ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「ローエングリン」

2011-10-13 22:20:39 | オペラ
9月25日 N H K ホールで、ワーグナー作曲のオペラ「ローエングリン」をみた(バイエルン国立管弦楽団、
指揮:ケント・ナガノ、演出:リチャード・ジョーンズ)。

時は中世。大公の娘エルザが悪人に陥れられる。そこに謎の騎士が出現。名を明かさぬことを条件に窮地を
救う。二人は結婚。しかしエルザはつい正体を尋ねる。騎士はローエングリンと名乗り、永遠に去る。
ワーグナーのオペラの中でも最もロマンティックな作品の一つであり、個人的に大好きな作品だが、今回の
演出はまたしてもモダーンらしいので、恐る恐る出かけた。休憩を入れて4時間45分の大作ゆえ聴くほうも
気合が入っている。
始まる前、男が一人、舞台中央に立てたボードに家の設計図を描いている。

第1幕:時折、舞台上の2つの円形部分に映像が映し出される。何のためか意味不明。

服装は現代風。ヒロインのエルザは黒いつなぎ・・・ああ!
主役ローエングリンは簡素な青い服。群衆は途中から青いそろいのTシャツ・・。

川も小舟もなく、騎士は白鳥を小脇に抱えて歩いて上手からふらりと登場・・ああ!

舞台には気の早いことに二人の新居の土台が作られ始めている。時々エルザも中に入って作業をする。
ローエングリンはエルザに「私を夫にしたいのか」と何度も尋ねる。エルザがすべてを捧げる、と言うと
彼は一言「愛している」と言う。
1幕ラスト。4人が例によって別々のことを歌う。
  あなたの清らかさが私を勝たせた。・・ローエングリン
  あなたを称える歌を歌いたい。・・エルザ
  おれはもう終わりだ。・・テルラムントという悪い奴。ローエングリンとの一騎打ちで敗れた。
  まだ希望はある。・・テルラムントの妻オルトルート。夫をそそのかす悪い魔法使い。
我々にはもちろん聞き取れないが、ドイツ語圏の人々の耳にはこの4人の言葉がどの位聞き取れるのだろうか。

第2幕:休憩(35分)の間に二人の新居の壁がだいぶ出来ている。

途中で内側の幕が開くと、すっかり完成した赤い屋根の家が現れる。バルコニーもある。
テルラムントと妻オルトルートとの会話から二人の結婚の経緯や悪巧みが明らかになってくる。
オルトルートはエルザに取り入り、同情を引く。
結婚式の日、エルザはさすがに純白の衣装。
オルトルートが言葉巧みにエルザを惑わし、エルザが困惑するとテルラムントが現れて(この男は追放されたはず
だが)ローエングリンを告発する。
ローエングリンはたとえ王に聞かれても返事をしなくていい権利を私は持っているが、ただ一人エルザだけは
私に素性を問うていいと言う(しかしそれを問わないことが彼女を救った時の条件であったし、彼女はその時
約束したのだった)。
それを聞くとエルザは迷い出し、震える。群衆も反応する。オルトルートは「うまく引っかかった」と喜ぶ。
このあたりの音楽は実にドラマティック。エルザは何とか自制し「命を救ってくれた人、私の愛はあらゆる
疑いを超えている」と答える。

第3幕:35分の休憩中に、家はこちらに向きを変え、内部を見せている。安堵。だってローエングリンの
第3幕と言えばダブルベッドでしょう。
やっと二人きりになれた、と歌う二人。しかし途中から妙な調子が響き始め、テルラムントたちのテーマが
不吉に入ってくる。エルザは自分が助けられたように自分も彼を助けたい、彼の負う(秘密にしている)災い、
不幸を(彼女はそう思い込んでいる)共に担いたい、とせがむ。
彼は話をそらすが、エルザは執拗に迫る。彼はエルザを救うために自分が払った犠牲は大きかったが、
彼女の愛によって償われる、と言う。エルザにとってこれは衝撃だった。
「あなたは後悔している。帰りたいのね。あなたはいつかいなくなる。私はあなたがいついなくなるのかと
怯えて暮らし、やつれていく・・」と嘆く。彼は「心配さえしなければやつれることはない」と言う(そりゃそうだ)。
この辺、エルザの心理が無理なく分かり、自然で説得力がある(これはワーグナーとオケと指揮者とを
ほめているのです)。
ついに彼女はベッドの上に立って言う「この命が失われてもいい。あなたの名は?生まれは?・・」と。
この時彼女の顔は引きつり、目は血走っていたのではないだろうか。
こうして彼女が禁断の言葉を口にするまでの緊迫感はたまらない。我々は言っちゃダメ!とハラハラしながらも
彼女の気持ちも分かるので同情してしまう。
男はエルザが供の者たちに連れられて去ると、ベッドの上に揺りかごを載せて油をまき、火をつける。火が
つくと、内側の幕が下りる。

ラストにはびっくり。エルザもオルトルートもこちらを向いて突っ立ったまま。群衆は一斉にベンチに座って
自分の頭にピストルを向けて、そこで終わる。
ま、世の中には奇をてらうのが好きな演出家が掃いて捨てるほどいる、ということ。

金管が数本、横のパイプオルガンの所などに現れて華麗なファンファーレを聞かせる。有名なメロディも
多いので、これは意外と親しみ易いオペラかも。

字幕がよかった。あまりにも自然な日本語だったので、違和感が全くなく、その存在を忘れていたほど。
理想の字幕とはそういうものだろう。

歌手ではオルトルート役のワルトラウト・マイヤーが光っていた。
急きょ代役を引き受けてくれたローエングリン役のヨハン・ボータは圧倒的な声量だが、演技はどうか。
が、いずれにしても、こんな時に来日してくれた歌手たち、合唱団、オケの人々に心から感謝したい。
オケは弦も管もとにかく(期待に違わず)文句なしに素晴らしかった。
 




コメント
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