おとらのブログ

観たもの、見たもの、読んだもの、食べたものについて、ウダウダ、ツラツラ、ヘラヘラ書き綴っています。

狂言兄弟 千作・千之丞の87年

2013-08-17 23:57:39 | 読んだもの
 「狂言兄弟 千作・千之丞の87年」を読みました。著者は「茂山千作、茂山千之丞、宮辻政夫」となっています。宮辻政夫さんは元毎日新聞の記者さんで、古典芸能(特に上方の)に造詣が深く、「演劇界」の毎月の劇評も書いていらっしゃいます。

 内容紹介です。
つかず離れず。

天衣無縫の兄は、舞台に立つだけで笑いをとり、
理論派の弟は、自らを演出して芸の枠を広げた。
ふたりに通じるのは苦労を厭わない心と狂言への愛。

京都の名門芸能家、一世紀の物語。

 この本は2006年4月8日から2008年4月19日まで毎日新聞大阪本社発行土曜夕刊に隔週連載された「千作・千之丞 泣き笑い兄弟80年」が元になっています。宮辻さんがお二人を取材、それを原稿にまとめられましたが、単行本になるにあたり、全面的に改稿、分量も連載時より4~5倍に膨れているそうです。

 私はてっきり千作さんがお亡くなりになったので発行されたのかと思っていたら、そうではなく、あとがきで宮辻さんが「千作さんがお元気なうちに本になったよかった」みたいなことを書いていらっしゃったので、ご存命のうちに発行されたようです。

 千作さんと千之丞さんに宮辻さんが時代を追ってインタビューされ、小さい頃から現在までのお二人の足跡を辿る内容になっています。お二人だけでなく、周辺の方々へのインタビューもあります。その間に時代背景とか狂言の世界とか補足説明もあり、ちょっとした「昭和史」にもなっています。お二人については「他の流派や他のジャンルの演劇の人といっしょの舞台に立って能楽協会から退会勧告を受けた」「全国の学校を回って狂言の普及に努めた」「梅原猛のスーパー狂言」等々断片的な知識は持っていましたが、最初からずっと読み進めていくと、「千作・千之丞の87年」が目の前で再現されているような、とても興味深い面白い本でした。

 お二人ともお小さい頃に祇園祭のお稚児さんをなさっています。学校の成績は千之丞さんがよくて、いつも級長をなさっていたそうです。千之丞さんと言えば“理論派”で通っていました。「三つ子の魂百まで」ですね。昔は狂言のお家でも長男以外はそれでは食べていけないから他に職業を持って、土日だけ狂言をするという生活を送っていらっしゃったそうです。千作さんの次男さんの七五三さんもお若いときは京都中央信用金庫にお勤めだったそうで、そう思うと今の茂山家の皆さんは恵まれていらっしゃいますよね。それだけ公演の数が増えている、仕事があるということですが、ただ、それについては千作さんも千之丞さんもお稽古をする時間がないから「いかがなものか」とちょっと苦言を呈していらっしゃいました。

 プライベートのお話も随所に散りばめられ、そちらはほとんど知らないことばかりで、基本ワイドショー大好き人間ですので、「それでそれで…」と興味津々で読ませていただきました。千作さん、最初の奥様をご病気(医療過誤?)で亡くされ、再婚されていたんですね。三男さんとお孫さんの年齢があまり変わらないのでいつも不思議に思っておりましたが、これでナゾ?が解けました。

 いちいち書き出していたらキリがないのですが、300ページ余りの大作で、いつも申しておりますが私は通勤途上でしか読書をしない人なので、普段のバッグには入らず、この本のためのサブバッグを持って毎日読んでおりました。

 内容とは直接関係ないことですが、インタビューなので、お話された言葉がそのまま文字になっています。やはり京都のお方なので語尾が「~おへんな」「~おすな」なんです。文楽の住大夫さんは大阪のお人なので語尾は「~ねん」「おまへん」。同じ関西弁でも微妙に違うということを実感しました。

 渡辺保さんがちょうど毎日新聞に書評を掲載されましたが、この本は千作さん・千之丞さんに対する単なるインタビューではなく、「狂言師の大家族の肖像、核家族以前の日本の家族の歴史の一頁」と書いていらっしゃいます。

 超の本です。それにしても↑表紙の写真、よろしゅうございますね。ちょっと泣きそうになりました。ヒロセマリコさんとおっしゃる写真家の方が撮影されたそうです。昨年、京都で展覧会があったみたいで、見てみたかったです。
コメント (4)
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