2018.4 京都を歩く 3日目 ⑧修学院離宮・上離宮/大刈込み・浴龍池・隣雲亭
修学院離宮・上離宮で隣雲亭から大土木工事の浴龍池を見下ろす
上離宮は下離宮からおよそ400m離れていて、下離宮より40mほど高いところに造営されている。坂になった松並木を東に上る。松並木の両側には棚田が広がっている。
木立の隙間から上離宮の方を見ると、大刈込みと呼ばれる刈り込みと生垣が見える(写真)。松並木側からは緑豊かな刈り込みにしか見えないが、実際には刈り込みの向こうに高さおよそ13mの堤防が築かれていて、谷川の水を引き込んだ、浴龍池と呼ばれる大きな池がつくられている。
堤防は4段の石垣で補強されているが、その石垣を3段の生垣と上段の刈り込みで覆い、周りの田園景観に馴染ませていたのである。松並木を上りながら見ているときは緑豊かな田園景観ぐらいにしか感じなかったが、あとで隣雲亭から浴龍池を見下ろし、大掛かりな築堤技術、刈り込み+生垣で田園景観に馴染ませる造園技術のレベルの高さに驚かされた。
隣雲亭は浴龍池から10mほどの高さに建てられている。下離宮と上離宮の高低差は40mほどなので、堤防の高さおよそ13m、隣雲亭の高さおよそ10mを差し引くと、上離宮正面入口と下離宮の高低差は20mに満たない。
とすると、松並木の勾配は<20m/400m=1/20以下になるので、さほどきつい勾配ではない。
上皇たちは田園と農民、四季の彩り、花の香り、鳥のさえずりを楽しみながら離宮のあいだを散策したようだ。実権は徳川の手にあるから、宮廷で悶々とするより野に遊ぶといった心境なのであろう。
松並木を上りきると、高い竹垣で囲われた上離宮=上御茶屋の御成門前広場に出る。竹垣は下離宮、中離宮と同じく小動物除けであろう。参観者は御成門の横に設けられた通用門から入る。
通用門の先は、左手の小径と右手の山道に分かれる。左手は大刈込みと浴龍池に挟まれた小径で、参観者は帰りにこちらを利用する。
右手の山道は背の高い生け垣、植え込みで視界が遮られていて、ジグザグの石段を10mほど上らされる。足元の石段、両側の生け垣、植え込みを見ながら息を切らして上りきると、一気に視界が開ける。目の前が隣雲亭だが、目は自然に開けた方に向いてしまう。真下に浴龍池が見え、左に京の市街が遠望できる。 浴龍池には3つの島がつくられている(写真)。もともと高かったところを活かして島にしたそうだ。浴龍池を望める高台に御茶屋隣雲亭を配置し、中島に御茶屋窮邃亭、浴龍池の際に御茶屋止々斎を建てたが、止々斎はその後失われたままである。
上から見下ろしている限り、大刈込み、高生垣で緑化した大規模な土留め+石垣は想像がつかない。頭の中で松並木から見上げた大刈込みと高生垣を思い起こし、いま見下ろしている浴龍池と組み合わせると、とてつもない大工事だったことに気づく。
2003年、香川を訪ね、弘法大師空海(744-835)が821年に改修した日本最大の灌漑用ため池満濃池を見に行った(写真)。
日本各地にはこうしたため池が数多くつくられ、堤防の技術も進化を遂げてきた。そうした技術の積み重ねが浴龍池に結集したのであろう。
修学院離宮から御所まで直線でおよそ5kmである。どこが御所かは分からなかったが(写真)、かつては背の高い五重塔を目印にすればおぼろげながら街並みが想像できたに違いない。
御所からも、修学院離宮そのものは目視できなくても、比叡山に続く山並みから見当がついたのではないだろうか。修学院離宮はそうしたほどよい身近さが選定の理由であろう。
隣雲亭は中ほど6畳の一の間、手前雨戸の3畳の二の間、向こう側4畳の洗詩台と呼ばれる板間に、右奥の供の控えの間が付設された小さな御茶屋である(写真、web転載)。後水尾上皇が建てた隣雲亭は焼失し、再建されたが荒廃し、1824年に再び建て直された。
一の間には床も棚もない。浴龍池、京の町、遠くの山並みの眺めを楽しむためだけにつくられたのであろう。
洗詩台は三方を開け放せるつくりで、木立の奥の落差6mの尾滝の水しぶきが聞こえる。夏の京都はかなりの暑さだから、洗詩台で尾滝の音を聞きながら、吹き抜ける風で涼しさを満喫したのではないだろうか。
このあと、窮邃亭に向かう途中、浴龍池沿いから隣雲亭を遠望すると、柿葺きの屋根勾配が緩いのに気づく(写真)。隣雲亭の敷地は標高は150mほどで、修学院離宮のなかでは最も高い。浴龍池からは10mほど高く、浴龍池の堤防も13mほどあるから、京都盆地~比叡山の山並みを吹き抜ける風が隣雲亭に吹き上がり、吹き下ろす。緩い屋根勾配は強風対策であろう。
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