ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

ワイルド「サロメ」

2012-07-06 23:08:52 | 芝居
6月4日新国立劇場中劇場で、オスカー・ワイルド作「サロメ」をみた(演出:宮本亜門)。

平野啓一郎による新訳、そして多部未華子のサロメが見どころ、聴きどころだろう。

エルサレム、ヘロデ王の宮殿。サロメは王妃ヘロディアスの娘でヘロデは義父。ヘロデはサロメの実の父である兄を殺し、
ヘロディアスを妻としていた。宴の席、地下の井戸に幽閉されている預言者ヨカナーンの声にサロメは興味を持ち、親衛隊長
に命じて彼を外に出す。ヨカナーンは王妃の近親婚の罪をとがめ、美しいサロメには目もくれず井戸へ戻ってゆく。王は
サロメに、踊れば望みのものを与えると約束、彼女はヨカナーンの首を要求する・・。

開演前から舞台下に上半身裸のすらりとした男が見え隠れしている。舞台下全体が井戸で、彼こそが囚われの預言者
ヨカナーン(成河)というわけ。
王女サロメに恋する親衛隊長は奥の宴会の席にいるサロメをモニターで見る。
舞台天井はガラス張りになっているが意味不明。唯一、隊長の死体を引きずって去る時、血の跡が長く映るのだけは面白いが。
ヨカナーンが井戸の底で発する声はエコーがかけられる。
井戸の底には水が少し張ってあるらしく、そこを人が歩くと水音がする。

「無邪気」なサロメが今回のキーワードらしい。多部未華子は演出の意図を十分体現している。声もよく通る。
ヘロデ王役の奥田瑛二はたまに危なっかしい。言葉がすぐに出て来ない。どうしたことか。
王妃ヘロディアス役の麻実れいはまさに水を得た魚。

七つのベールの踊り・・王女は音楽に合わせて短いリボンみたいな布を使って動き、井戸の中に一部投げ入れたり、
果物の皿からマスカットを取ってその粒を人々に向かって投げたり高く掲げて絞って汁を飛ばしたり、しまいに
房ごと井戸の中に投げ込んだり。最後は下着のような白い服だけで床に大の字に横たわる。その姿はむしろ
子供っぽい。
「無邪気なサロメ」だから官能的耽美的な踊りを期待するのは無理だが、それにしてもこの踊りはいただけない。全然面白く
ないし。そもそもこれは「踊り」ですらない。こんなものに王は褒美をやるだろうか。何とか工夫してほしい。
評者はリヒャルト・シュトラウスのオペラ「サロメ」を見過ぎているからか、音楽にもつい要求が高くなってしまう。

サロメは何度も自ら井戸の底まで降りてゆく(2か所位階段がある)。
兵士たちの服装は全然兵士らしくなくて変だ。牢番は上半身裸で刺青?だらけの大男。

ラスト、サロメがヨカナーンの首を手にすると照明が落ち、他の人々は消える。少しずつ水が舞台に入ってきたと思ったら、
彼女の白い服の裾が少しずつ赤く染まってゆく!奥に王と王妃が現れる頃には舞台はまさに血の海のような情景に!
何と大胆な。こんなのは見たことがない。赤ワインのような色を湛えた舞台は素晴らしい光景だった。以前見た鈴木勝秀演出
の「サロメ」は徹底した和風趣味だったが。でも真っ白い敷物はこの後大丈夫なのだろうか、といささか余計な心配をしてしまった。

評者の理想の「サロメ」は、井戸はあくまで井戸らしく、そして最後は剣を持った兵士が回りに大勢いる中で、王が「あの女を
殺せ」と命じると兵士たちが王女を取り囲んで殺す、という(台本通りの)形。銃声だけというのは腑に落ちない。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする