もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

4 001 大岡昇平「レイテ戦記(中)」(中公文庫;1971) 感想5

2014年09月11日 00時59分52秒 | 一日一冊読書開始
9月10日(水): ※グーグル・マップでレイテ島やフィリピン諸島を見比べながら、読んだ。
           便利な時代になったものである。

474ページ  所要時間 9:45   アマゾン302円(45円+送料257円)
内訳:
8/31日 181ぺージ  所要時間 3:30 
9/7日  192ページ  所要時間 3:40
9/9火  37ページ  所要時間 1:05
9/10水  61ページ  所要時間 1:30 ※仕事で忙しく、疲れていて、しんどい読書だった。

著者62歳(1909~1988;79歳)。昭和19(1944)年3月召集の後、フィリピン、ミンドロ島に派遣され、昭和20(1945)年1月米軍の俘虜となり、12月復員。

やっぱりバラバラに読むのはよくない。特に本書の場合はそうだ。それなりに時間をかけて読んだが、細かい場面展開の理解には苦しんだ。というか、あまり個々の作戦の状況や全体の構造が頭で形を結ばなかった。時間をかければ可能かと言えば、「研究者として、ノートでもとって月日をかけて詳細に分析するのならともかく、そこまでの熱意も根気もとても持てない」と言うしかない。

しかし、逆に、数か月の短期戦の負けいくさの過程だとわりきれば、リモン峠の日米の戦闘が激化しつつ、膠着化して、作戦計画の中心から外れて無意味な死闘が続く。一方、脊梁山脈を超えてブラウエンの米軍飛行場への攻撃と、南方のアブヨグ・バイバイ方面からの北上攻撃から日本軍の補給・兵站根拠地のレイテ島西部のオルモックを防衛するためのダムラアンの戦闘に、全戦局の中心が移っていく。

やがて海上権、航空権を完全に喪失した日本軍に対して12月7日アメリカ本隊の海上オルモック湾からの上陸作戦が敢行される。数日後、レイテ島日本軍の総司令部のある根拠地オルモックが陥落する。そして未来の無い悲惨な抵抗を続けていた日本軍が四分五裂して壊滅、組織的戦闘がまさに終わる。といったところで中巻の終りを迎える。

だからと言って、何の意味があるのか。肝心なのは、著者が一行一行に精魂こめて書いた論評、挙げられた戦死者・生き残り者の名前、そして何よりも名前も記されずに、45人が死んだ、250人の日本兵の死体が確認された、などと無数に記された死者の数とその地名・日時こそが大事なのだ。まさに、この大きな島の各地で斃死した無数の日本兵の、一人一人のそれぞれの異なる死の数々を頭にイメージすることこそが大切なのだと思う。

とにかく名も分からないたくさんの日本兵たちの死を著者は克明に日時と場所を特定していく。一行一行が、著者の精魂込めて刻み込んだ墓碑銘のような作品なのだ。熱帯の異国の地で斃死・朽ち果てて白骨化した兵士たちへの墓碑銘のような一行一行を流し読み、飛ばし読みをする俺は何をしてるんだろうと思う。しかし、そうでもしなければ、この本を俺は読めないのだ。

本書は、戦記物の記録文学の白眉かもしれないが、物語り性はほとんどない。わずか数カ月の局地戦の敗戦をひたすら、その愚劣と膨大な虚しい死を克明に記録することを通して、読者は、当時、アジア・太平洋全域で同様の戦場が無数に存在していたことを連想させられる。

本書は、局地戦を克明に描き出すことによって、当時すべての戦場であったであろう日本兵すべてが置かれていた戦場の愚劣と斃死という虚しい死への想像力を喚起する。ある意味で、沖縄の「平和の礎(いしじ)」と同じ役割を果たす書なのだと思う。

つまり、本書を一度だけ読んで「なかなか細部の理解まで出来ない」と言って嘆くのは筋違いであって、わかろうとわかるまいと、毎年夏に、あるいは数年毎に読み返して戦死した兵士たち、若者たちの死を思い出すための「平和の礎(いしじ)」「墓碑銘」のような書なのかもしれない。我々は、本書を死んでいった兵士への「墓参り」をするような気分で、繰り返し手にすべきなのかもしれない。

本書は、そういう本なのかもしれない。と、思ったのである。
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