うらをみせ おもてをみせて ちるもみじ
人は、死の間際に、それまで人には見せなかった弱さ、愚かさをさらけ出さなければ死ねないとすれば恐ろしい。
自分のこれまでの人生が死に際になって逆転するかもしれない。
できることならば現在あるがままの気持ちで、すらりと死んで行きたい。
ところがあるがままの気持ちが弱いと「もみじ」になるのだろう。
自分の死後には何の期待も持たない。家族に心残して死ぬことだろう。
家族を残して死ねないという気持ちは、同時に、家族がいるから死ねるという心境である。
天涯孤独な人間は、それこそ死に切れないであろう。自分が死んだ後が全くの空白になってしまうと考えたら、これほど淋しいことはない。泣き悲しんでくれる人がいることによって、人間は死ねるのだ。
ひとりでも悲しんでくれることが、何よりの救いである。
ひとりでも「うらをみせ おもてをみせて ちるもみじ」と詠ってくれることが有りがたいのだ。