民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「梅津の長者」 福娘童話集 より

2012年12月26日 00時53分21秒 | 民話(昔話)
 「梅津の長者」 福娘童話集 5月27日の日本民話 京都  「恵比寿様と貧乏神」に酷似 

 むかしむかし、山城の国(京都府南部)の梅津というところに、貧しい暮らしをしている夫婦がいました。
 夫婦は今の貧しい生活から抜け出たいと願い、毎日えびすさまにお祈りをしました。
 でもそれは自分の欲からではなく、夫は妻に、妻は夫に、おいしい物を食べさせ、
あたたかい着物を着せてやりたいと願ったからです。

 ある時、男がせりを摘(つ)みに野原に出かけていると尼さんが通りかかって、
困り果てた様子で京への道を尋ねてきました。
 男はていねいに道の説明をしていましたが、なかなかうまく伝わらないので、
男はわかりやすいところまでの道案内をしてやりました。

 そして目的地まで行くと、再びていねいにそれからの道を教えたので、
尼さんにもようやく理解が出来たようでした。
 とても喜んだ尼さんは、
「おかげさまで、助かりました。
 これはわずかですが、私のお礼の気持ちです。
 どうぞお餅でも、買って食べて下さい」
と、男に一文銭を渡しました。
「これはどうも、ありがとうございます」

 男は一文銭を握りしめると、いちもくさんに家へと帰りました。
 そしておかみさんに尼さんとの出来事を話して、さっそく餅を買ってくるように言いました。
 おかみさんも、とても喜んで、
「今日は、何ていい日なんでしょうね。
せりもたくさん手に入ったし、お正月でもないのにお餅まで食べられるのだからね」
と、急いで餅を買いに走りました。

 その一文銭で、餅を二個買う事が出来ました。
 つきたての柔らかくて白いお餅を大事そうに抱えながらの帰り道、
おかみさんは粗末な身なりのおじいさんに声をかけられました。
「そこのお人。どうぞ人助けと思って、このあわれな年寄りに、その餅を一つめぐんでは下さらんか」
 大切なお餅でしたが、おかみさんはおじいさんににっこり微笑むと、
「はい。どうぞ、おあがり下さいな」
と、餅を一つ、おじいさんに渡しました。
 これでお餅は一つきりになってしまいましたが、おかみさんの心は前よりももっと温かでした。

 そして家に帰って、夫にその事を話すと、
「それは、とてもいい事をしたね」
と、男もとても喜び、残りの餅を仲良く二つに割って食べました。

 さて、その夜の事です。
 二人がとても幸せな気持ちで寝ていると、
二人の夢の中に突然えびすさまが姿を現して、こう言ったのです。
「今日はお前たち、大そう良い事をしたな。
 餅をめぐんでやったのは、実はこの家に住みついている貧乏神じゃ。
 その貧乏神がわしのところに来て、涙ながらに言った。
『夫婦のやさしい心根に心をうたれたから、この家を出て行きたい』と、
そしてその代わりに、福の神を呼び寄せて欲しいとな。
 そこでわしは仲間の福の神を呼んで、皆でこの家をもりたてる事にしたのじゃ」

 えびすさまの言葉が終わったとたん、
大黒様(だいこくさま)や福禄寿(ふくろじゅ)、寿老人(じゅろうじん)や布袋(ほてい)さまが次々に現われ出て、
「さあ、ここが新しい家じゃ。皆で祝いの酒盛りだ」
と、酒盛りを始めました。

 そしてお酒がまわり始めた頃、えびすさまと布袋さまが相撲をとることになりました。
 見事な名勝負の末、二人は組みあったまま夫婦の寝ている布団の上に転がりました。
「うひゃー!」
「きゃあー!」
 びっくりした男とおかみさんは、そのひょうしに目を覚ましました。
「えびすさまが」
「布袋さまが」
 二人は同じ夢を見ていた事を知って、さらにびっくりです。

 その後、この夫婦は幸運続きでついに梅津一の大金持となり、人々から梅津の長者と呼ばれました。

 おしまい