四月大歌舞伎でございます。月初の孝夫さん
の休演には本当にびっくりしました。その時は病状の深刻の度合いはわかりませんでしたが、3日の休演で大丈夫だったのか?と何となく思っていました(千穐楽のタカタロさんのブログによればかなり深刻な状況だったようです)。一応、復活されたとは言え、毎日「今日は大丈夫?」って松竹のサイトをチェックしてました。上京する時もドキドキで「とにかく1回でいいから孝玉コンビ
で見せて
。1回見られたらはーちゃんの代役でもいいから」と祈るような気持ちで新幹線に乗り込みました。幸い3回とも孝玉コンビ
を見ることができ、ホッとしました。
「与話情浮名横櫛」は3回見ました。孝夫さん
の与三郎、玉ちゃん
のお富さんはそれぞれ見てるのですが、お二人いっしょのお舞台は初めてでした。それぞれ見た時ももちろんとてもステキな与三郎とお富さんでしたが、お二人が揃うとそのステキさが増しまし、10倍?100倍?になってました。孝夫さん
の与三郎、お育ちのよい若旦那、ぴったりでした。まぎれもなく20代前半のうぶな青年でした。出会いの場面なんて、毎回ビビビビビッと光線が出てたような、あの視線の絡み具合がたまりませんね。玉ちゃん
のお富さんもお江戸のすっきりと垢ぬけた風情で、玉ちゃん
以外の田舎の人とは明らかに人種が違っていました。そこだけふわ~っと風が吹き抜けていきました。
「赤間別荘」の場面は皆さんおっしゃっているように、キュンキュン・ドキドキ・ハラハラで、簀戸っていうんでしょうか、部屋の中の灯りがつくと透けて見えるあの演出、見てはいけないものを見ているような気になります。玉ちゃん
が超積極的で、孝玉コンビ
っていつも孝夫さん
がリードしているイメージがあるので、「逆転してるわ」って訳のわからんことを思いながら見ておりました。3階から見下ろすと簀戸の中はちゃんとお布団も敷いてありました。お二人が抱き合ったままお布団の上に倒れこむ瞬間、「キャッ、そんなこと公衆の面前でしていいんですか」って言いそうになりました。ただ、赤間親分に乗り込まれた時、玉ちゃん
の逃げ足の速さはびっくりしました。与三郎のこと、もうちょっと構ってあげてよって思ってしまいました。一方で、イマドキの強い女性っぽいかも、っていうのも思いました。昔からずっとこの演出なんでしょうけど。
そして「源氏店」です。玉ちゃん
と松之助さんのやりとりの場面、「玉ちゃん
、“素”で演ったはる?」って思ってしまいました。ちょっと低い声、ちょっとせっかちな感じの物言い、お化粧の手際の良さ、トークショーとかで拝見している玉ちゃん
っぽかったです。「ふるあめりか」のお園さん味もありましたね。そうそう床の間の抱一のお軸、あれって玉ちゃん
がお持ちの本物だったんでしょうか。必死でオペラグラスでのぞき込みましたが、ド素人のワタシにわかるわけはなく…。
お富さんの家の外で与三郎が待ってる場面、石の置き方とか柳の木の葉っぱのたれ具合とか、きっと孝夫さん
のご注文があったんだろうなと思いながら見ておりました。以前、「与話情話浮名横櫛」をチャリティ舞台稽古で拝見したことがあって、その時に孝夫さん
が狂言方さんをお呼びになって、細かく指示をされているのを思い出したもので…。
今回は大向うも増えて、この「源氏店」も盛り上がりました。あの台詞、孝夫さん
の緩急のつけ具合が絶妙でございます。最後に「もう離さないよ」とひしと抱き合う場面、「これぞ孝玉コンビ
!」まことによろしゅうございました。やっぱりhappyendのお芝居はいいですね。孝玉コンビ
を無事に拝見できたっていう喜びもあって、多幸感が半端なかったです。
その後は「連獅子」です。演目が発表された時に、「松緑さん親子、ふーーーん」って感じだったのですが、初日前のインタビュー記事を読んで、さらに初日が開いてからのTwitterの評判を見たら、俄然見るのが楽しみになりました。期待を裏切ることなく素晴らしい「連獅子」でした。松緑さんが「自分がいつ死んでも歌舞伎役者としてやっていけるように」という意識を持ってビシバシと育てられた左近ちゃん、横にそれることなく真っ直ぐお育ちになりました。若手の中でも“踊りの名手”の一人なんでしょうね(←もちろんこっそり贔屓の鷹之資さんがその筆頭でございます)。他のお家の振り付けと少し違うようにお見受けしました。どこはどうという違いはわからないのですが。本当に気持ちの良い舞踊で、最後の毛振りも力任せではなくちゃんと舞踊の振りになっていました。振った数を競うような、そんな下品なことはなさいません。夜の部の3日目、「連獅子」も3階から拝見したかったのですが、次の日の仕事のことを考えると少しでも早く帰っておいたほうがいいかと…。とっても残念でした。
昼の部の「新・陰陽師」は1回だけ見ました。こちらも2回見んとあかん案件かと思ったのですが、歌舞伎座ぢゃないところにも行きたいし、1回だけにしました。亀ちゃんワールド炸裂、やりたい放題でした。主役は安倍晴明の隼人クンのはずなんですが、序幕には登場しませんでした。若手俳優総出演って感じで、それぞれに見せ場を振ってあって、皆さん、ちゃんと応えたはりました。亀ちゃんの蘆屋道満は「鎌倉殿の13人」の文覚上人のようなお役で(筋書で原作の夢枕獏さんもそう書いていらっしゃいます)、突然登場しては場面を引っ掻き回していなくなる、最後は宙乗りまでして、面白かったです。こっそり贔屓の鷹之資さんもソロで踊る場面があり、カドカドがビシッと決まる気持ちの良い踊りでした。夢枕獏さんの「陰陽師」は文春文庫にあるようなので、一度読んでみようかと思っています。
亀ちゃん、今月の明治座も凄いことになっているようで、歌舞伎版タカラヅカになってて、歌う場面まであるそうです。同じ歌うならベルばらの「愛あればこそ」を歌ってほしいと思ってしまった失礼な客はワタシです。
毎月書いていますが、本当にお江戸の歌舞伎は充実しています。4月も「鳳凰祭」と銘打ってるだけのことはありました。もう少し近ければ何回かに分けて通うのですが。今月も楽しみです。
「鳳凰祭」の懸垂幕
新しい緞帳。東山魁夷さんの「朝明けの潮」です。
特別ポスター