9月1日、俳優座劇場で、バリー・リード原作「評決」を見た(劇団昴公演、脚色:マーガレット・メイ・ホブス、構成・演出:原田一樹)。
今は落ちぶれ酒浸りの日々を送る弁護士ギャルビン。ある日出産で入院した女性が麻酔時のミスで植物状態になったという事件を引き受ける。
多額の和解金で穏便に済まそうとする病院側。示談金を頂き早々に済まそうとするギャルビンは昏睡状態の女性の病室を訪れる。
そこで彼が見たものは・・・(チラシより)。
1982年に映画化され世界的なヒットとなった同名のベストセラー小説の舞台化。
昴が2018年本邦初演の由。例によってネタバレあります。
この事件は要するに、病院側の判断ミスで、脊椎麻酔にすべきところを全身麻酔にしたため、妊婦が数分間心停止を起こし、何とか命は助かったが、
非常に重い障害が残ったのだった。寝たきりとなり、話すことも動くこともできない。唯一できるのはまばたきだけだという。
病院側は過失を隠蔽するためカルテを改ざんし、原告側の弁護士の動きをあの手この手で妨害する。
教会が経営する大病院で、その地域では非常な権威があるらしく、保身のために手段を選ばない。
ギャルビン(宮本充)は病院側が差し出した多額の示談金を受け取ることを拒み、裁判で白黒つけようとする。
友人モー(金子由之)が驚いて「相手は教会だぞ」と言うと、彼はすかさず「ああ、神じゃない」と応える。
このセリフがいい。まったくしびれる。教会だってこの世の業、人間の業に過ぎないのだから。
だが被害者の母(石井ゆき)は、彼が病院側の申し出を断ったことを知って、怒り、嘆き、彼を責める。
彼女の娘は現在、ひどい病院に入れられている。孫たちに見せられないような場所だ。
娘をもっといい病院に移してやり、少しでも快適な日々を過ごさせたい、そして孫たちと面会させたい、と母は願っている。
多額の示談金をもらえばそれが可能になる。
それ以上のことは望んでいないのだ。
バツイチのギャルビンは、行きつけの居酒屋で、一人の女性(林佳代子)と知り合う。
彼女もバツイチで、二人は急速に接近するが、これは敵の罠だった。
原告側のために証言をしてくれるはずの医師はいつの間にか姿をくらましていた。これも敵が手を回したのだ。
仕方なく、遠方に住む73歳の産婦人科医(金房求)に証言を頼んだ。
この人はいい人で、カルテを読んですぐに麻酔のミスだと気づく。
だが、やはり時代の流れに追いついてはおらず、麻酔についての最近の必読書と言われている本も読んでおらず、コードブルーという言葉も知らない。
一方、病院側の弁護士コンキャノン(金尾哲夫)は、模擬裁判の場を設け、件の医師に受け答えの練習をさせる。
なるべく専門用語を避けてわかりやすい言葉を使い、被害者のことはファーストネームで呼ばせる。
すべては陪審員たちにできるだけ良い印象をを与えるためだ。
医師は抵抗するが、裁判に勝つためだと言われると、妥協するしかない。
こうして充分な練習を積んだ医師と、それに対して絶望的なほど弱い原告側という圧倒的に不利な状況の中、裁判が始まる。
だがギャルビンは、めげることなく辛抱強く真相に迫ってゆく。
ようやく彼は、事件の後、病院を辞めた看護師(市川奈央子)の行方を突き止め、会いにゆく。
医師は彼女にカルテを改ざんするよう迫ったが、彼女はそれを断り、病院を辞めさせられたのだった。
彼女は正義を貫くために犠牲となった。
だから、被害者のために証言台に立つことは彼女にとって何でもないことだった。
いやむしろ、彼女はこういう機会を待っていたのかも知れない。
夢だった看護師の職を奪われた彼女には、もう恐れるものは何もない。
彼女を脅し、職場を辞めさせた医師たちを、彼女は名指しで告発する。
証拠がないではないか、と詰め寄られると、「あります。コピーを取っているんです」と爆弾発言。
なぜコピーを?と尋ねられると、「いつか必要になると思ったから」と彼女は落ち着いて語る。
だが被告側は、過去の判例を調べ、複製は証拠として採用されない、というのを見つける。
そのため、何ということか、彼女の証言自体も、なかったことにされてしまう。
だが、一部始終を見聞きしていた陪審員たちは、彼女の証言こそ真相に最も近いものだ、ということを感じ取った。
だから、評決は病院側の過失を認め、原告側の訴えを全面的に認めたのだった。
そして病院を経営する教会の司教は、上訴しないことにする。
法律上は上訴できるが、「その法律より上にあるのが教会だ」と彼は言うのだった。
ともかく彼の判断によって、原告側の勝利は確定し、被害者と母親は無事に多額の賠償金を得ることになる。
40年ほど前に書かれた小説が元なので、やはり古いところもある。
73歳の医師が相当な年寄り扱いをされるところとか。
劇団昴はやはり最高。
役者たちがみな素晴らしい。
キャスティングもいい。
特に被告側の老練な弁護士コンキャノンを演じた金尾哲夫という人が、自信たっぷりで憎々しげでいい。
敵役はこうでなくちゃ。
結末を知らなかったのでハラハラしたが、原作の小説がベストセラーになったというので、きっとハッピーエンドに違いない、最後は
スッキリ晴れやかな気分になれるはずだ、と信じて物語の行方を追っていた。
映画「ショーシャンクの空に」を見た時のように。
