、膝元の模様を眺めていた。

「こういうのって、なんか、疲れません?」

 男が、どこそことなく下を指差しながら、そう言った。

「え、あ、はい、そうですね」

 女は、焦点のあっていない瞳で、男の後ろにあるふすまの柄を見つめた。

「俺、駄目なんっすよ、こういう堅苦しいのって」

「はあ」

「こんな、障子に金糸なんか散りばめちゃって、何様のつもりなんでしょうね」

「え、ええ」

「えっと・・・、あ、あ、」

 男は、右手で女を指差しながら、左手で髪を掻き揚げた。

「あ、亜由美です」

「そう、亜由美さんは、こういうのってどうなんっすか?」

「いや、あの、あんまり、得意ではないです」

「ですよね~、やっぱ、みんなそうなんっすよね~」

「あ、あの・・・」

「はい?なんっすか?」

「ご趣味は・・・」

「え、趣味っすか?そうっすね~・・・、釣りと、スノボーと、パソコンってところっすかね」

「あ、そうなんですか」

「ちょっと意外でしょ?俺がパソコンなんて言うの」

「いえ、そんなことは・・・」

「一応、流行りモノにはなんでも手出しておきたいんっすよ。とりあえず、やってみないことには損じゃないですか。人生一回しかないんだし」

「あ、ご立派な考えですね」

「いや~、そんなことないっすよ。ただやりたいことやっちゃってるだけっすから。で、亜由美さんの趣味は何なんっすか?」

「え、あ、私は、料理と、音楽鑑賞です」

「料理ですか。いや~、いいっすね~。なんかエプロン姿が目に浮かんできますよ」

「そんな。おままごと程度ですから」

「また~、そんな謙遜しなくてもいいっすよ。手見れば、料理ちゃんとやってるのわかりますから」

「え、あ」

 女は、下を向き自分の少しくすんだ両手を眺めた。

「俺、そういう女性って好きなんっすよね」

「え、は、はあ」

「ははっ、ちっと柄にもねえこと言っちたな。あ、それで、音楽ってどういうの聴くんっすか?」

「えっ、洋楽だとSIMON&GARFUNKEL、CHICAGO、CARPENTERS、ENYA、ELTON JOHN。邦楽だと、cocco、TRICERATOPSなんかを聴いてます」

「は~、結構渋めっすね。俺は、洋楽だと、oasis、verve、RADIOHEAD、U2、QUEEN、BEATLES、スマパン、・・・ま、その他大勢って感じで、邦楽は、あんま聴かないけど、MULTIMAXなんかが好きっすね」

「あ、私も、BEATLES好きです」

「そうなんっすか。俺、赤盤、青盤以外のレコードは全部持ってるんっすよ」

「え、CDじゃなくて、レコードでですか?」

「そうっすよ。オリジナルアルバムは全部持ってます」

「すごいですね~」

「いや、ま、ほとんど伯父さんから貰ったんっすけどね。あ、でも、俺もサイモン&ガーファンクルとかシカゴ好きっすよ。一時期、シカゴのプロデューサーのデビッド・フォスターにハマってましたし」

「へ~」

「あの、“サウンドオブサイレンス”が主題歌になった映画、『卒業』も好きっすよ」

「あ、私もです」

「ラストシーンのダスティー・ホフマン、かっこいいっすよね」

「そうなんですよ、あれ、最高ですよね」

「そういえば、このお見合いって大丈夫ですか?」

「え?」

「いや、よくドラマとか漫画であるじゃないですか、本当は、彼氏がいるのに、お見合いしちゃって、その彼氏とその友達が、お見合いを潰そうとするようなやつ。ああいうのないっすよね?」

