7月11日(土):
日刊ゲンダイ:<第2回>「十分な審議なければ採決拒否」維新が貫けば首相窮地 安保法案を潰す秘策を話そう/小沢一郎 2015年7月11日
安保関連法案をめぐる今週の焦点は、維新の党が政府案への対案を出し、8日に国会に提出したことだ。集団的自衛権を行使する要件となる政府案の「存立危機事態」に対抗する概念として、「武力攻撃危機事態」を新設した。
これについて維新は、橋下徹最高顧問も、松野頼久代表も、柿沢未途幹事長も、「少なくとも7月いっぱいは審議してもらわなければ、『十分な審議』とは言えない。そうでなければ採決を拒否する」と言っている。まさにこの通りならば、政府は大変な苦境に陥ることになる。維新が最後までこの方針を堅持すれば、安倍首相は窮地に追い込まれる。
政府与党は、法案を15日に委員会で、16日に衆議院本会議で採決したいとしている。衆院再可決の60日ルールを適用するための限界は、29日の衆院本会議の採決で間に合う。いま28日採決が囁かれているが、これは全くのごまかしである。しかし、政府与党としては、数日の余裕をもって採決すると思う。遅くとも24日には何としても強行するのではないか。なぜなら野党がその気になれば、不信任案を連発することで、最大7泊8日の日数がかかるからだ。いずれにせよ28日採決なら60日ルールの適用がなくなるという、ごまかしに引っかかってはならない。
安保法案に対する国民の疑問はどんどん大きくなり、解消する見通しはない。審議をすればするほど、「おかしい」という声が広がるんじゃないか。そうしたら、とてもじゃないけど参議院での審議なんてやりきれない。
途中にお盆を挟むし、全野党が共闘する岩手県知事選もある。
そう考えると、安倍さんは前述したように何が何でも24日めどで採決するだろう。強行採決になった時、公明党はついていくのか。いざとなれば自民党単独で過半数あるから通せるが、そこまでしたら安倍内閣はもたないだろう。
だから、とにかく維新がいま主張している方針を最後まで貫くのかどうかが、重要になってくる。それによって安倍政権の命運も決まる。過半数の国民が安保法案に反対しているのだから、ぜひ維新は、全野党共闘で、国民の期待に応えなくちゃいけないと思う。それが廃案にする唯一の方法だろう。
野党の足並みが乱れたら、戦は勝てない。振り返れば、09年の政権交代に向けての民主党の戦いも徹底的にやった。あの時は民主党がほぼ1党ではあったけれど、消えた年金問題やガソリン税の暫定税率廃止など、国民の生活に直接響く問題だったから、徹底抗戦が国民に受け入れられた。
今度の法案は、いますぐ国民生活に影響する話ではないけれど、みんな将来に空恐ろしい不安感を持ち始めている。こうした国民的背景があれば、野党が「採決に応じない」という強硬策を取っても、国民に理解されると思う。採決に応じないというのは、審議拒否じゃない。もっと議論しろという話だ。特に憲法9条との整合性という大事な問題は、まったく議論が深まっていない。「政府はもっときちんと説明しろ。それをしないで採決はおかしい」という野党の主張は、国民に受け入れられると思う。
安保法案に対する国民の不安の声がこのままどんどん高まり、野党が揃って共闘できれば、廃案は本当に現実的になってくる。
東京新聞:【社説】「違憲」安保法制 審議尽くさず採決とは 2015年7月11日
憲法違反との指摘が相次ぎ、対案が提出されたにもかかわらず、なぜ成立を急ぐのか。戦後日本の専守防衛政策を根本から変える法案である。審議を尽くさないまま、採決に踏みきるべきではない。
衆院平和安全法制特別委員会はきのう、政府提出の安全保障法制関連法案に加え、民主、維新両党が共同提出した武力攻撃に至らない事態に備える「領域警備法案」と、維新が単独提出した対案についても審議を始めた。
