NHKの大河ドラマは黒田官兵衛。
昔からこの人物には興味があったので欠かさず見ている。
そして、官兵衛に関する本も数冊読んだ。
今の自分の仕事に参考になることも多い。
例えば、官兵衛の残した言葉に、「夏の火鉢、旱(ひでり)の傘」というのがある。
意味は、夏の火鉢も、かんかん照りの日の傘も、役には立たないが、冬になったら火鉢は暖かいし、雨が降れば傘でしのげる。
つまり、ある局面では全く使えなくても、別の局面では大きな力を発揮できる。
官兵衛は人物もこれと同じで、多角的に人材の能力をチェックして起用すれば、本来の力を発揮するものだと説いている。
人の短所ばかりに目がいく上司は多いが、人の能力は千差万別と悟ってそれぞれの長所を発見してやったり引き出したりする上司は少ない。
単純に人員だけを増やせばいいのではなく、一人ひとりの得て不得手を勘案して人材配置すれば実数を超える力を発揮することがある。
そのためには、その人材が持つ得意なことを伸ばすこと。
そうすれば組織に相乗効果が生まれ、より強さが増す。
また、官兵衛は人材配置にも気を配ったという。
家臣同士の相性にも細かく目を配っていたというから、かなり高度な組織編制をしていたことになる。
官兵衛は「家中間善悪の帳」という記録を携帯して、何か気づくとそこへメモをしていたというのである。
何を書いたかというと、家臣の誰と誰は仲がいい、誰と誰とは喧嘩状態で犬猿の仲だといった類(たぐい)である。
今風に言えば、何百という家臣たちの人間関係を“プロファイリング”していたというのだ。
例えば、しばらく戦った後、相手の武将と講和をまとめようという段階になって、複数の家臣を相手先に行かせる場合、その家臣同士の関係がよくなければ、先方の交渉もうまくいくはずがないと考えていた。
だからこそ、“善悪の帳”が必要となったのであろう。
また、官兵衛は「相口、不相口」という言葉も残している。
相口とはウマが合う、性にあう間柄であるということ。
不相口とは、その逆でウマが合わない関係のことだ。
これらは前述の人間関係のよし悪しを把握する重要性を語ったものであると同時に、戒めの言葉でもある。
人は組織を編成するときに、とかくウマが合う人、現代でいえばイエスマンで固めることがある。
また、ウマが合う家臣のことはつい贔屓(ひいき)してしまい、目をつぶることも多い。
逆にウマが合わない家臣のことはろくに話も聞かず、ただ遠ざける。
それをやっていると最初は居心地がよくても、たいていは失敗する。
能力よりも、相性だけを重視した組織がうまくいくはずがないのである。
官兵衛はそのこともきちんと把握していて、相性の合わない相手の話でもしっかりと耳を傾けたという。
官兵衛には、それだけの度量の広さがあり、人間というものはどういうものか、強い組織にするにはどうするべきか、を日頃から考えていたという証でもある。
これらのことは、現代社会の私たちにも十分通じる戒めである。