7月29日(日):
191ページ 所要時間2:55 ブックオフ350円
著者67歳(1937生まれ)。神奈川県鎌倉市生まれ。1962年東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1995年東京大学医学部教授を退官し、2017年11月現在東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』『形を読む』『唯脳論』『バカの壁』『養老孟司の大言論I〜III』など多数。
ふと思い出した。若かった時、読書家ですごく知的に見えた先輩たちが「一体、何を考えているのだろう」「どういう風に世の中を観ているのだろう」とよく思った。そして、彼らに尋ねたいと思った。しかし、何をどういう風に聞いたらいいのかもわからず、彼らも饒舌とは反対の、どちらかと言えば、口数の少ない人たちだったので、やり取りは断片的なものとなり、先輩たちが考えていることの全貌は全く霧の中だった。
著者の語り下ろしの本書は、東大医学部教授(解剖学)という当代の最高の知性の人が、「これで自分の中に溜まっていたものは、ほとんどすべて吐き出したと思います。逆さに振っても、もうなにも出ない。」というぐらいに普段考えていることを語り尽くしたものになっている。ある意味、若い時の俺の願いがかなえられた内容と言える本なのかもしれない。あの寡黙で知的に見えた先輩たちも意識的、無意識的にこんなことを考えてたのかなあと垣間見えたように思えた。
本書の内容は、決して難解ではないが、大切なことが語られている気がした。著者は、科学者でありながら、「世間」に強いこだわりを見せ、これとどう折り合いをつけるか、つけてきたかについて語る。様々な興味深い視点が提示されていたが、俺には著者が「世間」との折り合いの付け方の部分が最も印象に残った。
俺も「自分の死」を嫌でも意識する年齢になってきたが、著者は「自分の死(一人称の死)」を考えるのは無駄だ、と述べ死を目覚めない眠りに例えて、それほど心配する必要はないとする。一方で、周りの人々を巻き込む「二人称の死」や、「世間」の中での「三人称の死」について様々な対処の必要性、不必要性を説く。
4歳の時に亡くなった父に「さよなら」を言えなかった記憶が、30歳代まで心に影響を与えていた話は印象的だった。
本書で繰り返し用いられた「非人」という言葉の定義が狭く語られているのが気になった。「非人」という存在の多様性が無視されている気がして不安な気分になった。
【目次】序 章 『バカの壁』の向こう側 :どうすればいいんでしょうか/わからないから面白い/人生の最終解答/人が死なない団地
第一章 なぜ人を殺してはいけないのか :中国の有人宇宙船は快挙か/殺すのは簡単/あともどりできない/ブータンのお爺さん/二度と作れないもの/人間中心主義の危うさ
第二章 不死の病 :不死身の人/魂の消滅/「俺は俺」の矛盾/「本当の自分」は無敵の論理/死ねない/死とウンコ/身体が消えた/裸の都市ギリシャ/死が身近だった中世/死の文化/葬式の人間模様/実感がない/宅間守の怖さ/派出所の不遜/ゲームの中の死体
第三章 生死の境目 :生とは何か/診断書は無関係/境界はあいまい/生の定義/クエン酸回路/システムの連鎖/去年の「私」は別人/絶対死んでいる人/生きている骨/判定基準/誰が患者を殺したか/規定は不可能
第四章 死体の人称 :死体とは何か/一人称の死体/二人称の死体/三人称の死体/モノではない/解剖が出来なくなった頃
第五章 死体は仲間はずれ :清めの塩の意味/なぜ戒名は必要か/人非人とは何者か/江戸の差別問題/この世はメンバーズクラブ/脱会の方法/「間引き」は入会審査/ベトちゃん、ドクちゃんが日本にいない理由
第六章 脳死と村八分 :脳死という脱会/村八分は全員一致で/イラン人の火葬/靖国問題の根本/死刑という村八分/臓器移植法の不思議/「人は人」である/大学も村/ケネディは裏口入学か
第七章 テロ・戦争・大学紛争 :戦争と原理主義/正義の押し付けがましさ/戦争で人減らし/学生運動は就職活動/反権力と反体制/敗軍の将の弁/軍国主義者は戦争を知らない/イラクの知人/国益とは何か/ものつくりという戦争
第八章 安楽死とエリート :安楽死は苦しい/エリートは加害者/産婆の背負う重荷/つきまとう重荷/エリートの消滅
銀の心臓ケース/解剖は誰がやったのか/天の道、人の道/ルールの明文化/人命尊重の範囲/役所の書類が多い理由/自分への恐怖/解剖教室の花
終 章 死と人事異動 :死の恐怖は存在しない/考えても無駄/老醜とは何か/悩むのは当たり前/慌てるな/父の死/挨拶が苦手な理由/死の効用/ただのオリンピック/生き残った者の課題/日々回復不能
【内容紹介】ガンやSARSで騒ぐことはない。そもそも人間の死亡率は100%なのだから――。誰もが必ず通る道でありながら、目をそむけてしまう「死」の問題。死の恐怖といかに向きあうべきか。なぜ人を殺してはいけないのか。生と死の境目はどこにあるのか。イラク戦争と学園紛争の関連性とは。死にまつわるさまざまなテーマを通じて現代人が生きていくうえでの知恵を考える。『バカの壁』に続く養老孟司の新潮新書第二弾。