とはいえ、政府・与党は、集団的自衛権の行使に道を開く政府提出法案がどれだけ違憲と指摘されても、法案の撤回や廃案、修正に応じるつもりは全くないようだ。
首相は特別委で領域警備法案について「必要と考えていない」と一蹴、維新の対案についても、高村正彦自民党副総裁は維新との協議後、「画然とした差がある。埋めるのは大変だ」と語っている。
政府・与党の関心はもはや、議論を深めることよりも特別委の審議をいつ打ち切り、衆院を通過させるかにあるのだろう。
首相は特別委で「委員会で議論が深められ、時期が来れば採決することが民主主義の基本だ」と述べ、谷垣禎一自民党幹事長もきのうの党役員連絡会で「来週はヤマ場だ」と述べた。政府提出法案を早ければ十五日に特別委で、十六日に衆院本会議で可決し、参院に送付したい考えのようだ。
首相が、米連邦議会で夏までの安保法案成立を約束したことが、それほど大事なのだろうか。憲法順守を求める日本国民と米国の、どちらを向いているのか。
憲法学者の多くや世論調査では国民の過半数が「憲法違反」として反対する法案である。対案も含めて慎重に審議し、日本の安全保障のあるべき姿についての議論を尽くすべきではないのか。
本紙のアンケートでは、回答した憲法学者二百四人のうち、九割に上る百八十四人が政府提出法案を違憲と断じている。
菅義偉官房長官は「どのような意見が多数派か少数派かは重要ではない」と述べた。数に意味がないというのなら、与党多数の数の力を頼りに、法案成立を押し切ることがなぜできるのか。
歴代内閣が堅持してきた、集団的自衛権の行使を違憲とする憲法解釈を一内閣の判断で変えた上、国民多数の反対を顧みずに安保法案を成立させようとする。憲法が権力を制限する立憲主義を、二重の意味で蔑(ないがし)ろにする行為である。断じて許すわけにはいかない。
日刊ゲンダイ:<第2回>「十分な審議なければ採決拒否」維新が貫けば首相窮地 安保法案を潰す秘策を話そう/小沢一郎 2015年7月11日
安保関連法案をめぐる今週の焦点は、維新の党が政府案への対案を出し、8日に国会に提出したことだ。集団的自衛権を行使する要件となる政府案の「存立危機事態」に対抗する概念として、「武力攻撃危機事態」を新設した。
これについて維新は、橋下徹最高顧問も、松野頼久代表も、柿沢未途幹事長も、「少なくとも7月いっぱいは審議してもらわなければ、『十分な審議』とは言えない。そうでなければ採決を拒否する」と言っている。まさにこの通りならば、政府は大変な苦境に陥ることになる。維新が最後までこの方針を堅持すれば、安倍首相は窮地に追い込まれる。
政府与党は、法案を15日に委員会で、16日に衆議院本会議で採決したいとしている。衆院再可決の60日ルールを適用するための限界は、29日の衆院本会議の採決で間に合う。いま28日採決が囁かれているが、これは全くのごまかしである。しかし、政府与党としては、数日の余裕をもって採決すると思う。遅くとも24日には何としても強行するのではないか。なぜなら野党がその気になれば、不信任案を連発することで、最大7泊8日の日数がかかるからだ。いずれにせよ28日採決なら60日ルールの適用がなくなるという、ごまかしに引っかかってはならない。
安保法案に対する国民の疑問はどんどん大きくなり、解消する見通しはない。審議をすればするほど、「おかしい」という声が広がるんじゃないか。そうしたら、とてもじゃないけど参議院での審議なんてやりきれない。
途中にお盆を挟むし、全野党が共闘する岩手県知事選もある。
そう考えると、安倍さんは前述したように何が何でも24日めどで採決するだろう。強行採決になった時、公明党はついていくのか。いざとなれば自民党単独で過半数あるから通せるが、そこまでしたら安倍内閣はもたないだろう。
