「尻なり しゃもじ」 笠原 政雄 「日本の民話 5 甲信越」
むかしね、正月の二日にさ、仕事するのは 初仕事っていってね、一番先に夢見るのは 初夢という。
それが 一年中で一番、仕事にしろ、夢にしろ、正夢なんだと。
そして ある人がね、今年こそは いい夢みたいと思って 寝たと。
そしたら「垣根のところにしゃもじが一本」という夢見たと。しゃもじ、あの ご飯 盛るね。
おっかしな夢見たなと思って、それでもと思って 朝起きてから 垣根のとこ行ってみたら、
しゃもじが 一本 あったと。
なんだ、このしゃもじと思って、こう 手に持って、こう ほっぺたを ぺろっとなぜてみた。
そしたら 急に ほっぺたが、
「オタビトタビト、オタビトタビト」って、鳴り出した。
「ああ、これはおおごとだ」と、思って、ほっぺたを押さえて、しばらく押さえていたども、なおらんて。弱ったなあと思って、裏返しにして ぺろっとなぜたら ぴたんと止まった。
また 表のほうで ぺろっとなぜたら、
「オタビトタビト、オタビトタビト」と、鳴るんだと。
「ああ、こりゃ、いいものをさずかった」と、思ってたと。
そしてこう考えてたと。
「そうだ、村のあの一番身上(しんしょう)のいい長者のうちへ行こう」
と、思って、門構えがかたくて うちの中へ入ることはできないと。
便所のくみとり口のとこから 入りこんだと、泥棒のように。
そして 上に出ようとしたら、ガタンガタンと 便所にだれか来た。
これはたいへんだというんで 便所のすみっこへ 小さくなっていた。
そして、その 入ってきたのはお嬢さんだって。そして用を足しにきた。一人娘だ。
「あっ、これはいいもんが入ってきた」と、思って、そのしゃもじを出して、
お嬢さんのけつをぺろっとなぜた。
そうしたところが、お嬢さんのけつが、
「オタビトタビト、オタビトタビト」って、鳴り出した。
さあ もう、お嬢さん青くなって 寝間へかけこんで もう病気になったというんで うなってるんだと。
さあ どこの医者呼ばってきてあれしても、「オタビトタビト」というのは、なりが止まらないって。
それで もう 仕方がないので、長者どんが 立て札をまえ出した。
「娘の病気をとめてくれるものがあったら、うちの婿にする」って、立て札をたてた。
まあ 何人くらいその、われこそは----って行くけど、祈祷師やなにから 行くけど、
けつが鳴り止まないんだって。
そしたら、ある日、しゃもじを持ってる人が 占い師のように化けて、しゃもじをふところへ入れて、
その長者どんへ行ったと。
「おれ、お尻が鳴るのをすぐ止められるだ」
そしたら 長者どんは喜んで、
「どうかひとつ直してくれ」
って、言ったって。
そして けつ出させて、持ってるしゃもじを裏返しにして ぺろっとなぜたら、
ピタリとその音が止まったと。
それで、こりゃあもう 日本一の占い師だというんで、長者どんも たまげて 娘の婿にしたと。
その人は 一生安楽に その長者の跡取りになって 暮らしたと。
いきがぽーんとさけたと。
むかしね、正月の二日にさ、仕事するのは 初仕事っていってね、一番先に夢見るのは 初夢という。
それが 一年中で一番、仕事にしろ、夢にしろ、正夢なんだと。
そして ある人がね、今年こそは いい夢みたいと思って 寝たと。
そしたら「垣根のところにしゃもじが一本」という夢見たと。しゃもじ、あの ご飯 盛るね。
おっかしな夢見たなと思って、それでもと思って 朝起きてから 垣根のとこ行ってみたら、
しゃもじが 一本 あったと。
なんだ、このしゃもじと思って、こう 手に持って、こう ほっぺたを ぺろっとなぜてみた。
そしたら 急に ほっぺたが、
「オタビトタビト、オタビトタビト」って、鳴り出した。
「ああ、これはおおごとだ」と、思って、ほっぺたを押さえて、しばらく押さえていたども、なおらんて。弱ったなあと思って、裏返しにして ぺろっとなぜたら ぴたんと止まった。
また 表のほうで ぺろっとなぜたら、
「オタビトタビト、オタビトタビト」と、鳴るんだと。
「ああ、こりゃ、いいものをさずかった」と、思ってたと。
そしてこう考えてたと。
「そうだ、村のあの一番身上(しんしょう)のいい長者のうちへ行こう」
と、思って、門構えがかたくて うちの中へ入ることはできないと。
便所のくみとり口のとこから 入りこんだと、泥棒のように。
そして 上に出ようとしたら、ガタンガタンと 便所にだれか来た。
これはたいへんだというんで 便所のすみっこへ 小さくなっていた。
そして、その 入ってきたのはお嬢さんだって。そして用を足しにきた。一人娘だ。
「あっ、これはいいもんが入ってきた」と、思って、そのしゃもじを出して、
お嬢さんのけつをぺろっとなぜた。
そうしたところが、お嬢さんのけつが、
「オタビトタビト、オタビトタビト」って、鳴り出した。
さあ もう、お嬢さん青くなって 寝間へかけこんで もう病気になったというんで うなってるんだと。
さあ どこの医者呼ばってきてあれしても、「オタビトタビト」というのは、なりが止まらないって。
それで もう 仕方がないので、長者どんが 立て札をまえ出した。
「娘の病気をとめてくれるものがあったら、うちの婿にする」って、立て札をたてた。
まあ 何人くらいその、われこそは----って行くけど、祈祷師やなにから 行くけど、
けつが鳴り止まないんだって。
そしたら、ある日、しゃもじを持ってる人が 占い師のように化けて、しゃもじをふところへ入れて、
その長者どんへ行ったと。
「おれ、お尻が鳴るのをすぐ止められるだ」
そしたら 長者どんは喜んで、
「どうかひとつ直してくれ」
って、言ったって。
そして けつ出させて、持ってるしゃもじを裏返しにして ぺろっとなぜたら、
ピタリとその音が止まったと。
それで、こりゃあもう 日本一の占い師だというんで、長者どんも たまげて 娘の婿にしたと。
その人は 一生安楽に その長者の跡取りになって 暮らしたと。
いきがぽーんとさけたと。