雫石鉄也の
とつぜんブログ
SFマガジン2016年8月号

SFマガジン2016年8月号 №716 早川書房
雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 イカロス軌道 谷甲州
2位 ウルフェント・バンデローズの指南鼻(前編) ダン・シモンズ
3位 あるいは呼吸する墓標 伏見完
4位 裏世界ピクニック くねくねハンティング 宮澤伊織
連載
小角の城(第39回) 夢枕獏
椎名誠のニュートラル・コーナー(第52回)
世界の大河は頑固でときに幻想的に優しい 椎名誠
マルドゥック・アノニマス(第10回) 冲方丁
青い海の宇宙港(最終回) 川端裕人
幻視百景(第3回) 酉島伝法
SFのある文学誌(第47回) 長山靖生
にゅうもん!西田藍の海外SF再入門(第11回) 西田藍
アニメもんのSF散歩(第11回) 藤津亮太
現代日本演劇のSF的諸相(第20回) 山崎健太
特集
ハヤカワ・SF・シリーズ総解説
まず、ミスを指摘する。小生が今号で1位にしている、谷甲州の「イカロス軌道」目次のどこにも載っていない。どういうつもりか。ただの凡ミスか。なんらかの意図があるのか。だいたいが、SFマガジンの目次は見にくかった。その見にくい目次を、なんの前ぶれもなく後ろのほうに移動させた上、こういうミス。編集部は目次というモノを軽く見ているのではないか。
さて、今号の目玉。ハヤカワ・SF・シリーズ総解説。ハヤカワ・SF・シリーズ。いわゆる「銀背」というヤツ。小生たちおじんのSFもんは、このハヤカワの銀背と創元推理文庫SFマークで育ったようなもの。
そのハヤカワ・SF・シリーズの「総解説」!大いに期待してSFマガジンを開いた。羊頭狗肉とはこのこと。まったく「総解説」になっていない。ハヤカワ文庫SFで文庫化された作品は、この企画では取り上げられていない。だから、銀背のトップバッター「盗まれた街」や、「夏への扉」「幼年期の終わり」「われはロボット」といった定番の名作は、この企画では解説されていない。まったく片手落ちどころか両手落ち、大手抜き企画である。
いま、上に上げた作品はハヤカワ・SF・シリーズで初めて、われわれ日本のSFもんの前に姿を現したわけ。この意義は大きい。だから、文庫化されているいないにかかわらず、「総解説」というからには、この企画で取り上げるべきであった。それに初めて銀背で出た時と文庫で出た時では、時が違う、時代が違う、時代というモノの背景が作品の意義、評価に影響をおよぼしているわけで、文庫の時に解説したから、ここでは割愛ではひどい手抜きである。
ハヤカワにいう。この企画もういっぺんやり直せ。
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ボーン・アナリスト

テッド・コズマトカ 月岡小穂訳 早川書房
最初にアレと思う設定がしてある。しかし、この設定をまったく生かしていない。
ポールは骨のDNA解析の専門家。インドネシアのフローレス島に発掘調査に行った。そこで奇妙な人骨を発見。大人の骨であるのは間違いないのだが、身長が1メートル。未発見の古代人類か?その直後、発掘現場を武装警察官が襲った。
ポールも謎の暴漢に襲われ、同僚の爬虫類学者が殺され、彼も片目を負傷して無くす。
片目となったポールは国へ帰るが、恋人とともに某企業に雇われた教授に誘われて、その企業の社長にあう。
冒頭でSF的な大ネタの仕掛けがしてあるが、仕掛けてあるだけで、お話にはぜんぜんからんでこない。この仕掛けをうまく生かせば、なかなかおもしろいSFになったであろう。
分類すれば、小生の大好物のSF冒険活劇に分類されるが、正直、あまりできはよくない。SFとしても、冒険小説として、アクション小説としても中途半端。主人公のポール、恋人リリバティー、敵とも味方ともわからんギャビン・マクマスター教授、敵のラスボス、ジョハンソン社長。登場キャラもあまり魅力があるとはいえない。
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SKAT.15

