外国人観光客を受け入れるのが当然の欧州では、大きなターミナル駅の構内にツーリストインフォメーションセンター(TIC)があり、街中のホテルはもちろんのこと、貧乏なバックパッカーのために夏季休暇中の大学の寮なども斡旋してくれる。
学生時代にバックパックでパリを旅行したときには、TICで列を作っていたアメリカの女性パッカー2人連れとともに、学生が帰郷中の大学寮を紹介され3人で向かったことがあった。かつての学生運動の発端となったパリの大学寮には、すでに男子棟、女子棟の区別はなく、部外者の宿泊禁止という規約も有名無実のものに過ぎない状態だった。彼女たちの泊まる部屋で簡単にお茶などご馳走にながら旅の情報交換して、それから僕が泊まる部屋に一人で行くとその部屋の日本人の住人が迷惑そうにしていた。彼が徹夜でキャンバスに向かって絵筆を振り続ける中、気を使いながら僕は寝袋に包まって静かに寝ていたことを思い出す。
とこのように、欧州では休暇中に無人となる大学寮や個人の家を旅行者に貸し出すシステムが存在する。個人の家の場合は、この映画で出てくる「ホーム・エクスチェンジ」というサービスだ。利用者の多くが、年に3回から4回この仕組みを利用して旅行をしているらしい。 同じ時期に滞在を希望する場所・家がマッチした場合、当事者どうしで交換が行われる。車、ボート、ゴルフカートなど家以外の設備の交換もあり得える。この仕組みの最大の利点は、宿泊費を支払う必要がないことだ。また、まるで居住者のように生活することができ、異文化を体験できることも魅力のひとつである。しかしながら、各種条件を満たす旅行者を知人の中から探し出すことは極めて難しいことから、インターネット上の会員マッチングサービスを利用することが一般的となっているようだ。
こうしたシステムが日本に定着するにはこれから何年かかるのだろう。定点に留まり農地を耕して一生を終わる農耕民族と、獲物を追って旅から旅へ移り住む狩猟民族の基本的な考え方の違いは大きいので、日本になじむまではかなり時間がかかるかもしれない。また、映画「スパニッシュアパートメント」に見られるような、見知らぬ男女でも互いに納得すれば部屋をシェアしあうといった合理的な考え方が支配する世の中は、日本ではいつの世になるのだろうか。
だが、旅先で恋に落ちる。これは国籍や性別による違いはないのかもしれない。
一人で旅に出ると、いつもより多めに緊張したり興奮していることもあって、旅先で恋に落ちることが多い。かくいう僕も、かつて旅先で恋に落ちたことがあった。旅先に限らず、恋は「する」ものではなく、「落ちる」もの。いわば、交通事故に会ってしまったようなモノなので、こればっかりはどう扱っていいのか未だにわからないでいるが・・・・・・。
同じ日本人でも、幾日を費やしても分かり合えない人もいれば、生まれた国は違っても、一度話しただけで気持ちが通じ合う人もいる。海外で仲良くなれる人と出会ったときの喜びはひとしおだ。旅先での恋愛においてもしかり。今振り返ってみると、旅先での恋は自分の視野をグッと広げてくれたように思う。
さて、この映画。主な登場人物は、キャメロン・ディアス、ケイト・ウィンスレット、ジュード・ロウ、ジャック・ブラック。豪華な布陣だ。彼らは、これまでのイメージを超えて、さらに魅力的な役柄を演じている。
恋人の一度の浮気も絶対に許せない潔癖なキャメロン・ディアス演じるアマンダ。ハリウッドでの映画制作と厳しい競争に勝ち抜くために闘ってきた。両親の離婚がトラウマになっていて泣くことに必死に耐えていた彼女は、恋人の裏切りに会っても涙も出ない。荷物ごと、家から彼氏を追い出している。でも、クリスマス休暇に一人でいる自分がどうしても納得できずにいる。
ケイト・ウィンスレット演じるアイリスは3年間も片思いの状況。同僚の女性と二股をかけられていたのも気づかない程、彼氏のことを思い続けている。同僚と婚約した後もホーム・エクスチェンジ先の彼女に頻繁にメールで甘い言葉を送ってくるようなずるい男を、優柔不断の彼女は相手を振り切ることができない。
恋愛、そして男性に対して対照的な二人の女性たち。一見、自立しているようだが、つきあっている男性に振り回されてもいる。ホームエクスチェンジした彼女たちは、互いの人間関係の一部まで引き受けることになる。そこから先は大方の予想通り二人とも新しいオトコと出会い、なにやら恋らしきものが始まる・・・・・・ことになる。 最後はいつものハッピーエンド。
-Shakespeare said, "Journeys end in lovers meeting."
-It was Shakespeare who also said,"Love is blind."
結構、凝ったセリフがたくさん出てきて会話が楽しい。老脚本家のアーサーが映画の中で語るこんな言葉もある。
「公開後、一週間でその映画の勝敗がついてしまう」「こんな状態では映画が育たない」。
Now a picture has to make a killing the first weekend or they're dead.
This is supposed to be conducive to great work?
脚本家の本音なのだろうが、ハリウッドの裏側をかいま見ているようで面白い。