だから、とにかく維新がいま主張している方針を最後まで貫くのかどうかが、重要になってくる。それによって安倍政権の命運も決まる。過半数の国民が安保法案に反対しているのだから、ぜひ維新は、全野党共闘で、国民の期待に応えなくちゃいけないと思う。それが廃案にする唯一の方法だろう。
野党の足並みが乱れたら、戦は勝てない。振り返れば、09年の政権交代に向けての民主党の戦いも徹底的にやった。あの時は民主党がほぼ1党ではあったけれど、消えた年金問題やガソリン税の暫定税率廃止など、国民の生活に直接響く問題だったから、徹底抗戦が国民に受け入れられた。
今度の法案は、いますぐ国民生活に影響する話ではないけれど、みんな将来に空恐ろしい不安感を持ち始めている。こうした国民的背景があれば、野党が「採決に応じない」という強硬策を取っても、国民に理解されると思う。採決に応じないというのは、審議拒否じゃない。もっと議論しろという話だ。特に憲法9条との整合性という大事な問題は、まったく議論が深まっていない。「政府はもっときちんと説明しろ。それをしないで採決はおかしい」という野党の主張は、国民に受け入れられると思う。
安保法案に対する国民の不安の声がこのままどんどん高まり、野党が揃って共闘できれば、廃案は本当に現実的になってくる。
東京新聞:【社説】「違憲」安保法制 審議尽くさず採決とは 2015年7月11日
憲法違反との指摘が相次ぎ、対案が提出されたにもかかわらず、なぜ成立を急ぐのか。戦後日本の専守防衛政策を根本から変える法案である。審議を尽くさないまま、採決に踏みきるべきではない。
衆院平和安全法制特別委員会はきのう、政府提出の安全保障法制関連法案に加え、民主、維新両党が共同提出した武力攻撃に至らない事態に備える「領域警備法案」と、維新が単独提出した対案についても審議を始めた。
とはいえ、政府・与党は、集団的自衛権の行使に道を開く政府提出法案がどれだけ違憲と指摘されても、法案の撤回や廃案、修正に応じるつもりは全くないようだ。
首相は特別委で領域警備法案について「必要と考えていない」と一蹴、維新の対案についても、高村正彦自民党副総裁は維新との協議後、「画然とした差がある。埋めるのは大変だ」と語っている。
政府・与党の関心はもはや、議論を深めることよりも特別委の審議をいつ打ち切り、衆院を通過させるかにあるのだろう。
首相は特別委で「委員会で議論が深められ、時期が来れば採決することが民主主義の基本だ」と述べ、谷垣禎一自民党幹事長もきのうの党役員連絡会で「来週はヤマ場だ」と述べた。政府提出法案を早ければ十五日に特別委で、十六日に衆院本会議で可決し、参院に送付したい考えのようだ。
首相が、米連邦議会で夏までの安保法案成立を約束したことが、それほど大事なのだろうか。憲法順守を求める日本国民と米国の、どちらを向いているのか。
憲法学者の多くや世論調査では国民の過半数が「憲法違反」として反対する法案である。対案も含めて慎重に審議し、日本の安全保障のあるべき姿についての議論を尽くすべきではないのか。
本紙のアンケートでは、回答した憲法学者二百四人のうち、九割に上る百八十四人が政府提出法案を違憲と断じている。
菅義偉官房長官は「どのような意見が多数派か少数派かは重要ではない」と述べた。数に意味がないというのなら、与党多数の数の力を頼りに、法案成立を押し切ることがなぜできるのか。
歴代内閣が堅持してきた、集団的自衛権の行使を違憲とする憲法解釈を一内閣の判断で変えた上、国民多数の反対を顧みずに安保法案を成立させようとする。憲法が権力を制限する立憲主義を、二重の意味で蔑(ないがし)ろにする行為である。断じて許すわけにはいかない。