『わたしは反対!』
デビー・リヴィ 文 エリザベス・バドリ― 絵 さくまゆみこ 訳
子どもの未来社 2022年11月
サブタイトルは「社会をかえたアメリカ最高裁判事ルース・ベイダー・ギングズバーグ」。彼女はアメリカにおいて女性初の法律学教授のひとりとなり、更には女性では2番目、ユダヤ人女性としては初めて最高裁判所の判事となった人で、本書は彼女の半生を描いたものである。
本書を読みながらまず最初に気付かされたことは、あの「自由な国アメリカ」においても、人種差別だけでなく、男女差別があからさまにあったのだということ。例えば、1940年。ルースが子ども時代だったこの頃は「男の子には社会で活躍するようになってほしい。女の子は、よい夫を見つけるのが大事」という考えが主流。また彼女が小学校に上がった時は、文字を右で書くというきまりが学校にはあり、日本と同じように女子は家庭科を学び、男子は工作を学んでいた。1950年代、男子が500人、女子が9人という法科大学院に入り、首席で卒業したものの、彼女は就職先を見つけることができなかった。なぜなら、彼女は女性であるだけでなく、すでに子どもも授かっていたからである。この時のアメリカは「母親は仕事をするべきではない」という考えが流布していた。その後彼女はひとりの裁判官の下で働くことが可能となったが、女性は働いても給料は男性よりも少なく、大事なポストからはしめだされていた。しかも、そのことをアメリカの裁判所は認めていたのである。このような中でルースは女性の平等をもとめて「NO」と声を上げ、裁判で戦い続ける。それは右手で文字を書くように言われてきた時からのことである。
本書は絵本という形式をとっているが、まさにこの作品は「絵」が全てを語っているものとなっている。もちろん、文章は丁寧にそれを読むだけで、彼女の戦いもそうであるが、人としての魅力が十分に伝わるようになっている。しかし、それをはるかに凌ぐ絵の主張は圧巻である。「絵本」だからそれが当然という意見もあるであろう。しかし、とりわけ伝記を描く場合、その人物において誤った印象を与えないように、絵は文章を超えることなく、控えめに描かれていると私は感じていた。だが、今回は明らかに絵が物を言っているのである。それは明らかにルースの戦いを投影するものであり、どのページを開いても迫力満点である。そして、彼女の主張を絵本全体から発信している。読み手はそれを受け止めるだけで精いっぱいとなるであろう。しかし、それだけ彼女の戦いは過酷であったということが肌感覚で分かるのである。
ルースが最高裁判所の判事になってもこの戦いを続けていったのであるが、その中の成果のひとつが、3年後の1984年の最高裁の判決である。それはバージニア州立軍人養成大学への女性の入学を認めたというものである。ちなみに日本においては防衛医科大学校が1985年に、防衛大学校が1992年に女性の入学の扉を開放している。日本はかなりジェンダー意識が遅れていると思っていたが、アメリカとは大差ないのではないかと思ってきた。しかし、それは決して喜ばしいことではなく、女性がこうしてアメリカでも日本でも戦っているという現実そのものがまさに「NO!」なのであることを誰もが意識をしなくてはならない。それでも最後に本書の裏表紙に記されている彼女の言葉は金言だと思ったので、ここに引用する。
「大切だとおもっていることのためにたたかいなさい。他の人も参加してくれるようなやり方でね」
====文責 木村綾子