宣伝会議
若いころコピーライターをしていた時期がある。短いあいだであったが面白い仕事であった。しかし、筆一本コピーだけ食っていくには、とてつもない才能が必要で、小生ごときの能力ではやっていけない。あれからずいぶん時間がたった。
宣伝会議賞。毎年行われる日本最大の広告関係の公募である。小生は毎年応募している。この賞は広告業界への登竜門的な役割の賞だが、小生はいまさらコピーライターに復帰しようとは考えていない。なんらかの結果を出して、人生のけじめをつけたいだけだ。
この本は昨年行われた第53回宣伝会議賞の1次審査通過以上の作品6247点が掲載されている。応募総数46万7963点だったそうだ。で、小生も何点か応募したが、1次審査も通らなかった。
第54回も応募するつもりだ。
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SFマガジン2016年6月号

SFマガジン2016年6月号 №715 早川書房
雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 失踪した旭涯人花嫁の謎 アリエット・ドボダール 小川隆訳
2位 天地がひっくり返った日 トマス・オルディ・フーヴェルト 鈴木潤訳
3位 月の合わせ鏡 早瀬耕
4位 双極人間は同情を嫌う 上遠野浩平
5位 牡蠣の惑星 松永天馬
連載
小角の城(第38回) 夢枕獏
椎名誠のニュートラル・コーナー(第51回)
天は蒼い大気の海、地は灼熱のマグマの海 椎名誠
マルドゥック・アノニマス(第9回) 冲方丁
青い海の宇宙港(第9回) 川端裕人
ウルトラマンF(最終回) 小林泰三
幻視百景(第2回) 酉島伝法
近代日本奇想小説史 大正・昭和篇(第27回) 横田順彌
SFのある文学誌(第46回) 長山靖生
にゅうもん! 西田藍の海外SF再入門(第10回) 西田藍
アニメもんのSF散歩(第10回) 藤津亮太
現代日本演劇のSF的諸相(第19回) 山崎健太
特集 やくしまるえつこのSF世界
小生はSFは文芸であるとこころえる。確かにアートや漫画、アニメ、映画、音楽もSF的要素を色濃くもったモノがある。しかし、それはあくまでSFアートでありSF漫画でありSF音楽だ。コーヒー牛乳やコーヒーゼリーなども確かにコーヒーの要素があるが純然たるコーヒーではない。
コーヒー専門誌といいつつも、レギュラーコーヒーはそっちのけでコーヒーのお菓子やコーヒーのフラッペばかり特集する雑誌はコーヒー専門誌とはいえぬだろう。最近のSFマガジンはそいういうことをやっているのである。
前号はデヴィト・ボウイ特集。今号はやくしまるえつこ特集。アホか。やくしまるえつこってだれや。知らんぞ。薬師丸ひろ子なら知ってるが。
隔月刊になって「英米SF受賞作特集」をしなくなったな。小生の記憶に間違いがなければ2014年3月号以来してないんじゃないか。ネビュラ賞やヒューゴー賞の受賞作を紹介しなくてもいいのか。そういうことはSF専門誌の大切な仕事だろう。
小生の身近のSFもんには、最近のSFマガジンは読んでないし買ってないという人がけっこういる。本気で再考すべし。
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チャチャヤング・ショートショート・マガジン 第3号

チャチャヤング・ショートショートの会
「チャチャヤング・ショートショート・マガジン」の第3号が出た。2号から体裁が変わった。この3号は昨年9月に亡くなった西秋生追悼特集。40年来の友人を亡くすのはとてもつらい。もちろん小生も追悼文を寄稿した。
追悼特集は西秋生の作品2編と、6氏からの追悼文と西氏ご夫人からの感謝の言葉。それに西氏が編集していた同人誌「風の翼」の編集後記、西秋生作品リスト。
創作は次の10編。
「幻視者の死」(遺稿) 西秋生
「夏の終わり」 西峻司
「牡丹と椿と金木犀」 和田宜久
「敗戦処理投手」 雫石鉄也
「トモコの紅」 雫石鉄也
「エドモンド」 深田亨
「兄嫁」 篁はるか
「方向の終着点」 大熊宏俊
「紫色のビー玉」 服部誕
全体的に落ち着いた大人な作品が揃った。特に「幻視者の死」は西秋生の遺稿にふさわしく、大震災で阪急の三宮駅が倒壊。王子公園駅から分岐する上筒井支線を復活。上筒井、原田の森、王子公園一帯が神戸の中心地になるという。現実と虚構がないまぜになった世界が舞台。そこにあるバア「アカデミア」そこに集う三人の老作家。話題はこの地で奇禍にあって急逝した若い作家のこと。
傑作である。
他の作品も奥にノスタルジーを感じさせる、セピア色な作品がそろった。
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理由

