1月22日(日): 自戒のために。
朝日デジタル:(政治断簡)怖い強いコワい 政治部次長・高橋純子 2017年1月22日05時00分
新年明けましていまさらおめでとうございます。14字×90行、この「政治断簡」なる土俵に立つこと11回目、気分はいつも土俵際のカド番次長です。どすこい。
大相撲初場所はきょう千秋楽。昨年の初場所で優勝した琴奨菊は7度目のカド番をしのげず大関陥落が決まった。
肉体と精神と。しのぐことの難しさと大切さを説いたのが、作家・色川武大だ。
10代でばくちの世界に身を投じ、徹夜麻雀(マージャン)明けの「朝だ、徹夜」にかけた阿佐田哲也のペンネームで「麻雀放浪記」を著した色川。独特の人生観がつづられた「うらおもて人生録」を読むと、「強い」の捉え方が変わってくる。
*
「本当に一目おかなければならない相手は、全勝に近い人じゃなくて、九勝六敗ぐらいの星をいつもあげている人なんだな」「十四勝一敗の選手を、一勝十四敗にすることは、それほどむずかしくないんだ。ところが、誰とやっても九勝六敗、という選手を、一勝十四敗にすることは、これはもう至難の技だね」
一発全力主義のアマチュアと違い、プロは持続を旨とすべし。そのために大事なのは六分勝って四分捨てること。適当な負け星を選んで、大負け越しになるような負け星を避けること。「この神経がフォームとして身についたら、ばくちに限らず、どの道でも怖い存在になるんだけどね」
なるほどそうかそうかもねと縦に振った頭にふと浮かんだのは安倍晋三首相。我ながら、少しく意外だった。
一強かつ強権。イケイケドンドン太鼓を好き放題打ち鳴らしている感のある首相だが、色川色の眼鏡で色々見直すと――。
1次政権の時は全勝を狙い、力任せに勝つには勝つがロスも多く、1年でポキッと折れて大負け越し。
*
翻って今、とにかく長く首相でいるために、捨てられるものは捨てる。戦後70年談話や慰安婦問題をめぐる日韓合意、昨年の真珠湾訪問。従来の主義主張に照らせば齟齬(そご)があるはずのこれら、勝ち星としてではなく、大きく負け越さないための星として積まれているのかも。一世一代の大勝負、憲法改正で勝つために……怖い? いや、手強(ごわ)い。
しかし本当にコワいのは、そんな首相と相対する側の「負け癖」だ。色川は、負け続けると身体の反応が違ってくると言う。「感性がにぶくなって、負けを負けとして認識できなくなる。これが怖いんだ」
例えば先の国会、「カジノ法」をめぐる民進党の迷走や蓮舫代表のどうにも芝居がかった語り口は典型だろう。本気で怒っている、その熱が伝わってこない。野に在る者が野性味を手放したら、ナメられるだけだぜ。現に首相は施政方針演説で「国会の中でプラカードを掲げても、何も生まれません」。
だが、言論の府をおとしめているのはそもそも誰か。「何も生まれない」なんて首相に言われる筋合いは、ない。
負け癖を払って野性を取り戻せ。まずは腹から声を出すのだ。ワタシもアナタも、はい、ハッケヨイ、ノコッタ。
朝日デジタル:(政治断簡)怖い強いコワい 政治部次長・高橋純子 2017年1月22日05時00分
新年明けましていまさらおめでとうございます。14字×90行、この「政治断簡」なる土俵に立つこと11回目、気分はいつも土俵際のカド番次長です。どすこい。
大相撲初場所はきょう千秋楽。昨年の初場所で優勝した琴奨菊は7度目のカド番をしのげず大関陥落が決まった。
肉体と精神と。しのぐことの難しさと大切さを説いたのが、作家・色川武大だ。
10代でばくちの世界に身を投じ、徹夜麻雀(マージャン)明けの「朝だ、徹夜」にかけた阿佐田哲也のペンネームで「麻雀放浪記」を著した色川。独特の人生観がつづられた「うらおもて人生録」を読むと、「強い」の捉え方が変わってくる。
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「本当に一目おかなければならない相手は、全勝に近い人じゃなくて、九勝六敗ぐらいの星をいつもあげている人なんだな」「十四勝一敗の選手を、一勝十四敗にすることは、それほどむずかしくないんだ。ところが、誰とやっても九勝六敗、という選手を、一勝十四敗にすることは、これはもう至難の技だね」
一発全力主義のアマチュアと違い、プロは持続を旨とすべし。そのために大事なのは六分勝って四分捨てること。適当な負け星を選んで、大負け越しになるような負け星を避けること。「この神経がフォームとして身についたら、ばくちに限らず、どの道でも怖い存在になるんだけどね」
なるほどそうかそうかもねと縦に振った頭にふと浮かんだのは安倍晋三首相。我ながら、少しく意外だった。
一強かつ強権。イケイケドンドン太鼓を好き放題打ち鳴らしている感のある首相だが、色川色の眼鏡で色々見直すと――。
1次政権の時は全勝を狙い、力任せに勝つには勝つがロスも多く、1年でポキッと折れて大負け越し。
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翻って今、とにかく長く首相でいるために、捨てられるものは捨てる。戦後70年談話や慰安婦問題をめぐる日韓合意、昨年の真珠湾訪問。従来の主義主張に照らせば齟齬(そご)があるはずのこれら、勝ち星としてではなく、大きく負け越さないための星として積まれているのかも。一世一代の大勝負、憲法改正で勝つために……怖い? いや、手強(ごわ)い。
しかし本当にコワいのは、そんな首相と相対する側の「負け癖」だ。色川は、負け続けると身体の反応が違ってくると言う。「感性がにぶくなって、負けを負けとして認識できなくなる。これが怖いんだ」
例えば先の国会、「カジノ法」をめぐる民進党の迷走や蓮舫代表のどうにも芝居がかった語り口は典型だろう。本気で怒っている、その熱が伝わってこない。野に在る者が野性味を手放したら、ナメられるだけだぜ。現に首相は施政方針演説で「国会の中でプラカードを掲げても、何も生まれません」。
だが、言論の府をおとしめているのはそもそも誰か。「何も生まれない」なんて首相に言われる筋合いは、ない。
負け癖を払って野性を取り戻せ。まずは腹から声を出すのだ。ワタシもアナタも、はい、ハッケヨイ、ノコッタ。