やはり思った通り、いい気分で終われた。
余韻を残したラストシーンもいい。
今は落ちぶれ酒浸りの日々を送る弁護士ギャルビン。ある日出産で入院した女性が麻酔時のミスで植物状態になったという事件を引き受ける。
多額の和解金で穏便に済まそうとする病院側。示談金を頂き早々に済まそうとするギャルビンは昏睡状態の女性の病室を訪れる。
そこで彼が見たものは・・・(チラシより)。
1982年に映画化され世界的なヒットとなった同名のベストセラー小説の舞台化。
昴が2018年本邦初演の由。例によってネタバレあります。
この事件は要するに、病院側の判断ミスで、脊椎麻酔にすべきところを全身麻酔にしたため、妊婦が数分間心停止を起こし、何とか命は助かったが、
非常に重い障害が残ったのだった。寝たきりとなり、話すことも動くこともできない。唯一できるのはまばたきだけだという。
病院側は過失を隠蔽するためカルテを改ざんし、原告側の弁護士の動きをあの手この手で妨害する。
教会が経営する大病院で、その地域では非常な権威があるらしく、保身のために手段を選ばない。
ギャルビン(宮本充)は病院側が差し出した多額の示談金を受け取ることを拒み、裁判で白黒つけようとする。
友人モー(金子由之)が驚いて「相手は教会だぞ」と言うと、彼はすかさず「ああ、神じゃない」と応える。
このセリフがいい。まったくしびれる。教会だってこの世の業、人間の業に過ぎないのだから。
だが被害者の母(石井ゆき)は、彼が病院側の申し出を断ったことを知って、怒り、嘆き、彼を責める。
彼女の娘は現在、ひどい病院に入れられている。孫たちに見せられないような場所だ。
娘をもっといい病院に移してやり、少しでも快適な日々を過ごさせたい、そして孫たちと面会させたい、と母は願っている。
多額の示談金をもらえばそれが可能になる。
それ以上のことは望んでいないのだ。
バツイチのギャルビンは、行きつけの居酒屋で、一人の女性(林佳代子)と知り合う。
彼女もバツイチで、二人は急速に接近するが、これは敵の罠だった。
原告側のために証言をしてくれるはずの医師はいつの間にか姿をくらましていた。これも敵が手を回したのだ。
仕方なく、遠方に住む73歳の産婦人科医(金房求)に証言を頼んだ。
この人はいい人で、カルテを読んですぐに麻酔のミスだと気づく。
だが、やはり時代の流れに追いついてはおらず、麻酔についての最近の必読書と言われている本も読んでおらず、コードブルーという言葉も知らない。
一方、病院側の弁護士コンキャノン(金尾哲夫)は、模擬裁判の場を設け、件の医師に受け答えの練習をさせる。
なるべく専門用語を避けてわかりやすい言葉を使い、被害者のことはファーストネームで呼ばせる。
すべては陪審員たちにできるだけ良い印象をを与えるためだ。
医師は抵抗するが、裁判に勝つためだと言われると、妥協するしかない。
こうして充分な練習を積んだ医師と、それに対して絶望的なほど弱い原告側という圧倒的に不利な状況の中、裁判が始まる。
だがギャルビンは、めげることなく辛抱強く真相に迫ってゆく。
ようやく彼は、事件の後、病院を辞めた看護師(市川奈央子)の行方を突き止め、会いにゆく。
医師は彼女にカルテを改ざんするよう迫ったが、彼女はそれを断り、病院を辞めさせられたのだった。
彼女は正義を貫くために犠牲となった。
だから、被害者のために証言台に立つことは彼女にとって何でもないことだった。
いやむしろ、彼女はこういう機会を待っていたのかも知れない。
夢だった看護師の職を奪われた彼女には、もう恐れるものは何もない。
彼女を脅し、職場を辞めさせた医師たちを、彼女は名指しで告発する。
証拠がないではないか、と詰め寄られると、「あります。コピーを取っているんです」と爆弾発言。
なぜコピーを?と尋ねられると、「いつか必要になると思ったから」と彼女は落ち着いて語る。
だが被告側は、過去の判例を調べ、複製は証拠として採用されない、というのを見つける。
そのため、何ということか、彼女の証言自体も、なかったことにされてしまう。
だが、一部始終を見聞きしていた陪審員たちは、彼女の証言こそ真相に最も近いものだ、ということを感じ取った。
だから、評決は病院側の過失を認め、原告側の訴えを全面的に認めたのだった。
そして病院を経営する教会の司教は、上訴しないことにする。
法律上は上訴できるが、「その法律より上にあるのが教会だ」と彼は言うのだった。
ともかく彼の判断によって、原告側の勝利は確定し、被害者と母親は無事に多額の賠償金を得ることになる。
40年ほど前に書かれた小説が元なので、やはり古いところもある。
73歳の医師が相当な年寄り扱いをされるところとか。
劇団昴はやはり最高。
役者たちがみな素晴らしい。
キャスティングもいい。
特に被告側の老練な弁護士コンキャノンを演じた金尾哲夫という人が、自信たっぷりで憎々しげでいい。
敵役はこうでなくちゃ。
結末を知らなかったのでハラハラしたが、原作の小説がベストセラーになったというので、きっとハッピーエンドに違いない、最後は
スッキリ晴れやかな気分になれるはずだ、と信じて物語の行方を追っていた。
映画「ショーシャンクの空に」を見た時のように。
やはり思った通り、いい気分で終われた。
余韻を残したラストシーンもいい。