宮部みゆき 朝日新聞社
この小説には主人公はいない。主要な登場人物がインタビューに応えるという形式で話が進んでいく。インタビューする人はだれかは、別に気にしなくてもいい。
組木細工のような小説である。ひとつの殺人事件を爆心地として、そこから放射状に広がる爆風に関わる人々をていねいに造形して、ひとつの大きな伽藍を造る。そういう小説である。
キャラクターの造形。小説において大切な技法である。最も初歩は点でキャラクターを造形する。同人誌などでみかけるアマチュア作家の作品でよく見かける。人物描写を点で描く。するとそこには記号としてのキャラクターしか存在しない。彼、彼女、仇、味方、父、母、などを造形しても「彼」「彼女」「仇」「味方」「父」「母」という記号があるだけ。生命ところか質量を持った物質でさえない。ただの記号でらる。
少し上達すると2次元でキャラクターを造形する。「彼」は「彼」の顔が描かれている。だからイメージすることは可能だが、あくまで2次元だから生命も質量もない。でも顔は見える。
次なる段階は3次元で造形できるようになる。立体的にキャラクターを造形する。こうなるとやっと質量を持つ。キャラクターのこちらを向いている方だけを造形する。半球だけである。「彼」がこちらを向いていれば立体的な「彼」の顔が見える。顔の影もある。目も鼻も口も動く。でも、それははりぼて。「彼」の後頭部まで造られていない。映画のセットと同じ。
で、宮部みゆきクラスの手だれの作家となると、キャラクターを完全な球として造る。「彼」のこちらを向いた顔だけではなく、後頭部はもちろん、背中も足も腹も、見えないところもちゃんと造られているわけ。こうなるとキャラクターはちゃんと生命を持つわけである。
この小説は、宮部のそのキャラクター造形技法がいかんなく発揮された作品である。この小説にはストーリーは存在しない。殺人事件に関わる人物を造形しそれを読者に提示するだけの小説である。キャラクター造形の下手な作家が、これと同じプロットで書くとたぶん退屈極まりないものになっているだろう。
高層豪華マンションで殺人事件。一家4人皆殺し。夫婦、長男、祖母「砂川」家全員死亡。夫婦と祖母は室内で、長男は転落して屋外で死んでいる。現場から逃げた中年男が防犯カメラに映っている。
事件現場のマンションの部屋は砂川家のものではない。彼らはこの部屋は借りて住んでいる。さて動機は、犯人は。そして「砂川」家の人々とは何者?貸し主は?
ところで関係のないことだが、この事件の重要参考人に不動産会社の社長がいる。その社長の名前が早川社長。会社があるのは東京都千代田区神田多町!SFファンならおや、と思う。宮部さんちょっと遊んだな。
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戦場のコックたち

深緑野分 東京創元社
力作である。舞台は第2次世界大戦時のヨーロッパ。主人公ティムはコック兵。主たる任務は調理だが銃を持って戦闘も行う。空挺師団パラシュート歩兵連隊所属だからパラシュート降下もする。
ノルマンディーに降下したティムたち合衆国兵はナチスドイツと戦いながらドイツ本国を目指す。
ティムの戦友。コック兵のリーダーで頭脳明晰沈着冷静なエド。陽気なプエルトリコ系ディエゴ。小柄で横柄な衛生兵スパーク。男前の機関銃兵ライナス。途中からティムの中隊に転属してきたダンヒル。こういった個性豊かな連中とナチスドイツ相手に戦争する。
で、彼らは戦場ならではのいろんな謎に遭遇する。使用済みパラシュートを集める兵士。なぜ、何に使う?600箱もの粉末卵(こんなモノがあるとは知らなかった。まずそう)が一晩でこつぜんと消えた。オランダのおもちゃ職人夫婦の怪死事件。某戦友がかかえた大きな秘密。その某戦友を救えるか。などなど、いちおう謎解きミステリーとなっているが、密室殺人だのといったミステリーらしい殺人事件はない。場所が戦場。死体がごろごろしている「殺人」が日常の世界。その世界でのちょっとした謎を解く。
戦場の描写は圧倒的な筆力である。それにティムと戦友たちのキャラの造形が上手く、登場人物一人一人が生きている。出色の戦争小説であり、青春小説で、お仕事小説でもあり、反戦文学でもある。
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あしたのジョー

