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日めくり万葉集(87)

2008年05月07日 | 万葉集
日めくり万葉集(87)は山部赤人の歌。選者は日本文学研究者ののドナルド・キーンさん。

【歌】
み吉野(よしの)の
象山(きさやま)の際(ま)の
木末(こぬれ)には
ここだも騒(さわ)く
鳥(とり)の声(こえ)かも

  巻6・924   作者は山部赤人(やまべのあかひと)

【訳】
み吉野の象山、その谷あいの木々の木末で、こんなにもにぎやかに囀(さえず)る鳥たちの声。

【選者の言葉】
赤人の自然の描き方は特別に美しく、こういう風景のなかに入りたいという気持ちになる。この後の日本の歌人たちは自然歌集、日本の美をじぶん達の歌のテーマにした。

古今集、新古今集の場合は、まず春の歌があって、次は夏、秋、冬の歌。他の国ではそういうものはない。いかにも平和的な風景。日本人は昔からそういう静かな生活、音が聞こえないような美しさ。そういうものをなぐさみに思っていて、憂鬱なときでも自然から、何か救いを得られるようだ。

激しい太陽でもないし、冷たい風でもない。理想的なやまとの風景。山はあるけど非常にやさしい山、人々に挑んでくるという感じではない。日本人にとっては夢のようなもので、そこへ行きたいと思っている。

【檀さんの語り】
山部赤人が奈良県南部の吉野にあった、天皇の離宮をたたえて詠んだ歌。赤人は自然を描写する【叙景歌】の名手であった。自然を愛する万葉歌の影響は後の詩歌集のあり方にまで及んでいるとキーンさんは考えている。赤人が描いた風景は日本人が理想とする自然だとキーンさんは言う。

【感想】
万葉時代の自然の描写がある歌がその後の日本人の詩歌の道筋を作ったというのは、たとえば富士山に対する描写や位置づけなども、日本人の原風景はここから始まっているということがわかる。

雑木林の中などに入ると体験する、一瞬、外の世界の喧騒が消え、澄んだ空気の中で聞こえるのは風の音、鳥の声という世界。無機質なビル街であくせく働く人々にとっても、子供時代を思い出させる、もう一度戻りたい風景なのかもしれない。

【調べもの】
○きさやま【象山】
奈良県吉野郡吉野町宮滝の南方にある山。ここを過ぎて吉野川の入る流れを「象の小川」という。

○こぬれ【木末】
(コノウレの約)木の若い枝先。梢(こずえ)