もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

6 087 福岡伸一「できそこないの男たち」(光文社新書:2008)感想5

2017年08月05日 01時37分43秒 | 一日一冊読書開始
8月4日(金):  

286ページ    所要時間5:20      ブックオフ108円

著者49歳(1959生まれ)。京都大学卒業。ロックフェラー大学およびハーバード大学研究員、京都大学助教授を経て、青山学院大学理工学部化学・生命科学科教授。専攻は分子生物学。著書に『プリオン説はほんとうか?』(講談社ブルーバックス、講談社出版文化賞科学出版賞受賞)、『ロハスの思考』(木楽舍ソトコト新書)、『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書、サントリー学芸賞受賞)、『生命と食』(岩波ブックレット)などがある。2006年、第一回科学ジャーナリスト賞受賞。

名文家である。著者ほど最前線の生物学を一般の読者にこれほど興味深く、ジョークも効かせて、美しい言葉・文章で発信できる科学者はいないのではなかろうか。初めのところは、難解な遺伝子のヌクレオチド配列の説明を膨大な内容の書物に例えて、X染色体、Y染色体について語ってくれたが、ちょっとわかり辛かった。しかし、これは著者のせいではない。

半ばあたりから、勢いがついてきて、内容にぐいぐいと引き寄せられた。思わず宝石箱のような本だな…とつぶやいていた。

本書のテーマは、生命の基本はメスであって、オスは環境の激変に対応できる多様性確保のために、メス同士の遺伝子情報の”走り遣い”として、メスのできそこないが生まれた。それがオスである。メスがオスになるためには無理をしている分だけ、オスはメスよりも生物的に不安定であり、弱い存在である。と言うことだが、実際に読んでもらえば、非常に内容豊かに語られながら、オス(男)、メス(女)について深くて、面白おかしい考察が行われている。

本当の最前線の生物学的立場から、右翼・保守派のY染色体にこだわる皇位継承のナンセンスをそれとなく、さらりと、でも切れ味よく切って捨てて見せてるのにもしびれた。Y染色体へのこだわりは、情緒的なだけで無意味。今後、本当に天皇制を残したいのであれば邪魔である。

また続き、書き足せたら書きます。

1000人に3人の割合でできる尿道下裂(現在は整形手術で完治できる!)の説明まで出てきたときには個人的にのけぞるほどしびれた。

アリマキという虫はメスしか存在しない。メスが自分のクローンのメスを生むことを多世代にわたってひたすら繰り返す。ロシアの土産人形のマトリョーシュカのように。そして、秋になると突然XXではなく、X染色体を一つしか持たないX0(ゼロ)のできそこないがオスとして生まれる。オスはひたすら生殖を繰り返して死んでゆき、メスは越冬用の卵を生む。そして春が来るとまた、XXのメスが生まれて、クローンであるメスをうみつづける。

恐らくチンギス・ハーンのものと特定できるY染色体が確かに存在する。それをもっている男は1600万人存在する。権力が絶対的であればあるほど、そのY染色体の保持者は無数に存在するのだ。天皇家のY染色体の保持者は、現皇室及び旧宮家・摂関家の男性に限らず、庶民に至るまで膨大な数で拡散している。天皇家のY染色体の保持者は無数に存在する。

逆に言えば、天皇家のY染色体の保持者にこだわるのは生物学的に意味がない。むしろ”女系”にまで踏み込んで女性天皇の存在を制度的にしっかりと規定し支えるのが本質的に大事なことだ。「それでは(少なくとも継体以来)1500年の皇室への尊崇の念が維持できない」と言うのであれば天皇制をやめてしまえばよいのだ。本当に天皇制と皇室の維持を大切に考えるのであれば、「”女系”まで踏み込んだ女性天皇」を認めた近代天皇制の制度設計をきちんとすることだ。

【目次】プロローグ/第1章 見えないものを見た男/第2章 男の秘密を覗いた女/第3章 匂いのない匂い/第4章 誤認逮捕/第5章 SRY遺伝子/第6章 ミュラー博士とウォルフ博士/第7章 アリマキ的人生/第8章 弱きもの、汝の名は男なり/第9章 Yの旅路/第10章 ハーバードの星/第11章 余剰の起源/エピローグ

【内容情報】「生命の基本仕様」-それは女である。本来、すべての生物はまずメスとして発生する。メスは太くて強い縦糸であり、オスはそのメスの系譜を時々橋渡しし、細い横糸の役割を果たす“使い走り”に過ぎないー。分子生物学が明らかにした、男を男たらしめる「秘密の鍵」。SRY遺伝子の発見をめぐる、研究者たちの白熱したレースと駆け引きの息吹を伝えながら「女と男」の「本当の関係」に迫る、あざやかな考察。
○オビ表: <生命の基本仕様> それは女である / サントリー学芸賞受賞作『生物と無生物のあいだ』を経て辿り着いた意欲作。《女と男》の《本当の関係》を知る
○オビ裏: 「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」 /シモーヌ・ド・ボーヴォワールはこう高らかに宣言した。しかし、これは生物学的に見て明らかに誤りである。
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