ちばてつや 高森朝雄 講談社
あまりにも有名なラストシーン。世界チャンピオン、ホセ・メンドーサとの壮絶な試合を終えた矢吹ジョー。かすかな微笑みを浮かべて、真っ白になってリングのコーナーに座っている。
ここでジョーは死んでいるのか、生きているのかがこの漫画のファンの間で論争になっている。小生はジョーは生きている派だ。ジョーが満足しているのは間違いない。メンドーサとの試合で真っ白になるまで、存分に戦い、その試合に満足しているわけ。ただ、彼はボクシングの試合だけで満足しているのではない。愛を全うして満足しているのだ。
この漫画はボクシング漫画である。日本を代表するボクシング漫画である。そのころは誰も認めるであろう。小生もそう思う。しかし、この漫画の隠された本質は別にある。この漫画の本質、それは「愛」だ。そう、この漫画は恋愛漫画である。ボクシングは女が男に愛を伝達する触媒にすぎない。
女、そうこの漫画の主人公は矢吹ジョーではなく、白木葉子なのだ。白木葉子。白木財閥の令嬢にして大金持ち。深窓の令嬢でありながら男臭く汗臭いボクシングをなりわいとしている。らつ腕のプロモーターであり、ボクシングジムの経営者。その白木葉子が密かな恋心をいだいているのが矢吹ジョーなのだ。
深窓の令嬢と不良少年の恋。これは原作者高森朝雄(梶原一騎)の後年の作品「愛と誠」の主題である。太賀誠と早乙女愛の物語のほう芽は、白木葉子と矢吹ジョーにあったのだ。
「男を成長させるのは、強力なライバルである」これは梶原がすべての作品を通じていっていることだ。それは、この「あしたのジョー」でも強く訴えている。
ジョーの最初にして最大のライバル力石徹に死なれた後、葉子はひたすらジョーに想いをつのらせていった。カーロス・リベラ、ハリマオ、そして完璧なチャンピオンホセ・メンドーサ、これらのジョーのライバルたちは、葉子がジョーに贈った愛のメッセージなのだ。力石ロスにおちいった、野性を失った、ジョーを立ち直らせるために葉子がつかわした愛のメッセンジャーたちなのだ。そして、その愛を完成させるべく世界チャンピオンまでジョーに贈った。
ジョーは葉子の愛をなかなか受け入れない。しかし、ジョー本人は気がついているだろう。自分の運命を握っているのは、この女だということを。
世界タイトルマッチの直前、葉子はとうとうジョーに告白する。
「あなたが好きだった」
ジョーは重症のパンチドランカーとなっていた。
「この世で一番愛する人を、廃人となる運命の待つリングへ上げることはぜったいにできない」
「リングには世界一の男ホセ・メンドーサがおれを待っているんだ」
ボロボロになって試合を終えたジョーははずしたグローブを葉子に渡す。
「あんたに、もらってほしいんだ」
葉子の愛が完成した瞬間である。そしてあのラストシーン。あのジョーの微笑みは、葉子の愛を受け入れた喜びをも表しているのだ。
ジョーは死んでいない。葉子と結ばれるのだ。
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SFマガジン2016年4月号

