民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「本屋さんで待ちあわせ」 その15 三浦 しをん 

2017年12月20日 00時03分19秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その15 三浦 しをん  大和書房 2012年

 愛と観察眼が炸裂 その2
 『猫座の女の生活と意見』浅生ハルミン・著 (晶文社) P-124

 著者の「人生の選択」は、トイレでおしっこするときに、音消しの水を流さないと決めたことである。しかも、「水がもったいない」などといったエコ的理由では全然ない。私も常に、「おしっこの水音を水音で消す」という行為に大いなる欺瞞と矛盾を覚え、どうすべきか悩んでいたのだが、笑いとともに決めました。音消ししない、と。「私は音消しなんかしないよ」という諸氏。ぜひ本書を読んでいただきたい。その結果どういう事態が引き起こされるかについても、ちゃんと書いてある。ぶるぶる。

 一見、日だまりで猫とのんびりしているようでいて、本書には胆力(たんりょく)がある。著者は、ひとの心の機微や陰の部分を決して見逃してはいない。本書に収録された鋭く本質を突くブックレビューが、それを証明している。だからこそ、読者に笑いと自問自答を呼び起こすのだ。

「本屋さんで待ちあわせ」 その14 三浦 しをん  

2017年12月18日 00時08分59秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その14 三浦 しをん  大和書房 2012年

 愛と観察眼が炸裂 その1
 『猫座の女の生活と意見』浅生ハルミン・著 (晶文社) P-124

 本書の著者は、「もし生まれ変われるものなら猫ではなく、猫の舌に毎日舐められる猫のごはんの皿になりたい」ほどの猫好きである。猫のごはんの皿!

 このエッセイ集では、猫やこけしや古本などについて、著者の愛と観察眼が静かに炸裂していて、読者は思わず自問自答せずにはいられない。私はこれまで、かくまで深くなにかを愛したことがあっただろうか(いや、ない)、と。

 少女時代から現在までつづく、俳優・藤竜也への愛を表明するくだりなど、絶好調を通り越してほとんど絶頂に達している感がある。私はこれまで(以下略)。

 著者が愛するものは、(猫や藤竜也氏は別として)世間が想像する「女子の好むもの」とはちょっとちがうことが多い。こけしと古本を集める女性って、現代ではやっぱり少数派だと思うのだ。だが、「私はひととちがう」と気取る気配は微塵もない。愛好者だけの世界にはまりこむこともしない。「これが好きだなあ」と思いつつ、淡々かつ飄々と日常を生きている。

「本屋さんで待ちあわせ」 その13 三浦 しをん  

2017年12月16日 00時14分23秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その13 三浦 しをん  大和書房 2012年

 『めざせイグ・ノーベル賞 傾向と対策』久我羅内(らない)・著 (阪急コミュニケーションズ) P-116

 今年(2008年)、日本はノーベル賞で盛り上がったが、偉大な研究はもちろん、まだまだほかにもある。本書が紹介する「イグ・ノーベル賞」は、「世間を笑わせ、考えさせた」研究に贈られる賞だ。

 これまで受賞した研究に共通するのは、日常の些細な疑問や現象を見過ごさず、それを真剣に解き明かした点だ。たとえば、「へそのゴマに関する統計的調査」「なぜ、ひとは黒板を引っかく音が嫌いなのか」「ジッパーにペニスをはさまれたときの適切な対処法」(これは些細な現象ではなく、真に窮状だが)など。へそのゴマは、衣服と腹毛や肌との摩擦によって、へそに運ばれるものらしい。そ、そうだったのか!

 感じた「なぜ?」を追求するところから、新しい世界は広がる。本書を読んで、笑えて楽しい「イグ・ノーベル賞」の受賞を、ぜひ目指そうではないか。

「本屋さんで待ちあわせ」 その12 三浦 しをん  

2017年12月14日 00時02分14秒 | 本の紹介(こんな本がある)
「本屋さんで待ちあわせ」 その12 三浦 しをん  大和書房 2012年

 言語を超えた芸の天才 その2
 『人生、成り行き 談志一代記』立川談志・著/吉川潮(よしかわうしお)(新潮社) P-104

 前人未到の境地を、そこには至れないものにも感じ取らせてくれるひと。人間の心の謎に迫り、まったく見たことのなかった風景を垣間見させてくれるひと。その力のあるひとこそを、天才と呼ぶのだろう。
 立川談志の高座を聞くと、脳髄が熱くしびれる。異次元に連れ去られてしまったような浮遊感がある。言語で構成された芸のはずなのに、言語では把握できない「なにか」が凄みとともに立ち現れる感覚。

 でも、その「なにか」は、私たちの内側にもとからあったものなのだ。それはいつも人間の心のなかで、ひっそりととぐろを巻いている。
 落語とは、落語を生み出し享受してきた人間という生き物とは、なんて楽しくおそろしいんだろう。だれの胸にもある沃野(よくや)(荒野かもしれない)の存在に改めて気づかされ、読んでいてなんだか震えがくる一冊だ。

「本屋さんで待ちあわせ」 その11 三浦 しをん

2017年12月12日 01時05分59秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その11 三浦 しをん  大和書房 2012年

 言語を超えた芸の天才 その1
 『人生、成り行き 談志一代記』立川談志・著/吉川潮(よしかわうしお)(新潮社) P-104

 言語を駆使して、言語による認識のくびきから跳躍してみせる。この逆説を成し遂げられるひとは、ほとんど皆無だろう。落語家・立川談志は、それを実現している稀有な存在だ。
 落語に対する自負と気迫、すぐれた分析能力と表現力、孤独と親和、そして常人にはどうも理解しがたい素っ頓狂な爆笑エピソードの数々(なぜか国会議員になる、師匠にヘッドロックをかます、など)。生い立ちから現在に至るまでを多面的にインタビューした本書は、きわめておもしろく深みのある芸談になっているし、「立川談志」という人物そのものを魅力的に浮き彫りにする。

 胸に決めたひとつのことを、ひたすら追求しつづけるのは、楽しいけれどさびしいことだ。あまりにも高度と深度があるので、そのひとがどこを目指しているのか、周囲の人間には計りきれない。しかし、そのひとが「なにかすごいことを実現している」ということだけは、しっかりと感受できる。