191ページ 所要時間2:55 ブックオフ350円
著者67歳(1937生まれ)。神奈川県鎌倉市生まれ。1962年東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1995年東京大学医学部教授を退官し、2017年11月現在東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』『形を読む』『唯脳論』『バカの壁』『養老孟司の大言論I〜III』など多数。
ふと思い出した。若かった時、読書家ですごく知的に見えた先輩たちが「一体、何を考えているのだろう」「どういう風に世の中を観ているのだろう」とよく思った。そして、彼らに尋ねたいと思った。しかし、何をどういう風に聞いたらいいのかもわからず、彼らも饒舌とは反対の、どちらかと言えば、口数の少ない人たちだったので、やり取りは断片的なものとなり、先輩たちが考えていることの全貌は全く霧の中だった。
著者の語り下ろしの本書は、東大医学部教授(解剖学)という当代の最高の知性の人が、「これで自分の中に溜まっていたものは、ほとんどすべて吐き出したと思います。逆さに振っても、もうなにも出ない。」というぐらいに普段考えていることを語り尽くしたものになっている。ある意味、若い時の俺の願いがかなえられた内容と言える本なのかもしれない。あの寡黙で知的に見えた先輩たちも意識的、無意識的にこんなことを考えてたのかなあと垣間見えたように思えた。
本書の内容は、決して難解ではないが、大切なことが語られている気がした。著者は、科学者でありながら、「世間」に強いこだわりを見せ、これとどう折り合いをつけるか、つけてきたかについて語る。様々な興味深い視点が提示されていたが、俺には著者が「世間」との折り合いの付け方の部分が最も印象に残った。
俺も「自分の死」を嫌でも意識する年齢になってきたが、著者は「自分の死(一人称の死)」を考えるのは無駄だ、と述べ死を目覚めない眠りに例えて、それほど心配する必要はないとする。一方で、周りの人々を巻き込む「二人称の死」や、「世間」の中での「三人称の死」について様々な対処の必要性、不必要性を説く。
4歳の時に亡くなった父に「さよなら」を言えなかった記憶が、30歳代まで心に影響を与えていた話は印象的だった。
本書で繰り返し用いられた「非人」という言葉の定義が狭く語られているのが気になった。「非人」という存在の多様性が無視されている気がして不安な気分になった。
【目次】序 章 『バカの壁』の向こう側 :どうすればいいんでしょうか/わからないから面白い/人生の最終解答/人が死なない団地
第一章 なぜ人を殺してはいけないのか :中国の有人宇宙船は快挙か/殺すのは簡単/あともどりできない/ブータンのお爺さん/二度と作れないもの/人間中心主義の危うさ
第二章 不死の病 :不死身の人/魂の消滅/「俺は俺」の矛盾/「本当の自分」は無敵の論理/死ねない/死とウンコ/身体が消えた/裸の都市ギリシャ/死が身近だった中世/死の文化/葬式の人間模様/実感がない/宅間守の怖さ/派出所の不遜/ゲームの中の死体
第三章 生死の境目 :生とは何か/診断書は無関係/境界はあいまい/生の定義/クエン酸回路/システムの連鎖/去年の「私」は別人/絶対死んでいる人/生きている骨/判定基準/誰が患者を殺したか/規定は不可能
第四章 死体の人称 :死体とは何か/一人称の死体/二人称の死体/三人称の死体/モノではない/解剖が出来なくなった頃
第五章 死体は仲間はずれ :清めの塩の意味/なぜ戒名は必要か/人非人とは何者か/江戸の差別問題/この世はメンバーズクラブ/脱会の方法/「間引き」は入会審査/ベトちゃん、ドクちゃんが日本にいない理由
第六章 脳死と村八分 :脳死という脱会/村八分は全員一致で/イラン人の火葬/靖国問題の根本/死刑という村八分/臓器移植法の不思議/「人は人」である/大学も村/ケネディは裏口入学か
第七章 テロ・戦争・大学紛争 :戦争と原理主義/正義の押し付けがましさ/戦争で人減らし/学生運動は就職活動/反権力と反体制/敗軍の将の弁/軍国主義者は戦争を知らない/イラクの知人/国益とは何か/ものつくりという戦争
第八章 安楽死とエリート :安楽死は苦しい/エリートは加害者/産婆の背負う重荷/つきまとう重荷/エリートの消滅
銀の心臓ケース/解剖は誰がやったのか/天の道、人の道/ルールの明文化/人命尊重の範囲/役所の書類が多い理由/自分への恐怖/解剖教室の花
終 章 死と人事異動 :死の恐怖は存在しない/考えても無駄/老醜とは何か/悩むのは当たり前/慌てるな/父の死/挨拶が苦手な理由/死の効用/ただのオリンピック/生き残った者の課題/日々回復不能
【内容紹介】ガンやSARSで騒ぐことはない。そもそも人間の死亡率は100%なのだから――。誰もが必ず通る道でありながら、目をそむけてしまう「死」の問題。死の恐怖といかに向きあうべきか。なぜ人を殺してはいけないのか。生と死の境目はどこにあるのか。イラク戦争と学園紛争の関連性とは。死にまつわるさまざまなテーマを通じて現代人が生きていくうえでの知恵を考える。『バカの壁』に続く養老孟司の新潮新書第二弾。