SFマガジン2016年4月号 №714
雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 スティクニー備蓄基地 谷甲州
2位 突撃、Eチーム 草上仁
3位 烏蘇里羆 ケン・リュウ 古沢嘉通訳
4位 熱帯夜 パオロ・バチガルピ 中原尚哉訳
5位 二本の足で 倉田タカシ
6位 やせっぽちの真白き公爵の帰還 ニール・ゲイマン 小川隆訳
7位 七色覚 グレッグ・イーガン 山岸真訳
8位 電波の武者 牧野修
9位 overdrive 円城塔
連載
幻視百景(新連載) 酉島伝法
小角の城(第37回) 夢枕獏
椎名誠のニュートラルコーナー(第50回)
世の中はい爺さんと悪い爺さんでつくられていた 椎名誠
マルドゥック・アノニマス(第8回) 冲方丁
青い海の宇宙港(第8回) 川端裕人
ウルトラマンF(第3回) 小林泰三
近代日本奇想小説史[大正・昭和篇](第26回) 横田順彌
SFのある文学誌(第45回) 長山靖生
にゅうもん!西田藍の海外SF再入門 西田藍
アニメもんのSF散歩(第9回) 藤津亮太
現代日本演劇のSF的諸相(第18回) 山崎健太
「スター・ウォーズ」と現代のスペース・オペラ映画(後篇) 添野知生
ランキングで振り返るSF出版70年 高橋良平×塩澤快浩(本誌編集長)
デヴィッド・ボウイ追悼特集 変わり続けた男の物語
今月号は読み切り短篇が9編。だから、いちおう「読む」ことはできた。で、楽しめたかというと微妙。上記の人気カウンター4位までは楽しめた。ところがそれ以下の5作は面白くなかった。
「スティクニー備蓄基地」フォボスのスティクニー備蓄基地が、不思議な「攻撃」を受ける。どうも「生物兵器」が使われたらしい。この作品未完。続きは8月号。なぜ一挙掲載しない。アホみたいな企画記事を削ってでも一挙掲載すべき。
「突撃、Eチーム」そのチームは超能力者のチーム。それぞれ「うそつき」「どろぼう」「暴力」の超能力を持っている。人に、うそをつく、人のものを盗む、人に暴力をふるう、こんなこと超能力者にしかできない。
「烏蘇里羆」親を殺し、自分の右腕を奪ったの巨大な羆に復讐するため、機械の馬に乗って追跡。陸上版白鯨。ケン・リュウ、吉村昭に挑戦。恐縮ながら小生も機械で羆と戦う話を書いている。
「熱帯夜」「神の水」のスピンオフ。小生は「神の水」は未読だが、この作品だけでも楽しめた。暑いコロラド。廃品回収業の母。取材する女。
と、いうわけで、上位4作だけに言及する。
早川から送られてきた封筒を開けてびっくり。デヴィッド・ボウイが表紙におる。間違って音楽雑誌が送って来たか?今まで50年近くSFマガジンを購読してきたが、音楽関係者が表紙になったのは初めて。(初音ミクは音楽関係者かな?)確かに、デヴィッド・ボウイはSFが好きだったらしいが、日本でゆいいつのSF専門誌たるSFマガジンが表紙に採用するのは違和感を感じる。表紙だけではなく、追悼特集までやっている。SFは文芸だ。SFマガジンはSF専門誌だ。こういうことは音楽雑誌に任せておけ。
「ランキングで振り返るSF出版70年」これ、日本SFにとっての重要なことではなく、早川書房にとっての重要なこと。こんなこと読者に知らしめてなんの意味がある。長年SFもんをやっている人は、人それぞれ自分にとってのSF関連重要なことがある。小生にもある。そのことは「とつぜんSFノート」でときおり触れている。かようなことは、まったく極私的なものだろう。出版社が有料の雑誌でやるべきことではない。したければ、無料のPR誌でやるべし。こんなアホみたいなことに頁を費やすのなら、谷甲州の作品を一挙掲載すべすべし。
編集後記を読むと、「お詫びと訂正」が2件、まったく、2ヶ月も時間を取っているのに、まともな仕事ができんのか。
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料理の新常識

