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シチリアを舞台にした「モンタルバーノ警部 悲しきバイオリン」はがシチリア人の気質があふれている

2020年01月07日 | 斜読

book503 モンタルバーノ警部 悲しきバイオリン アンドレア・カミッレーリ ハルキ文庫 1999   (斜読・海外の作家一覧)
 シチリアツアーに参加する予定を立てた。20年ほど前のイタリアの旅でパレルモに2泊し、異文化に圧倒された。その後、異文化の旅を重ね、知識も増えた。新たな発見が楽しみである。
 予習復習に本を探し、シチリア・アグリジェント出身の作家アンドレア・カミッレーリ(1925-2019)による、シチリア人モンタルバーノ警部がシチリアを舞台に活躍する推理小説を見つけた。モンタルバーノシリーズは18作品あり、イタリアではテレビドラマ化され好評だそうだ。ツアーで訪問予定の世界遺産に登録されているラグーザもロケ地の一つらしい。
 日本語版は4作目の悲しきバイオリンが先に出版され、2作目のおやつ泥棒が続いて出版されていたので、始めの訳本を読んだ。

 冒頭から、アンチョビーにレモン汁をかけ、オリーブ油と黒胡椒で味付けし、サラダにして食べる話が登場する。P40では、パスタのゆで具合のため電話を無視し、伊勢海老の味噌と雲丹でつくった珊瑚色のソースでパスタを楽しむなど、物語のなかで再三、料理を楽しむ場面が出てくる。表紙絵のモンタルバーノは長身で細身だが、ダイエットを気にする場面もあるから、料理には目がないようだ。あるいは、シチリア人は料理を楽しむのが暮らしの基本なのかも知れない。

 モンタルバーノの婚約者リヴィアはジェノバに住んでいる。リヴィアとの結婚が延び延びになっているらしい。P244・・深い思いやりで結ばれ、地獄の底まで手に手をとって行く決意だった、そうだ。ところが、いきさつは4作目では不明だが、養子に迎えようとしていたフランソワを部下で友人のミミ・アウジェッロの姉家族に預けておいたところ、フランソワは姉家族を選びリヴィアに決別を宣言してしまう。
 リヴィアもフランソワも事件とはまったく無縁だが、こうした日常の光景を事件解決と並行させて描いているのが、テレビドラマ化されるほどシチリア人の趣向に合っているのであろう。
 恋人リヴィアはジェノバに住んでいるので、モンタルバーノは一人暮らしである。物語には事件にからみ何人もの女性が登場するが、モンタルバーノは女性とのきわどい場面を避けている。イタリア始めヨーロッパでは男女関係を大らかに描いた小説が多いが、モンタルバーノはリヴィアへの忠誠が深いようだ。それもシチリアの女性から好評なのではないだろうか。

 モンタルバーノをのせ車を運転していた部下が、道路に駐車されていたダークグリーンのルノー・トゥインゴにぶつけてしまう。トゥインゴには誰も乗っていない。目の前の3階建ての屋敷を訪ねるが、返答がない。気になったモンタルバーノは、夜、屋敷に侵入し、絶世の美女が裸で、わいせつな姿のまま窒息死させられていたのを発見する・・警部でありながら、しかも単独で夜中に侵入するのは理解しにくいが、ドタバタ喜劇的なところもシチリア人好みなのだろうか。
 遺体は、ボローニャで歯医者を開業しているエマヌエーレ・リカルツィの夫人ミケーラと分かる。リカルツィはこの土地を遺産相続し、新婚旅行でここを訪れたときミケーラ夫人が気に入って、3階建ての別荘を建て始めたそうだ。内装はまだ未完成で、ミケーラはモンテルーザのホテルに泊まり、内装工事のため別荘にときどき訪れていた。現場検証では靴、衣類、下着、バッグなどが見当たらない。誰もいないと思って強盗が入り、ミケーラに見つかって殺したのか?。それならなぜ、ミケーラは裸で、わいせつなかっこうだったのだろうか?。

 ミケーラには友人が多く、社交家のようだ。モンタルバーノは、女友達のアンナから貴重な情報を聞く。
 ボローニャで骨董商をしているグィードはミケーラの愛人で、ミケーラとよく会っていたことが分かる・・リカルツィが黙認していた理由は中盤で明かされる。
 事件後、別荘の建築技師ディ・ブラージの息子マウリツィオが行方不明になる。マウリツィオは軽度の知的障害があるが、ミケーラに憧れていたらしい。

 物証が少なく、聞き込み情報からも的が絞れないモンタルバーノに追い打ちをかけるように、気のあわない署長がモンタルバーノをミケーラ夫人殺害捜査から外してしまう。代わりに署長お気に入りで、昇進を狙う機動隊長バンツァッキが捜査を担当する。
 バンツァッキは隠れているマウリツィオのを見つけ出したところ、手榴弾を持って出てきたので撃ち殺してしまう。
 不審に思ったモンタルバーノは手に持っていたのは自分の靴だったこと、手榴弾はでっち上げだったことを調べ上げる。
 では真犯人と動機は何か。

 話を戻して、モンタルバーノが母のように信頼しているクレメンティーナ夫人のアパートの上階に、隠棲した天才バイオリニストのバルベーラが住んでいる。バルベーラはクレメンティーナ夫人のために、毎週金曜、ミニコンサートを開いていた。
 ミケーラ夫人の訃報を聞いたバルベーラは、ミニコンサートでミケーラを痛むすばらしい曲を演奏する。バルベーラを訪ねたモンタルバーノは、ミケーラが曾祖父から値段のつけられないほど高価なバイオリンを相続していたことを知る。一気に事件は解明に向かう。

 物語の構成はありふれているが、マフィアの弁護士が登場したり、シチリア料理が何度も紹介されたり、シチリアの風景が描写されたり、シチリア人の気質をうかがわせる会話がふんだんに織り込まれていたり、人気のテレビドラマというのもうなづける。日本での放映も期待したい。(2019.11)

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