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想定外

 今度の航海は長かった。その上、主機関要員20人のうち、1人は急病で、1人は動力過多で死亡した。半分の行程を、18人で5000トンの貨物船を駆動してきた。さすがに疲れた。
 急病はしかたがない。しかし、念動力過多者が出たことは許せない。主機関要員採用にあたって、いかなるチェックが成されたのか、厳重に問いただす必要がある。全国念動力者労働組合連合会兵庫支部書記次長たる私としても、ほっておくわけにはいかない。会社の人事担当者に話し合いを申し入れなくてはいけない。
 実は、念動能力者の念動力過多による死亡は、全国で今年に入って50人を越した。多人数で駆動する船舶なら、1人や2人航海途中で欠員が出ても、残った者に負担がかかるが、なんとか無事に航行できる。問題は自家用念動力車だ。念動力者が自分の念動力で駆動し、自分で運転している場合、運転中の念動力過多で死亡し事故に至る事例が続発した。
 念動力車の自家用を禁止すべきとの意見も出ているが、公共交通機関のない過疎地などでは念動力車に頼らざるをえない。化石燃料は非常に高価で、一般人は入手はほとんど不可能だ。とはいえ、念動力者も貴重な存在で、過疎地の念動力者不足が大きな問題となっている。1人の念動力者がいくつもの集落を巡回してやっと需要を満たしている。忙しく移動しているうちに、念動力者自身が事故を起こすことが多いのだ。
 人の「念」に反応する合金が発見された。風力発電の開発をしている研究所で、新開発の風車が完成した。風待ちの間、そこにいた研究員が「回れ回れ」と念じていた。すると風も吹かないのに風車が回った。屋内で同様のことをやっても回った。
 実験と検証が重ねられ、人の念力を受け止める合金の存在が確認された。また、念力を発する人の存在も確認された。
 原子力に代わるエネルギー源が発見された。すぐ近くで。人々のすぐ近く、というより、人々そのものがエネルギー源だった。
 放射能の心配もない。炭酸ガスの排出もごく微少。念動力は理想のエネルギー源だ。たちまち世界に広まった。念動力の受ける合金は、極めて簡単に造れる。まさに、夢の救世主のようなエネルギー源だ。
 部長室のドアをノックする。「どうぞ」との声を聞き、中に入る。この部屋の主の念動力部の部長と、人事部長がいた。
「かけてくれ」
「はい」
「君から出ていた団交の要求だが、常務とも相談して、適当な日を連絡する」
 どうもこの件ではなさそうだ。
「実は君に大福念発に行ってもらいたい」
 大福念発。西日本電源大福念動力発電所。念発銀座と呼ばれる福山県の沿岸部にある。この地域だけで西日本の電気の45パーセントを発電している。大福念発はそこで最大の発電所で、1号炉から8号炉まで8基の念動炉を備えている。
「船舶部門から発電部門への配置転換ということですね」
「そうだ。おめでとう」
 栄転だ。当り前のことだが、船舶部門はめったに家に帰れない。1年のほとんどを航海で費やす。発電部門だと家族で暮らせる。
「単身赴任か、家族を連れて行くか?」
「船舶が長かったですから、家族と暮らしたいです」
「会社が契約している4LDKのマンションを一部屋用意する。早急に福山県への転居の準備に取りかかってくれ」
 
 西日本電源大福念動力発電所3号炉主任念動力者。これが今の私の肩書きだ。身分は派遣社員。派遣といっても一昔前の派遣と違って、高給が保証された派遣社員だ。
 私の会社、日本念エネルギー株式会社は念動力者を5000人有する、日本最大の念動力者派遣会社だ。派遣社員といっても特殊能力者だ。念動力者は日本には25000人しかいない。エリートとして高給で遇されている。 大福念発に赴任して三ヶ月が過ぎた。梅雨があけ、本格的な夏となった。今年は例年にない猛暑だ。大幅な電力不足が見込まれるため、七月に入ってから、私たちはフルで稼働した。交代制で稼働すればいいが、念動力者の絶対数が少ない。一日十二時間働いた。数日前から頭痛がする。私も念動力過多か。そんなはずはない。一週間に一度はメディカルチェックを受けている。
 スーと意識が遠くなった。私の身体に想定外の事態が起きたのか。私は死ぬのか・・・。 
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もっと別の活用方法はないのか


 神戸市営地下鉄海岸線中央市場前で降りると、すぐ前に広大な空き地が広がっている。今はNHKの不人気大河ドラマをあてこんで「歴史館」なる珍妙なモノが建っているが、これとて不人気ドラマが終われば撤去されるのだろう。で、この広大な土地をどう活用するのだろうと思っていた。もともとここは中央卸売市場があったが、市場は高松線の南側に移転したため空き地になっていた。
 神戸市は民間業者から活用策を公募していた。結局、45億円でこの土地をイオンに売却。イオンは2015年に大型ショピングセンターをオープンさせるとか。
なんと芸のないことか。大きな空き地がある→大型ショピングセンター。こんな発想はだれでもできる。もっと夢も実もある活用方法はないものか。何も思いつかないのなら、あそこを空き地のままほっておいたらどうだ。簡単な池を掘り、基本的な樹木を植林するだけ。池も淡水の池と、あそこは兵庫運河に近いから海水の池の二つつくればいい。幸い神戸市は六甲山がある。野鳥が飛んで来る。野鳥が木の実を運んでくる。樹木が自生するようになる。昆虫にカエルやトカゲといった小動物が住み着くようになる。管理は須磨水族園と王子動物園、森林植物園に任せればいい。30年もすれば、大きな自然公園ができる。ショッピングセンターよりよっぽどいいと思うが。
 イオンは中央市場前駅の次ぎの駅、御崎公園と苅藻の間の東尻池にも有る。距離にして3キロほど。イオンはこの長田南店をどうするのだろう。また、東隣のハーバーランドにもイオンがオープンするとか。神戸市営地下鉄海岸線を新長田から乗る。苅藻で降りるとイオン。中央市場前で降りるとイオン。ハーバーランドで降りるとイオン。5キロあるかないかの所にイオンばっかり。そんなにイオンはいらない。あそこはそのままほっておこう。 
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