民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「本屋さんで待ちあわせ」 その8 三浦 しをん

2017年12月06日 00時05分33秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その8 三浦 しをん  大和書房 2012年

 時に抗(あらが)った作家の生 その2 P-48
 ――『星新一 1001話をつくった人』最相葉月(さいしょうはづき)・著(新潮社/新潮文庫、上下巻)


 著者の最相葉月は、130名以上の関係者を丹念に取材し、「鬼気迫る」と言ってもいい、作家の壮絶な姿を浮き彫りにする。星製薬の御曹司だった新一の、実業家としての苦難と挫折。SFという新しい表現を知り、仲間とともに情熱と高揚感に満ちていたころ。

 さびしい魂を抱えて創作に打ち込んだ。一人の人間の内面に光が当てられていく。誠実で淡々とした著者の筆致から、だが抑えきれない叫びが聞こえる。なにをもって、ひとは「生きた」と言えるのか?

 私は書店でアルバイトしていたとき、星新一の文庫を購入する多くの中学生たちを見た。彼らの目の輝きを見た。500年後はいまこのときと断絶して存在するのではない。星新一の作品に胸踊らせる人々の生が積み重なって、いつのまにか500年が経つのだ。

 私たちはつながっていく。銅像やDNAや鎮座まします「宝」としてではなく、もっと深く心の底を流れ受け渡される喜びがある。生のむなしさを超える力。それが創作物の力であり、創作物を楽しむ人間の力だ。星新一はたしかに、激しく深く、己れの生を生ききったのだ。その生が、彼の死後も私たちを照らす。