【J1:第23節 清水 vs 鹿島】レポート:ピッチ上でさまざまなドラマが織りなす中、イケメン主役のハットトリックで清水が大逆転のハッピーエンド(13.08.29)
「こういう試合があるからこそ、サッカーが地球上で一番のスポーツなんだと思う」。
試合後のアフシン ゴトビ監督の第一声が、激しいシーソーゲームの中で起こったさまざまな出来事を象徴している。客観的に見れば、両チームが最高のパフォーマンスをぶつけ合ったという試合ではないが、サッカーのドラマ性をお腹いっぱい満喫できたという意味では、清水サポーターにとっては最高のゲームだった。
キックオフから約11秒の先制点は、「フワッと試合に入ってしまった」(平岡康裕)という清水の悪癖が出た場面でもあったが、大迫勇也の抜け目ない点取り屋らしさが出た場面でもある。そして6分の2点目も、清水の甘さと鹿島の抜け目なさが出た形。どちらも遠藤康が質の高いキックでアシストし、鹿島は限られたチャンスをものにする質の高さを見せつけた。この時点では、清水の大敗もありうると予感した清水ファンも多かったはずだ。
しかし、次に起こったドラマは、鹿島のプレーメイカー・柴崎岳が開始20分で負傷退場するというアクシデント。キャプテンの小笠原満男が出場停止で初めから本来のボランチを1人欠いた状況だったが、これで小笠原と柴崎が2人同時に不在という今までになかった緊急事態。7月まではこういう場面で非常に頼りになる存在だった本田拓也は、今は対戦相手の主力としてプレーしている。そのため、センターバックの山村和也を急きょボランチに上げ、守備が持ち味の梅鉢貴秀とコンビを組ませた。そして、1つ空いたセンターバックの位置にはベテランの岩政大樹が入ったが、7月初め以来先発出場がない岩政は、やはりゲーム勘が不足していたことは否めない。
若手を積極起用し、先発の平均年齢(24.64歳)の若さに定評のある清水とまったく同じだった鹿島は、司令塔2人を欠き、ベテランにも余裕がない状態。これでは本来の鹿島が持っているリードしたときの落ち着き払ったゲームコントロールができないのも無理はなかった。
そんな中で、31分にセットプレーの2次攻撃から河井陽介が右クロスを入れると、ラドンチッチが見事なファーストタッチから落ち着き払ってシュートを決め、清水が1点を返す。これで流れはさらに清水に傾き、そこでゴトビ監督は35分に早くも動いて、今節は左サイドバックに入っていた吉田豊に代えて高木俊幸を投入。河井を左サイドバックに下げて、高木俊を左MFに入れるという攻撃的な形にシフトさせた。
結果的にはこれが大当たりで、45分には平岡康裕の右からのロングボールをラドンチッチが後方に走り込む高木俊に向けて頭でフリックし、裏に飛び出した高木俊がヘディングでGKの上を抜いて同点ゴール。ラドンチッチを生かすパターンのひとつとして、チームとして狙っていた通りの得点だった。
そして、ひとつきっかけをつかんで調子に乗ると、とんでもない力を発揮するのが(対戦相手にとって)高木俊の恐ろしいところ。後半4分にも、ラドンチッチの素晴らしいポストプレーから高木俊がゴール前に飛び出し、豪快かつ技ありのシュートを決めて清水が逆転に成功。得点パターンとしても“ラドンチッチの良さを生かす形 その2”だった。
ラドンチッチにボールが入ったときに、高木俊がその近くでタイミング良く動き出すことによって生まれた2得点。2人の良好な関係が生まれたことも、清水にとっては大きな収穫だった。
だが、まだ試合は決まらない。その後、鹿島は流れを完全に奪い返したわけではないが、裏への長いボールを多用して清水のDFラインをじわじわと下げさせ、揺さぶりをかけていく。そして後半21分に右CKのチャンスをつかみ、清水にとってはやや不運な形でPKをゲット。これを大迫が冷静に決めて、再び試合を振り出しに戻した。
その後は、お互いに伊藤翔(後半29分←ラドンチッチ)とジュニーニョ(後半26分←土居聖真)という攻撃の駒を投入し、どちらも決定機に絡んだがゴールは決まらず、一進一退のまま時計の針が進んでいく。そのまま引き分けでもおかしくない流れだったが、最後にもうひとつ大きなドラマが待っていた。
その主役は、この日一番ノッていた選手。清水が3人目の交代で村田和哉を投入した直後の後半43分、本田がきっちりとタイミングを計って出したスルーパスで村田が右サイドの裏に抜け出し、1フェイントでDFを滑らせてからクロス。これがファーサイドに逃げてフリーになっていた高木俊に通り、ドンピシャのボレーシュートを放ってゴールネットを揺らした。
さまざまな意味でこの試合のキーマンとなった本田が起点になり、入ったばかりの村田がスピードを生かしてアシストし、仕上げはイケメン主役の高木俊がハットトリック。フィクションでもなかなか書けないようなシナリオで、清水が会心の決勝ゴールを奪った。
最後は、清水が杉山浩太をDFラインに下げて5バックで鹿島のパワープレーを防ぎ、派手な打ち合いを制して今季初の逆転勝利。鹿島にとっては非常に悔しく、手痛い敗戦。だが、夏休み最後のホームゲームだった清水にとっては、ファン・サポーターや子どもたちへの最大のプレゼントになり、浮上のきっかけにもなりうる最高のハッピーエンドだった。
以上
2013.08.29 Reported by 前島芳雄
「小笠原と柴崎が2人同時に不在という今までになかった緊急事態」これがすべてと一言で語り去りたいところ。
しかしながら、バチへのイエローやアツが突き飛ばされてもノーファールなど疑問の残るジャッジが散見されたこともまた事実である。
少なくとも、本田拓也が鹿島側におったならば、いくつか観られた危ないプレイで退場しておったであろう。
そういった意味では、ボランチの移籍による駒不足は感じられなかった。
逆に、久しぶりに観た中田コのボランチは安定感が有り、頼もしく思えたことも事実である。
中田コの放ったボレーシュートが枠に入れば最高の試合となったであろう。
山村もポジション変更直後こそ固かったが、徐々に持ち味を出し、ユーティリティさを改めて感じさせられた。
敗戦でネガティブな気持ちになりがちなところであるが、急造ボランチ二人のプレイに光明が観られた。
多少のことで揺らぐチームではない。
チーム一丸となって、今後の試合に備えていきたい。