小さな栗の木の下で

保護犬のミニチュア・ダックスを引き取り、
小型犬との暮らしは初めて!という生活の中で、感じたことを徒然に…。

虚構の世界

2014-08-12 | つぶやき
 以下は、河出書房新社から発売された『福島第一原発収束作業日記 3.11からの700日間』の書き手であり、今も福島第一原発で働く原発作業員の方の、昨日8月11日のつぶやきである。

 「今日は、東日本大震災から3年5か月、41回目の月命日。1F作業は相変わらず思うように進まず、やってみなきゃわからない試行錯誤の現実。地域除染も現実的に元に戻すような除染は困難だと、国は汚染度や核種は公表せず、住民や地元企業の早期帰還を促すために、線量基準値を引き上げようとしたり金銭的な優遇措置をぶら下げ幻の世界を作り出し引き戻そうとしてる。

 オイラ東京に来るたび、この場所じゃ福島の現実は見えないんだなあって…つくづく実感する。ここ東京では自らが積極的に現実を知ろうとしない限り国の作り出そうとする虚構の世界しか見えない。現実の東北復興はまだまだ先が見えて来ない。

 それでも多くの人たちが未来に向け未来を信じ頑張っている。オイラも微力ながらコツコツと前を向き進んで行きたい。そんな想いを抱きながら東日本大震災関連で亡くなられた多くの犠牲者に対し14時46分、東京から東北の空に向かい黙とうを捧げます。」

 このつぶやきのどこに引っかかったかというと、「東京では福島の現実は見えない。ここ東京では自らが積極的に現実を知ろうとしない限り、国の作り出そうとする虚構の世界しか見えない」という件。

 数カ月、ある巨大組合組織の出版部門である出版社の仕事を手伝う機会があった。そこでは、ある省庁の広報誌の制作を委託されているのだけど、編集サイドは取材だけ外注に行かせ、記事は机上で物語に作り上げ、そのストーリーに添うよう、外注ライターのテキストを書き替えて作っているらしい。

 私が福島県の、とある被災農家さんに取材した内容も、取材先の方が言ってもいないような内容に書き換えられていた。
 福島では放射能汚染問題が尾を引き、たとえ生産が再開できても、売り上げられないという厳しい状況が続いている。その農家さんは「国が定めた暫定規制値を下回った物だけを、消費者のみなさんに届けているということを理解してほしい。選ぶのは消費者の方だけど、市場に出る前にはじかれるのは辛い」と苦しい胸のうちを語っていたので、せめてその思いは発信して差し上げたいと思い、そう綴ったところ、その出版社の編集者がびっくりするような内容に書き替えていたのである。

「全国のみなさんのおかげで、ようやくここまで復興できました。その恩返しのためにも、福島産のおいしい果物をお届けしたいですね」と、その農家さんが語ったことになっていた。

 目を疑いましたね。「放射能のことを書くと読者の不安を煽る」という理由で書き替えたと言うのだけど、被災地の方が「みなさんのおかげで」と言ったならまだしも、取材した方とはそんな話はしなかった。被災も免れて、東京で何に不自由もなく暮らしている人間が、どういう神経で「恩返しのために」などと被災農家さんに言わせるのだろうか。よくそんな傲慢なことが書けるものだと呆れ果てた。

 このような操作はクライアントである省庁のご機嫌取りにほかならず、不愉快至極。抗議したけれど、中に入っている制作会社も下請けゆえ、強く言えないなどと言って及び腰だった。

 まず、クライアントに満足してもらうためのシナリオありきなのだ。しかも編集担当者は前もって「取材先にこういうふうに言わせてほしい」的な発言までするのだ。もってのほかですね。現場はそんな都合のいいストーリーに当てはまるほど簡単じゃない。

 実際の現場の声よりインターネットからの情報を取り込んで、都合のいい誌面を作り上げようとする人たちと対峙しなければいけなかったので、余計に「自らが積極的に現実を知ろうとしない限り、国の作り出そうとする虚構の世界しか見えない」という、前述のつぶやきが響いたのである。

 取材させてもらった方たちの発言をねじ曲げたり、言ってもいないことを言わせたり、ドラマチックに仕立てるために脚色(捏造)するのは、まったくもって不実な行いである。
 たとえ取材した相手が非情な殺人を犯した極悪人でも、その人の発言をこちらの都合のいいように書き替えたり言い替えることは、決してしてはいけないことだ。

 あまりにも誌面づくりに対して誠意がないので、その出版社の仕事からおりることにしたのだが、そうしたら中に入っていた制作会社がとんでもないことを言ったのである。

 「ライターがいないので、ページ単価を倍にするから続けてくれないか」って、おいおい。
 最初に提示されたページ単価は、悲しくなるくらい少ないもので、初めて付き合う制作会社でもあり、当初もこの仕事を受けるべきか、かなり迷った。
 
 ただ、どんな現場にせよ、真摯に取り組んでいる方たちからは学ぶことも多い。だから、引き受けたのである。ページ単価を2倍にできるのなら、最初からさっさとそうしてほしかったよ。

 原稿料が安かろうと、これまでも仕事に手を抜くことはもちろんしてこなかったけれど、これ以上、虚構の世界を作り上げることには加担したくないので、制作会社の申し出もきっぱりお断りした。あの版元にして、この制作会社……、まったく「ばかっちょ!」と思いましたよ。

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