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~サッカーを中心に日々の雑感など~

人間の條件

2011年09月10日 | 映画

8月に放送された小林正樹監督、仲代達矢主演の映画「人間の條件」(白黒映画)は6部からなる上映時間、実に9時間31分の日本映画史上に残る大作であり、よくぞ時間をかけてここまでつくり上げたという、日本映画界の良心ともいえる反戦映画。五味川純平さんの原作は1300万部を超える大ベストセラーになり、一躍人気作家になったそうだ。

原作を読んだことはないが、決して軽い内容ではないこういう本が多くの日本人に読まれていたことに驚く。今では考えられないような出来事。本を読むことが生活の中で日常だったんだねえとつくづく。

先の大戦に対する反省がまだ日本人の中に残っている時期だからこそ、こういう難解で(赤軍の背後にスターリンが飾られているのに)社会主義に対する、いささか教条的な!?生の言葉がそのまま出てくる本が読まれたのだろう。

上映された1959年から61年の間には60年安保闘争があり、若者も知識人も左翼が当たり前の時代であったようだ。(安保闘争の最前線で亡くなった女子大生、樺美智子さんの「人知れず微笑まん」という本を読んだことがあるよ。)

地下運動する活動家でもなんでもない一市民が、その生活の場でヒューマニズムから旧満州での中国人支配や軍隊の理不尽さを告発するうちに、その存在が反戦へとつながっていく。

戦地で玉砕が続き、敗色が近づいてくる昭和18年から始まるこの物語では、南満州鉄鋼会社に務める一市民が新婚の妻との生活を望み、兵役免除として選んだ新しい職場の炭鉱だったが、そこでは戦時体勢への協力として中国人捕虜を使い、さらなる増産体制へ抵抗する彼らに対して見せしめの処刑。それに対する怒りを抑えられず、とうとう抗議の声を上げると、待っていたのは憲兵の壮絶な尋問。その後すぐ、邪魔者のように軍隊へと召集される。軍隊生活でも古参兵の初年兵への理不尽ないじめが横行し、仲間をかばいながらもそれへも抵抗するうちに…。

第1部純愛編、第2部激怒編、第3部望郷編、第4部戦雲編、第5部死の脱出編、第6部曠野の彷徨編。当時の大スターの佐田啓二や高嶺秀子も出演し、もちろん、この映画の主役梶役の仲代達矢さんや美千子役の新珠美千代が渾身で演じている。

仲代さんは特に最後のほうの追いつめられていく過程での形相がすさまじく、日常とは違う哲学的な演技とでもいうのか、そういうものを表現するときにはいかにも舞台役者の素顔が現れ、それを表現できる役者だから、この作品は成功したのだろうと思わせるほど。

新珠さん演ずる美千子は、切ない声で初々しい新婚の妻がかわいいが、どうも戦後教育?を受けた戦後生まれからすれば、純愛と性愛ばかりの女性像で、梶のレポを読んでもよくわからなかったというように、梶が何と懸命に闘っているのかという、同志的な視点がなさすぎるような気もするが。

それにしてもこの長丁場な映画を様々なエピソードをつなぎ合わせて、最後までもっていくのだから、見応え十分。是非見ていただきたい映画。

(同じ時期に放送されたNHKBSアーカイブス「~日中、知られざる戦後史~『留用』された日本人」と同じくアーカイブス「『認罪』~中国撫順戦犯管理所の6年~」、さらに少し前に放送されたが「家族と側近が語る周恩来」(4回)なども、日本と中国の歴史を知る上で参考になった。周恩来のような政治家が今の日本にもいたらと…)



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