5月7日(土):
副題「1万3000年にわたる人類史の謎」
349ページ 所要時間 3:00 アマゾン 284(27+257)円
著者60歳(1937生まれ)。米国ボストン生まれ。専門の生物地理学や生理学に加え、文明論の著作もある。1998年のピュリツァー賞受賞作『銃・病原菌・鉄』、『文明崩壊』(ともに草思社)など著書多数。
1ページ30秒読書では、意味を取り切ることはできない。また、細かな内容を知り切る義理を感じる本でもなかった。
「歴史は、民族によって異なる経路をたどったが、それは居住環境の差異によるものであって、民族間の生物学的な差異によるものではない」ということを1万3000年前にさかのぼって、1492年を大きな画期としつつ叙述されている。著者は歴史と人種問題に対する謙虚さを強調しながら、俯瞰的に歴史を縦横無尽に語って見せて、さぞかし気持ちよいことだろうが、読んでる側から見ると中国や日本に対する叙述の内容の粗雑さに強い違和感を覚えさせられ、それは全体の叙述の粗雑さの反映ではないか?、と疑問符が付き始めると、あとはどこまで著者の自己満足についていったらいいのか、という気分にもさせられた。
感想3+は、俺自身の読みの能力の問題によるのだが、たとえ十二分に読み込んでも4+が限界だろう。感想5にはならないと思う。理由は明らかで、上に述べた通り、著者の議論の進め方に独り善がりを覚えるからだ。もう一つ踏み込んでいえば、謙虚を装ったWASP的な傲慢さ。1万3000年という長いスパンで歴史を語っているというスタイルをとりながら、その実、悠久の歴史の一瞬に過ぎないこの100年ほどの欧米の優位を絶対的な前提として説明している自己矛盾に対して鈍感さを覚えるのだ。
著者は、医学部教授の理系の学者が俯瞰的に世界史を叙述することに快感を覚えているようだが、世界全史を叙述するにはあまりにも知識が疎漏なのではないか。論じられる東アジアの国々の一員として強い違和感を覚えたことを記しておきたい。
もっと著者の趣旨を汲み取って「人種によらず、居住環境によって世界史は動いてるんだ」という部分を評価して味わうべきだろう、という指摘があれば、俺には二つの答えがある。一つは、その通りかもしれません。本書をもっと楽しむべきかもしれません。揚げ足取りだけではもったいないのかもしれませんね。しかし、もう一つの答えは、こんな独善的な部分をたくさん抱えた世界全史を有難く拝読するほどの暇な時間は俺にはありません。あしからず。だ。どっちの答えが、良いのかは、またの機会に置いておく。
本書を、初めて知ったのは、ひょっとしたら立花隆さんあたりが紹介していたかもしれないが、直接的には最近のNHKスイッチインタビューで京大の山極総長が、対談の中で紹介していたのを観たからだ。なぜ紹介していたのかの理由が、ポリネシアやオーストラリア、アフリカへの言及が本書に多かったことであるのは理解できた。
しかし、著者自身の談論風発、縦横無尽、侃々諤々の「いいこと言ってるでしょう!」という独り善がり?のいい気分には付いて行けない。世界史の総括本としては「人種への見せかけの謙虚さなんていらないから(そんなことは当たり前すぎて今さら強調することでもない!)、
もう少し細部への緻密さがないと読み手としては話に乗れない」というのが正直な感想だ。
<下巻目次>
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第3部 銃・病原菌・鉄の謎(承前)13
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第12章 文字をつくった人と借りた人: 文字の誕生と発展 14/三つの戦略 16/シューメル文字とマヤ文字 18/文字の伝播 26/既存文字の借用 27/インディアンが作った文字 32/古代の文字表記 34/文字を使える人びと 38/地形と自然環境の障壁 43
第13章 発明は必要の母である: ファイストスの円盤 47/発明が用途を生む 51/誇張された「天才発明家」 54/先史時代の発明 56/受容されなかった発明 59/社会によって異なる技術の受容 62/同じ大陸で見られる技術の受容のちがい 65/技術の伝播 69/地理上の位置の役割 72/技術は自己触媒的に発達する 76/技術における二つの大躍進 78
第14章 平等な社会から集権的な社会へ: ファユ族と宗教 85/小規模血縁集団 88/部族社会 92/首長社会 96/富の分配 100/首長社会から国家へ 104/宗教と愛国心 108/国家の形成 110/食料生産と国家 113/集権化 115/外圧と征服 118
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第4部 世界に横たわる謎 127
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第15章 オーストラリアとニューギニアのミステリー: オーストラリア大陸の特異性 128/オーストラリア大陸はなぜ発展しなかったのか 131/近くて遠いオーストラリアとニューギニア 134/ニューギニア高地での食料生産 140/金属器、文字、国家を持たなかったニューギニア 143/オーストラリア・アボリジニの生活様式 148/地理的孤立にともなう後退 153/トレス海峡をはさんだ文化の伝達 156/ヨーロッパ人はなぜニューギニアに定住できなかったか 162/白人はなぜオーストラリアに入植できたか 166/白人入植者が持ち込んだ最終産物 168
第16章 中国はいかにして中国になったのか:中国の「中国化」 171/南方の拡散 175/東アジア文明と中国の役割 181
第17章 太平洋に広がっていった人びと: オーストロネシア人の拡散 189/オーストロネシア語と台湾 193/画期的なカヌーの発明 198/オーストロネシア語の祖語 202/ニューギニアでの拡散 206/ラピタ式土器 210/太平洋の島々への進出 214/ヨーロッパ人の定住をさまたげたもの 218
第18章 旧世界と新世界の遭遇:アメリカ先住民はなぜ旧世界を征服できなかったのか 221/アメリカ先住民の食料生産 222/免疫・技術のちがい 226/政治機構のちがい 230/主要な発明・技術の登場 231/地理的分断の影響 236/旧世界と新世界の遭遇 247/アメリカ大陸への入植の結末 250
第19章 アフリカはいかにして黒人の世界になったか: アフリカ民族の多様性 257/アフリカ大陸の五つのグループ 260//アフリカの言語が教えてくれること 265/アフリカにおける食料生産 272/アフリカの農耕・牧畜の起源 278/オーストロネシア人のマダガスカル島への拡散 282/バンツー族の拡散 284/アフリカとヨーロッパの衝突 291
エピローグ 科学としての人類史: 環境上の四つの要因 297/考察すべき今後の課題 302/なぜ中国ではなくヨーロッパだったのか 304/文化の特異性が果たす役割 316/歴史に影響を与える「個人」とは 319/科学としての人類史 320
訳者あとがき 329
索引 350