京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMIRAの読者ノート 『俺の妹がカリフなわけがない!』

2020年10月15日 | KIMURAの読書ノート

『俺の妹がカリフなわけがない!』
中田考 作 晶文社 2020年7月
 
あの「中田考」がラノベを出版した!という話題がこの7月、私が眺めているSNSに突如流れてきた。あの「中田考」とはイスラーム法学者の「中田考」である。と言っても私が持ち合わせている「中田考」の知識とは、数年前に世界を震撼させたIS(イスラーム国)の事件の時に、メディアでコメントを出していた、とか、実家が神社であるにも関わらずイスラム教に改宗したとか、ざっくり「イスラム教」の第一人者という程度である。そしてイメージ的にはお堅い学者さん。とりあえず、SNSに流れてきたし、学者がラノベを書いたということに興味を持ち読んでみた。
 
が、そもそもタイトルにもなっている「カリフ」という単語すら私は知らないに等しい。主人公の双子の妹、天馬愛紗の言葉を借りると「カリフは神の代理にして予言者の後継者、人類と地球を邪神の支配から解放するもののことです(p34)」ということなのだそうだが、正直この説明でも、少々理解出来ず。それでもこの説明を頼りにページをめくっていった。
 
天馬垂葉(俺)と天満愛紗(妹)は双子で君府学院の高校生。この天馬家は予言者ムハンマドの孫ハサンの末裔であり、君府学院はこの2人の祖父の父が設立した私立学校である。しかし、2人の父が経営破たんをさせ、石造財閥に譲り渡すこととなる。生徒会役員選挙公示前、俺は妹が生徒会長に立候補することを耳にする。対立候補は現在この学院の経営者である石造財閥の御曹司の石造無碍。下馬評では圧倒的に無碍が有利であったが、選挙演説で「カリフとして、生徒会長に立候補する」と語った愛紗が当選してしまう。これに納得できない俺は、気が付くと無碍と手を組んだようになり学園祭で上演する演劇で愛紗の目を覚まさせようとするが……。他スピンオフが2編収録されている。
 
教科書通りのラノベだった。軽快でコミカルで中二病(本中では「厨二病」と表記)満載の内容。それなりにラノベを読んできた私としては、唯一他のラノベと異なると思われる点はイスラームやカリフについての会話が留めなく出てくるところ。しかし、安心して欲しい。これらについての多くは愛紗から発せられるものであり、それを聴く友人たちはほとんどが「わけのわからない話!」とか「聞かなければいけないのか?」と呟いている。場合によっては、愛紗当人の思いとは全く別の解釈をしてしまう者も出てくる。そう、これを読んだからと言って、正直イスラームやカリフのことが理解できるわけではないのである。読者は間違いなく愛紗の友人たちと同じ気持ちのまま読み進めることになるであろう。恐らく、イスラームについて少しでも知りたいと思うのであれば、(私は未読であるが)作者が別の出版社から刊行している『ハサン中田考の漫画でわかるイスラーム入門(サイゾー 2020年4月)』を読むほうがよいのではないかと思っている。それでも、面白いと思ったのは、「イスラーム」だけで、これだけ物語を引っ張れるのだということ。読んでいても全く理解不能な難しすぎるイスラームの概念や歴史しか出てこないのに、不思議と途中で読むことをやめようと思わないのだ。軽快なリズムのあるラノベだからこれが成立するのかもしれない。それだとすると、今後他の複雑な理論を持つ分野でもラノベなら物語を展開することが可能なのではないだろうか。もしかすると、すでに追随を目論んでいる専門家もいるのかもしれないとも想像した。これはラノベ界の新境地になるのかもしれない。それを期待する作品であった。

   文責 木村綾子

 

参照

ライトノベルって何ですか? - Yahoo!

2017/03/22 — ライトノベル(和製英語: Light Novel)とは小説のカテゴリの一つで、主に中高生を対象とし、漫画やアニメ風のイラストを用いた娯楽小説の事です。略語としてはラノベ、ライノベがあります。 
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