おとらのブログ

観たもの、見たもの、読んだもの、食べたものについて、ウダウダ、ツラツラ、ヘラヘラ書き綴っています。

振りかえるのはまだ早い

2013-08-22 23:33:17 | 読んだもの
 杉村春子先生の自叙伝「振りかえるのはまだ早い」を読みました。1986年に発行された本でこれも古本屋さんです。杉村春子先生のいわゆる伝記はこれまでもう3冊(日経新聞の「女優の運命-私の履歴書」、中丸美繪さんの「杉村春子-女優として女として-」、大笹吉雄さんの「女優 杉村春子」)も読んでいるので、もういいかなぁと思いましたが、玉ちゃんのご本といっしょに見つけたというのも何かのご縁かと思い、いっしょにお買い上げです。

 内容紹介です。
芸者の子に生まれ、数日後に他家へ貰われていった生いたち。女優への夢、二人の夫との愛と死別。戦争のさなかでの劇作家森本薫との宿命的な恋と別れ。文学座の分裂事件などをめぐって、今だから話せる、昭和の新劇史とともに生きた女優の証言。

 さすがに4冊目ともなると大体知ってることなんですが、この本はご自身で書かれたのではなく、聞き書きで、文字に起こされた原田八重さんとおっしゃる方が杉村先生の話し方の特徴をよく捉えていらっしゃって(これはあとがきで杉村先生も謝辞を送っていらっしゃいました)、読んでいても杉村先生の声が聞こえてくるようなそんな感じでした。

 杉村先生の代表作、三島由紀夫の「鹿鳴館」ですが、三島らしい美辞麗句が散りばめられ、最初は杉村先生でも難しくてどうしようと思われたそうですが、三島からは「もう何にも考えないで。あなたはよく新派的だといわれてきたけど、そんなことはかまわないから、うーんと大見得切ってお芝居してごらん」とアドバイスを受けられたそうです。それまで、確かに“新派的”という批判があって悩まれていたそうですが、このお芝居はそれを逆手に取ったような、そういう部分を杉村先生の新しいスタイルとして確立させたようです。以前、劇団四季の「鹿鳴館」を見たことがありますが、確かに杉村先生のために書かれたお芝居だと思いました。四季の看板女優、野村玲子さんではちょっと手に負えないような…。

 三島由紀夫は「僕の歌舞伎のほうのヒロインは歌右衛門さん、新劇のほうのヒロインは杉村春子さん」とおっしゃっていたそうで、昭和38年の「喜びの琴事件」さえなければ、もっともっと杉村先生のためにお芝居を書かれたでしょうね。杉村先生ももう一度ちゃんと会って話をしようと思っていたのに思いがけない亡くなりかたでぷつっと糸が切れたとおっしゃっていました。

 森本薫さんの文学碑が大阪市の中津にあるそうで、その除幕式※に杉村先生がいらしたようで、そこで森本薫さんの奥様とお会いになって、その時のことを「奥さんにどういうふうに話していいか分からないんですよ。それこそ40年経っているからなんでもないようだけど、すでにもう彼方へ行ってるかと思うけれども。やっぱり直接会うとね、忸怩たるものがあるような気がしてしようがない。奥さんのある人、好きになっちゃいけない。金輪際、奥さんのいる人、好きになるまいとその頃、あんまりつらいから思ってましたけど」と語っていらっしゃいます。天下の杉村先生でもこういう思いをなさっているんですね。ちょっとびっくりしました。杉村先生、2回結婚なさっていてそのお二人のご主人のこともいろいろ語っていらっしゃるんですが、ここまで生々しくなくて、それだけ森本薫さんのことを一番愛していらっしゃったんでしょうか。

 ※訂正
 文学碑ができたのは1986年、除幕式には杉村先生に代わって戌井市郎さんが出席されたそうです。1996年に森本薫没後五十年の集いが京都で行われ、杉村先生はそちらに行かれたようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする