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「貧乏神と福の神」 まんが日本昔ばなし 

2012年12月28日 00時16分15秒 | 民話(昔話)
 「貧乏神と福の神」 まんが日本昔ばなし 講談社

 むかしむかし、ある村に、そりゃあ もう 貧乏な男が 住んでおった。
いくら働いても、暮らしは ちいっとも 楽にならん。
「わしゃ、なんで こう いつまでも 貧乏なんじゃろう・・・」
男は 近頃では、もう 働く気もなくして、毎日、ただただ ぼさあっと しておったそうな。

 実は、この家の天井裏に、ずっと以前から、一人の貧乏神が 住み着いておったのじゃ。
「いっひっひっ・・・。わし、貧乏神。
この家は 住み心地 よくってのう、ずうっと 住み着いておりますじゃあ。」
 これじゃ、いくら 働いたって、貧乏と縁の切れるわけがない。
気の毒なことよのう。

 村の人たちは、そんな暮らしぶりを みるにみかねて、この男に嫁ごを世話してやったと。
これが まあ、めんこい嫁ごで、男は大喜び、もう でれんと しておった。
 ところで、この嫁ごの よう 働くこと。
朝は 暗いうちから 畑に出て、家へ帰れば、まきわり、水くみ。
毎日、忙しく、よく働いた。
その上、朝晩 ちゃあんと 神棚に お供えをして、
「神さま、今日もよろしゅう。」と、手を合わす。

 さすがの貧乏神も、お供えをされた上に、こう ていねいに おがまれたんでは、気がひけてしもうた。
が、そこは 厚かましい 貧乏神のことじゃ。
「なになに、うーん、うまそうな 団子じゃあ。」
と、ちゃっかり 手を伸ばして ごちそうになっておった。

 なにしろ 嫁ごが こう 働きものでは、男も じっとしている わけにはいかん。
つられて働くうちに、家の中も うーんと きれいに なってきた。
そうなれば 張り合いも出る。
二人は、力を合わせて、せっせと よう 働いた。

 そうなると 困ったのは 貧乏神。
家の中は すっかり きれいになるし・・・、なんだか 居づらくなってしもうた。
「わしゃあ、どうすりゃ いいんじゃろう。」
夜 遅くまで働く 二人の姿をながめながら、貧乏神は しょんぼりと ため息をついておったそうな。

 こうして 何年かが過ぎ、ある年の大晦日のこと。
「さあ、しおじゃけも こうたし、少しだが 餅もついた。」
「これで、ゆっくり 正月を迎えられますだ。」
二人が いろりばたで 話しておると・・・、
「うえーん、うえーん。」
どこからか、人の泣くような声がする。
「な、なんじゃろう?」
「さあ、なんでしょう。」
二人は 顔を 見合わせた。
「天井裏の方から 聞こえてきますだ。」
男は はしごをかけ、天井裏にのぼった。
驚いたことに、そこには うす汚いじいさまが 一人すわって、
悲しそうに、うえーん、うえーんと 泣いておった。
男は すっかり たまげてしまった。
「あんた、いったい 誰かね?」
「わしゃ、この家に むかあしから おる 貧乏神じゃ。」
「び、貧乏神!」
「そうじゃあ。なのに、おまえら夫婦が あまり よう 働くんで、
わしゃ とうとう この家に おれんようになっただ!わあん、わあん、わあん。」
男は、自分の家の 守り神が貧乏神ときいて、ちょっとがっかりしたが、それでも神さまは神さまじゃ。
「わけを話してくだされ。」
と、下に降りてもらい、神さまの話を聞いた。
貧乏神がいうには、今夜、この家に 福の神が やってくると。
 で、かわりに 貧乏神は 出ていかねばならないんだと。

 男も嫁ごも 気の毒になってきた。
「せっかく 今までいたんじゃ、ずうっと このまま いてくれてええだ。」
貧乏神は 夫婦の優しい言葉に、ますます 声を張り上げて泣いた。
今度のは うれし泣きじゃ。
 なにせ 貧乏神、どこへ行っても 嫌われてばっかり。
これほど 情けのある言葉は 初めてじゃった。
が、もう じき 福の神がやってくる。
がりがりの貧乏神は 簡単に 追い出されてしまうにちがいない。
「そうだ!わしに もちを食わせてけれ、もち 食ったら 福の神にも負けやせん!」
二人はなるほどと うなずいて、さっそく 貧乏神のために もちや 魚、酒などを用意した。
「ひゃあ、うめえ。はあ、うめえ!むしゃむしゃ。」
貧乏神はだされたごちそうを息もつかず、あっという間に きれいそっくり たいらげてしまったと。

 さて、いよいよ 夜も更けて 除夜の鐘が鳴り出した。
もうすぐ 新しい年がやってくる。
 ごーん、ごーん。
鐘は 神さまが 交代する合図じゃ。
 やがて とんとんと、戸を叩く音がした。
「こんな夜更けに いったいどなたですじゃ?」
「福の神じゃあ。」
「がっはっはっ、いやあ お待たせ、お待たせ。はるばる やってきた 福の神でっせ。
もうこの家も 貧乏とはおさらばじゃ。」
福の神が がっは、がっはと 笑いながら 入って来た。
「あ、あんたが 福の神・・・?」

 ここで 引き下がっては 男がすたる、と、貧乏神。
「やいやい、なにしにきた。ここは おらが 長年 住んどった 家だぞ!」
「なんだ、貧乏神、まだおったんか。はよ、出てけ!」
「なにをーっ。」
いやはや、明日はめでたい正月というのに、神さまが 二人 にらみあいをはじめた。
男と嫁ごは、ただ おろおろ。

 貧乏神は 福の神にとびかかったが、福の神はびくともせん。
「なんの、なんの、こんな がりがりのやせっぽち、すぐに追い出しますけん。」
「くそううっ、わしだって もち食ったんだぞ。おうっ、おうっ。」
 だが 福の神は強い。貧乏神を軽々と つり上げ 放り出そうとした。
「あっ、あぶねえ!貧乏神、負けるでねえ。」
おもわず 叫んだ男と嫁ごに 福の神は 唖然。
「なんで 貧乏神を応援するんじゃあ?」
 夫婦は 貧乏神が あぶなくなると 夢中で加勢をする。
「そうれ、貧乏神、負けるな!わっせ、わっせ。」
 とうとう 三人がかりで 福の神を 外に押し出してしまったと。

 家の外で 福の神は きょとんと 首をかしげるばかり。
「わし、福の神だよね。」
こんな目に あったのは はじめてで、なにがなんだかさっぱりわけがわからん。
「あのう・・・、くどいようだけど、わしが福の神だよねえ。
それで 中に居るのが 貧乏神・・・。
いったいぜんたい どういう こっちゃ。」
首をひねりひねり、すごすごと引き上げる 福の神。
中から 様子をうかがっていた 三人が 出てきた。
「行ったぞ。」
「ほ、ほんとだ。」
「わあい、福の神をおっぱらったぞ!」
と、まあ、おどりあがって、大喜び。
「さあ、これで 安心して お正月を迎えられるべ。」

 そして・・・・、次の日はめでたい お正月。
貧乏神は 屠蘇酒を すすめられ すっかり いーい気分。
「ういーっ、わしゃ 酔っぱらったどー。」
こうして 三人で楽しく 正月を祝ったんじゃ。

 この家は それからも あまり金持ちにはならなんだが 仲良く達者で けっこう 幸せに暮らしたと。
 そうそう、あの貧乏神、いまだに この家の天井裏に おるんだとさ。

 おしまい