もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

4 028 大岡昇平「レイテ戦記(下)」(中公文庫;1971、補遺1984)感想5

2014年12月01日 02時05分55秒 | 一日一冊読書開始
11月30日(日):

504ページ  所要時間8:00  アマゾン258円(1円+送料257円)

著者62歳(1909~1988;79歳)。昭和19(1944)年3月召集の後、フィリピン、ミンドロ島に派遣され、昭和20(1945)年1月米軍の俘虜となり、12月復員。1971年、芸術院会員への推挽を拒否、暗に昭和天皇に対し「恥を知れ」というメッセージを発する(白井聡「永続敗戦論」より)。

二日がかりで読んだ。下巻の本文は、323ページで終わっていて、あとは膨大な付録、解説、補遺である。本文だけで、ほぼ7hもかかっているが、正直地名と隊名・人名、日時、数字の連続でなかなか読めているとは言えない。目を這わせながら、興味を引く部分で線を引いてチェックしたりするだけで時間を食ってばかりだった。たくさんの付箋をしたが、自分の本なのであとではがさなくてよいのが嬉しい。

まあ読んだというのは恥ずかしくて言えない状況だが、それでも本書に全部目を這わせることができたことは、自分の人生にとって大変大きな宿題を果たした気分だ。もう一度読み直したいかと言えば、ちょっとしばらく勘弁…、でもいつかまたお墓参りをするように読み直せればいいと思う。

戦争を知らない家業政治屋どもにぜひ読ませたい本だ。戦争を論じる場合に最初に踏まえるべき書である。「89冊目 佐高信「司馬遼太郎と藤沢周平 「歴史と人間」をどう読むか」(光文社知恵の森文庫;1999) 評価3」で佐高さんが「『坂の上の雲』と『レイテ戦記』(大岡昇平)では、世界文学として残るのは『レイテ戦記』である。」と述べていたが、司馬遼太郎ファンの俺も、今はこの言葉の妥当性をはっきりと認めざるを得ない。「おっしゃるとおり!」です。

中巻で、オルモックの日本軍拠点が、米軍によって奪われ、組織的戦闘が瓦解したので、本書(下巻)の内容は、総崩れになった日本軍がリボンガオ―マタコブを経て、増援・脱出の期待できる西北海岸のパロンポンを一路目指すが、現実には困難を極め、食糧調達と敗残兵を集めやすい目印にもなるカンギポット山に集結する。上巻・中巻ではレイテ島全体が舞台だったが、下巻では東北隅のごく狭い範囲のみが活動場所だった。

海を渡って45kmのセブ島への脱出も1回だけ、ごく一部800人ほどが成功した後は、ことごとく失敗・不可能となり永久抗戦を命じられている1万人を超す敗残日本兵は打つ手なく、衰滅していく。

下巻の日本軍はすでに米軍の敵ではなく、逃げまどう姿ばかりが多くなるが、上巻・中巻ではそれほどでもなかった「フィリピン人のゲリラ」が俄然日本兵を脅かす恐ろしい存在としてたくさん出て来るようになった。

最後のエピローグでは、著者のマッカーサーに対するエゴイズムで戦争をする将軍として、その我がままぶりが延々描かれ続ける。それは戦後のフィリピンや日本に対する支配のあり方にも一貫しているものであるとして、著者のマッカーサーという人物に対する極めて厳しい目が印象的だった。ただ、エピローグの後半では、フィリピンの現代史ばかりが書かれていて、いささか本書の終わり方としては、余韻が良くなかった。でも、膨大な日本兵が斃死したその地が、その後どうなったのかは、著者がどうしても描いておきたかったことだったのだろう。

本書では、様々の階級や立場の人々が、それぞれに個別の悲惨な最期を遂げていく。運・不運、意志・絶望、覚悟・突然、堕落・困憊、死ぬ場所は、道無き道の標としての死体、砲弾による絨緞撃、ゲリラに首をかき切られる死、そして日本兵同士による人肉喰い、脱出した海で溺死、偵察機による爆撃、餓死、etc.数え切れない多様な死があり、そのことごとくが悲惨である。安らかな死など全く無い。名もなく人知れず孤独な無数の死ばかりだ。完全な敗戦には希望の希の字も存在しない。

「レイテ戦記」を読んで、結局感じたことは、「国家のメンツだなんだと、戦争を辞さないなどと言って、<戦争への戒め>を忘れ、戦争を甘く見て、<仕方のない戦争>もある、などと戦争を肯定するような奴らは、みんなまとめて<悪党>で<ろくでなし>だ!」、「国家間に、いかなる問題が生じようと、戦争だけは選択肢に入れてはいけない!という当り前のことが実感を持って感じられたことだ。
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