もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

6 040 重松清「送り火」(2003:文春文庫) 感想5

2017年03月27日 18時02分32秒 | 一日一冊読書開始
3月27日(月):  

415ページ    所要時間4:35     ブックオフ108円

著者40歳(1963生まれ)。

9編の短編集。富士山の見える「私鉄沿線」の物語りをかすかな結び目として織りなされている。あまり楽しいストーリーが書かれているわけではない。どちらかと言えば、パッとしない日常の「あるよなあ…」という思いを示し、展開させているものばかりだった。「楽しくない」ので感想4だなと思いながら眺め読みをしていたが、どの物語りも「深い感慨」を覚えさせてくれる。それを重ねて、最後まで行くと、結局「やっぱり感想5かな…」となってしまっているのだった。

【目次】フジミ荘奇譚/ハードラック・ウーマン/かげぜん/漂流記/よーそろ/シド・ヴィシャスから遠く離れて/送り火/家路/もういくつ寝ると

【内容情報】「昔の親は、家族の幸せを思うとき、何故か自分自身は勘定に入ってなかったんだよねえ…」。女手ひとつで娘を育てた母は言う。そんな母の苦労を知りつつ反発する娘が、かつて家族で行った遊園地で若かりし日の両親に出会う。大切なひとを思い、懸命に生きる人びとのありふれた風景。「親子」「夫婦」のせつない日常を描いた傑作短篇集。

仕事が忙しく、たまに時間ができても「読書モード」を外れた状態から復帰できない。生きていくためにも、「家族に対する責任を果たす」ためにも仕事は大事だ。でも、仕事自体を「生きがい」、「やりがい」とできる時期ではもはやなくなってきた。時代・世相もそうだし、俺自身の年齢段階もそうだ。歴史を振り返っても、ひとかどの仕事を成し遂げた多くの人々の寿命を俺はすでに追い越している。人生の終末を意識しながら生きる段階にきている。

「肩書き」で自分を偉いと錯覚している下らないゲスどもが幅を利かせている職場で、派遣・契約・バイトを尻目に俺自身も「正社員」として最低限の生活を保障されているので偉そうなことは言えない。ただ仕事に喜びを失いつつある中で、食い扶持を得るための仕事だけでは人生寂し過ぎる。大きな冒険もできない。ならば、優先順位をつけて生きようと思う。

1番、家族。2番、読書。3番、内緒!。4番、健康(心身両面)。5番、仕事。6番、歴史。7番、囲碁。8番、お金(これは冗談!)。 *俺にとって「仕事」なんて今さら大したことじゃない!ざまあみやがれ!

嫌いな言葉は、1番、友達。2番、コミュニケーション。3番、グローバル。これらは詐欺師が好む言葉だと俺は思っている。友達でも、外国人でも必要があったり、付き合いたければ勝手に付き合うし相手のことを理解しようと学ぶだけのことだ。殊更に言うな!

だいぶん話がそれたが、「読書モード」復活のリハビリテーションで最初に浮かんだのはやはり重松清だった。そして、その選択は正解だった。どんなに流し読みであっても読書にはそれなりの時間がかかる。長時間「読み切らせてしまう内容」と、「読後の満足感」がどうしても必要だ。読書を空しい経験にはしたくない。今回の作品集は十分に期待に応えてくれたと思う。

重松作品の特徴は、主人公を著者の年齢と重ね合わせることが多いことだろう。それだけに登場人物の過去と現在と将来への思いや思考がリアルに描き切れているのだ、と思わせる程の筆力が著者にはある。でも、実は、本短編集の中でも出てくるが奇想天外なファンタジーなのかホラーなのか、非現実的世界・存在者も縦横に現れてくるのだ。「重松清はモーツアルトのようだ」「重松清は蝉のようだ」苦しまずに物語が生まれてくる天性のストーリー・テラーだと思わせてくれる。勿論、苦闘してるんだろうが、結果が出てるのが凄い!
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