水島弘史 宝島社
この本でいっていることは三つ。
1.加熱は弱火。
2.塩は正確に計測する。
3.包丁はていねいに。
まず1番。肉を焼く時、まず強火で焼いて、表面を固めて中までじっくりと火を通す。これが今までの常識。熱いフライパンに肉を入れると、その瞬間、肉の水分が流出、アクや嫌な臭みが肉の内部に残る。冷たいフライパンに肉を入れ、弱火でじっくりと時間をかけて焼くべし。
これはテフロンのフライパンだからできるのではないか。この本で使っているフライパンはすべてテフロンだ。小生(雫石)が主に使っているフライパンは鉄だ。鉄のフライパンは使う前、まず空焼きして油を流して、油ならしをして使う。冷たいフライパンに肉をいきなり入れると焦げつく。
2番。キッチンには電卓をおいておくべし。塩少々、塩ひとつまみ。こういうアバウトな塩の使い方はダメ。おいしい計算式がある。素材の重さ×0.008=塩の重さ。塩は0.1g単位で厳密に計って使うべし。調理にかかる前に素材の重量を測って、電卓で計算して使う塩の重さを測るべし。
こんな面倒くさいことできるか。
3番。包丁で素材をたたき切ると、素材の細胞膜が破れてうまみが流れ出る。包丁はていねいに正しい握り方と姿勢で使うべし。
これはいわれなくても、小生(雫石)は実行している。速水もこみちは包丁使いが自慢らしく、トントンと派手に音を立ててキャベツを千切りしているが、あれではダメ。機会があれば勝負したいが、小生が切ったキャベツともこみちが切ったキャベツでは、たぶん小生のキャベツの方がおいしいだろう。
土井善晴さんも同じことをいっていた。包丁を飛行機、まな板を滑走路だと思って、軟着陸させるように包丁をつかいなさい。料理が上手な人のまな板はキズがない。
「だまされたと思って試してほしい」というのが本書の副題だが、総括すれば小生(雫石)は試さない。1番はケースバイケース。強火がいいときは強火を使う。実は試しに家人が鶏肉をテフロンで弱火で焼いた。確かにふっくらと焼けていた。2番は小生は実行しない。3番はいわれなくてもやっている。
さして役に立つ本ではなかった。
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王とサーカス

米澤穂信 東京創元社
太刀洗万智は新聞社を辞めた。新聞記者は辞めたが、ジャーナリストは辞めない。いま、ネパールのカトマンズに来ている。知り合いの雑誌社がアジア特集をする予定なので事前取材を兼ねての旅行だ。
そのネパールで重大事件勃発。王宮で皇太子が国王、王妃、その他王族を殺害、自殺を計る。
現地にいた太刀洗に、雑誌からこの殺人事件の記事作成の依頼が。彼女にとってフリーになって初めての仕事だ。早速、取材を開始する。泊まっている宿の主人のツテで、事件当日王宮にいた軍人に接触する。その軍人が殺される。死体の背中には「infomer」=密告者と読める傷跡が。
ネタばれになるので、くわしくは書けないが、ミステリーにミスディレクションという手法がある。この小説はその手法がとられている。
小生はSFものであって、ミステリーファンではない。そんな小生ではあるが、後半に入ったところで、真相は推理できた。当たっていた。だから、この小説のミスディレクションは成功とはいいにくい。
それと、主人公の女性フリーライターの太刀洗万智。ジャーナリストとしての心得や、ジャーナリズムについて自問自答し、殺害された軍人や、同じ宿の日本人僧侶との問答によって、自分の仕事に真摯に向き合う真面目なモノ書きであることはよく判った。しかし、それだけ。彼女のキャラが立っていない。独特のクセや、仕事にこだわっていることは判ったが、それ以外にこだわっていること、など、キャラを立てる工夫が欲しかった。これじゃ、ただの女性フリーライターだ。ただじゃなくて、特異なフリーライターにした方が読者としては面白い。
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モナドの領域

筒井康隆 新潮社
筒井さんご本人の弁によれば、「わが最高傑作にして、おそらく最後の長編」とのことだが、筒井さんの年齢を考えれば、「最後の長編」というのは、そうかも知れないが、「最高傑作」というのは、いささか疑問だ。この作品が、「俗物図鑑」や「虚航船団」よりも上とは思えぬ。
読み始めて、まず感じたこと。これはベテラン手だれの筒井さんが書いた小説だから、納得して読み進められたが、作者名を知らずに、読んでおれば「なんじゃいな、これ。素人かいな」と思うであろう。そういう書きっぷりであった。これは、はたして筒井さんがボケて下手になったのか、筒井さん一流のテクニックなのか判らぬ。後者であることを願う。
冒頭は、猟奇的な事件から始まる。若い女性の片腕、続いて片足が発見される。捜査に当たったのは美男の警部。
バラバラ事件の現場近くのパン屋。美大生がアルバイトしてる。その美大生が人間の片腕そっくりのパンを焼いた。このパンが評判を呼び、たいへんな売れ行き。このパン屋の常連に美大の教授がいる。この教授に異変が。人のことをいい当てる。初対面の相手の名前を正確にいい当てる。アドバイスを求める者には的確なアドバイスを与える。
そして教授は「ワシはこの身体を借りているだけ」といいだし、登場人物も作者も、それをGODといいだす。
GODを崇拝する人は増える。あたかも新興宗教の教祖のようになる。ようするに、このGODとなんぞやと、筒井さんはいいたかったのか。
いわんとすることは、判らぬではないが、もひとつ未消化な感じがせぬでもない。小生には、大変に失礼ではあるが、年寄りのくりごととしか読めなかった。
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桜花忍法帖