「え、ありませんよ~」

「本当ですか~?そんなこと言って、さっきの仲居さんが、友達だとかなんじゃないんですか~?」

「そんなはずないじゃないですか~」

「もうそろそろ、あの障子が開いて、男が入ってくるとか」

「ないですって」

「ま、ならいいんっすけどね。・・・あ、外でも散歩してみます?」

「え、あ、はい」

 緑と灰色と透明の輝きに包まれた空間。

 男と亜由美は、歩きながら、三針間程、互いのことを喋りあっていた。

「・・・いや~、にしても、天気いいっすね~」

「そうですね」

「俺、いつも、晴れ男って呼ばれてるんっすよ」

「は~、それで、晴れてるのかもしれませんね」

「そうかもしれないっすね」

「あ、実は、私も、晴れ女とかって呼ばれてるんです」

「そうなんっすか。それなら、ダブルで、もう無敵っすね」

「無敵、ですね」

「あ、そろそろ時間になりそうですから、また戻ります?」

 男は、左手首にはめた銀色のATTESAを見ながら、そう尋ねた。

「え、ええ」

 ベージュと茶色と草色に囲まれた部屋。

「ふっ~。なんかたまに歩くと、疲れますね」

「そうですね」

「普段、車ばっかで移動してると、歩く機会ってそうないっすからね」

「ええ」

「あ、免許持ってるんっすか?」

「ペーパーですけど、一応」

「そうなんっすか。いや~、一度、助手席に乗ってみたいっすね」

「そんな、無理ですよ」

「やればできますって。仮にも免許取れてるんっすから」

「でも、仮免、2回ほど落ちてますし」

「そんなの大丈夫っすよ、俺も1回落ちてますから」

「実技の方ですよ」

「そうですよ、そっちで1回落ちたんっすよ。筆記の方は1回も落ちたことありませんよ。こう見えても俺、結構頭いいんっすから。って、自分で言う台詞じゃありませんね」

「あ、そうなんですか、ごめんなさい」

「いや、いいっすよ、気にしてないっすから」

「でも、ほんと、ごめんなさい」



ボ~ンボ~ンボ~ン

遠くにある柱時計が、三回鐘を鳴らした。



「は~、じゃ、そろそろ離婚でもしますか」

「あ、ええ」

「離婚届は書いてきたか?」

「書いてきたわよ、ほら」

 亜由美は、持っていたカバンを開け、一枚の紙を男に差し出した。

「おお、印も押してあるな」

「早く、あなたも書いてよ」

「はいはい。・・・あ、ペンかしてくんない?」

「しょうがないわね~」

 亜由美は、持っていたカバンを開け、一本のペンを差し出した。

「どうも」

 男は、それを受け取ると、太枠の欄から先に、書き始めた。

「も~、なんでこんなことしなきゃいけなかったのよ」

「こうやって他人行儀にした方が、なんか別れやすいだろ」

「確かにそうかもしれないけど」

「それに、おまえも、新鮮な気持ちになれただろ。俺に“亜由美さん”なんて呼ばれて」

「え、なんか、こそばゆくてしょうがなかったわよ」

「そうか~?んなこと言って、本当は結構嬉しかったんじゃないのか?」

「そんなわけないでしょ、これから別れようっていうんだから」

「ま~な~」

 男は、全ての欄を埋め終ると、ズボンのポケットの中から印鑑を出し、

「は~っ」

 と息を吹きかけ、離婚届に力強く押し付けた。

「はいよ」

 男は、一枚の紙と一本のペンを、女に返した。

「どうも」

 女は、それらを受け取ると、バックの中に丁寧に押し込んだ。

「これで、終わりなんだな」

「あと、これ、市役所に出してきたらね」

「今日は、楽しかったよ」

「なに、真面目な顔して言ってんのよ」

「本当に、改めて、亜由美の良さがわかったような気がするよ」

「そんなこと言われても・・・」

「なあ、もう一度、今更、好きだなんて言ったら、遅すぎるかな?」

---
あとがき

[当時]
書き始めた当初は、最後はどうしようと、
心配だったんですけど、このオチが思い浮かんだ瞬間、
なんだか、頭の線が一本に繋がったというか、
光の糸を見つけたというか、
ともかく、今までの作品にはない爽快感を感じました。
でも、実際書いてみたら、その感覚が弱くなってしまって、
多少ネチネチとしてしまいました。
失敗とは言いませんが、
ホンのチョットだけ後悔の念が残っています。

[現在]
たしか1998年の短編作品です。
なので、話している音楽の趣味がその頃です。
執筆当時は、脚本版もあったくらいに、
とても映像化しやすい作品です。今でも撮りたいです。
現在版も書きやすそうなので、
もっとお見合いのやり取りを長くしたいものです。
いまだに新鮮な驚きがありますし。
ちなみに、2000年に「お見合い結婚」というドラマがあったみたいで、
私は観てないんですけど、内容かぶってたらどうしよう。。。