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『ちびくろ・さんぼ』の復刊

2005-04-21 19:38:25 | 絵本と児童文学
[240] 『ちびくろ・さんぼ』の復刊 (2005年04月21日 (木) 19時38分)

 先日書店に行ったら、その店の特別販売扱いの場所であるカウンターのそばに、なつかしい赤い表紙の『ちびくろ・さんぼ』が平積みされていた。もっともゆきわたっている岩波書店で出版されていたものが、17年ぶりに復刻されたのである。製本も同じで、岩波の絵本のその2(岡部冬彦絵)を省いて、原作のみにしている。わたしには岩波版より、表紙の光沢が強く仕上げている印象を持った。
 この絵本は、アメリカ南部の黒人に多い人種をモデルにしており、その絵が尊厳して描いたとはいいがたいとし、しかもサンボという名前が黒人蔑称ともとれる(実際は多くの子どもの愛称になっている)黒人差別を助長するとして話題になった絵本である。多くの人に読まれ親しまれていて、当時も活発に流通していたのに、1988年に岩波書店はあっさりと絶版にした。それとともに当時おそらく10社を超えると推定される出版されてていた『ちびくろ・さんぼ』が一斉に絶版になった。
 そのこともあってこの絵本は、書店からも図書館からも姿を消したのである。図書館では廃棄したというよりは、書庫に保存し申し出があった場合閲覧に応えるという扱いをしたところが多い。わたしは絶版後のまもなく、古書店で書き込みありだったものを3000円で手に入れて、喜んだものだった。
 当時は絶版反対論が多く、その立場の評論本が複数出版された。もともとこの絵本は、トラが登場することでも分かるように、インドを舞台にした本である。イギリスの植民地だったので、今から100年ぐらい前に、インドに在住していたイギリス人のバンナーマンがわが子のために作った絵本である。
 問題になった本は、その原作をアメリカ人によって絵が描かれ、1927年にニューヨークで出版されたものである。アメリカではこの本も多くの人にゆきわたり、60年代までの黒人との社会的分離政策をとっていた時代にも、黒人社会でも良書として多くの子どもにゆきわたっていたのだった。
 今回瑞雲舎(ずいうんしゃ)によって発行されたのは、岩波書店版であった

『ちびくろ・さんぼ』 ヘレン・バンナーマンぶん フランク・ドビアスえ 光吉夏弥やく 05年4月15日発行  瑞雲舎 1050円

である。この本のおもしろさからすると、そうとうゆきわたるのは間違いないだろう。4月19日(火)の朝日新聞によると、15日発行の初版4万で、すぐに1万増刷とのことだ。絵本が初版で1万以上つくるのは珍しいぐらい、多い部数であるからその関心の高さと多くの人が待ち望んでいたとみてよいであろう。
 瑞雲舎は過去にも、シナという言葉が中国人の蔑称とされて福音舘書店が絶版にした『シナの五にんきょうだい』を発行したことがある。
『シナの五にんきょうだい』クレール・H・ビショップぶん クルト・ヴィーゼえ かわもとさぶろうやく1995年10月発行 瑞雲舎発行 1938年ニューヨーク

 ここで私の手元にある他の『ちぶくろ・さんぼ』の絵本を、紹介する。詳細な作品分析や評論は、別な機会にゆずることにする。

■『ちびくろ・さんぼ』 ヘレン・バンナーマンぶん フランク・ドビアスえ 光吉夏弥やく1953年12月発行 岩波書店 1927年ニューヨーク

■『ブラック・サンボくん』 ヘレン・バナマンぶん 坂西明子え 山本まつよやく 1989年8月発行 子ども文庫の会
*『ちびくろ・さんぼ』絶版に反対の立場から、原作に近い形で制作したものである。

■『おしゃれなサムとバターになったトラ』 ジュリアス・レスターぶん ジェリー・ピンクニー さくまゆみこやく 1997年11月発行 ブルース・インターアクションズ発行 1996年アメリカ 
*アメリカ版『ちびくろ・さんぼ』に対して、サムという名前にし、知恵をもってトラを負かした黒人の子ども、というメッセージで作られた絵本である。とくに絵が誇り高い黒人像を描き出している。

■『チビクロさんぽ』 へれん・ばなまんげんさく 森まりもほんやく(かいさく)1997年10月発行 北大路書店
*絶版を惜しみ、さんぼをチビクロという犬にしてストーリのおもしろさを生かそうとしたものである。

■『トラのバターのパンケーキ』 ヘレン・バンナーマンさく フレッド・マルチェリーノえ 1996年アメリカ
1998年10月発行 評論社発行 
*アメリカ南部の黒人というイメージの絵ではなく、インド人を描き名前もババジくんとした。

■『ちびくろさんぼのおはなし』 へれん・ばなーまんさく・え なだもとまさひさやく1999年5月発行 径書房 
*『ちびくろ・さんぼ』絶版は、優れた文化を無残にも放り投げるもの、として反対を展開していた径(こみち)書房が原作出版100年記念として発行した原作である。



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