山田正紀 講談社タイガ
「甲賀忍法帳」の続編である。正確にいうと「甲賀忍法帳」の漫画化作品「バジリスク」新章ということらしいのだが。
最初にお断りしておく。この作品を読まれる前に「甲賀忍法帳」を読んでおくべき。「甲賀忍法帳」のあの壮絶な忍法合戦があってこそ、この作品の設定が生きるのだから。
現代の作家で、真正面から山田風太郎忍法帳の続編を書ける作家は山田正紀をおいて他にいないだろう。SFを出発点として、ミステリー、冒険小説、ホラー、伝奇小説、時代劇、エンタティメント小説のオールラウンダーにしてベテラン職人作家山田正紀にして、初めて、風太郎忍法帳の「新作」が書けるのである。
山田(正紀のほう)には、「神君幻法帖」という作品があるが、あの作品では、あえて「忍法」という言葉はさけて「幻法」といっていた。今回は堂々と「忍法」といっていた。しかも今回の主人公二人は「甲賀忍法帳」の主人公二人と血縁関係にあるのだ。
甲賀VS伊賀。あの忍法合戦から10年。甲賀伊賀のロミオとジュリエット、甲賀弦之介と伊賀朧に双子の子供がいた。甲賀八郎と伊賀響。
あの時、忍法合戦の結果、将軍になれなかった徳川忠長。母、お江与の方危篤の報を受け江戸へ急いでいた。護衛に当たるのが甲賀の精鋭甲賀五宝連の五人の忍者。その前に成尋衆と名乗る謎の集団出現。成尋衆は甲賀五宝連を子供扱いして全滅させる。さらに成尋衆は伊賀の精鋭伊賀五花撰も皆殺し。生き残った八郎と響は、新甲賀五宝連と新伊賀五花撰を結成して成尋衆に対抗する。
その成尋衆は巨大陸上戦艦「叢雲」にうち乗って動き出す。目的地は江戸か京か。彼らは、あの魔王をこの世に復活させて、再び戦乱の世にしようと企む。
山田正紀はやっぱり根っこはSF作家だ。風太郎はあくまで伝奇的とはいえ、特化した肉体を駆使する忍法であったのあったが、正紀の忍法は、これはもう、SFだ。成尋衆の忍法などは、なんせ時間と空間をゆがめる忍法なんだから。これはもう、忍法なんてもんではない。
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スキン・コレクター

ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子訳 文藝春秋
車いすの天才科学捜査官リンカーン・ライムシリーズの最新作である。ディーヴァーお約束のどんでん返しも後半にちゃんとある。で、この本を読了して思ったのだが、このシリーズ、もういいや。ディヴァーお得意のどんでんも鼻についてきた。あきてきた。
話が長い。456ページもある。で、お約束のどんでんは後半にならないと出てこない。それまで、なんということもない連続殺人事件の捜査話につきあわなければならない。
ま、その連続殺人というのがなかなかユニークなので、なんとか読み通せたが。それに先行作「ボーン・コレクター」「ウォッチメイカー」を読んでおかないとよく判らない。
連続殺人事件発生。被害者はいずれもタトゥーを施されている。そのタトゥーが死因。インクではなく毒を注入されている。そのタトゥーというのが、なんか意味ありげな文字。
この犯人はどうやら「ボーン・コレクター」事件を意識しているようだ。そして、この話の冒頭では「ウォッチメイカー」が死んだとの報がライムにもたらされる。
で、肝心のどんでんだが、×××は実は○○○だったというもの。「ウォッチメイカー」のめくるめくどんでんに比べれば、小生は弱いと感じた。
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