アフリカの現代史において、数多くの独裁者が登場してきた。たとえば、国家予算の横領と大量虐殺を繰り返し、国を回復不能まで内戦により破壊しつくしたリベリアのチャールズ・デーラー、同じくリベリアの政府を非難した者を捕まえてペットであるライオンの餌にしていたサミュエル・ドエ、血の粛清といわれる大量虐殺や国外追放を国民に対して繰り返したギニアのエンリコ・マシアス・ンゲマ、汚職・援助金の横領で見事に国を破綻させたナイジェリアのサニ・アバチャなど、かつての独裁者を数えあげるときりが無い。なかでも、反対派を少なくとも30万人以上は虐殺したウガンダのイディ・アミン・ダダ、アムネスティ・インターナショナルに児童大量虐殺事件を暴露され、世界中から非難を受けた中央アフリカのジャン・ベデル・ボカサ、国の借金と同額以上の莫大な個人資産を蓄え、スイスの銀行などに貯金していたザイール(現コンゴ民主共和国)のモブツ・セセ・セコはアフリカの3暴君と呼ばれている。
こうした独裁者には共通の特徴がある。この映画にも出てくるが、反対派への徹底した弾圧だ。これはアフリカの独裁者だけではなく、古今東西の独裁者に共通するものだろう。少しでも自分の考えに異を唱える者や反乱を起こしそうな者を逮捕して拷問し、その後は処刑するか強制収容所へ送るか国外へ追放するのが常だ。
ウガンダは赤道直下にありながら、標高1,200メートルのサバンナ地帯にあるため比較的過ごしやすく豊かな水に恵まれているアフリカ東部の国だ。総人口の大半を農耕民であるバンツー系ブガンダ族が占め、現在でもコーヒー、綿花、紅茶、銅などを産出している。 1962年にイギリスの支配から独立したが、その後部族闘争が続き、71年にクーデターによってアミンが独裁恐怖政治を敷き、外国人追放による実質的経済活動の停止、タンザニア軍の介入、相次ぐ軍事クーデターなど、政変が相次いだ。1987年にクーデターで政権に就いたヨウェリ・ムセベニの登場で、ウガンダ情勢は少しづつ変化が現れ、1990年中頃には奇跡的にも治安情勢や経済情勢がほぼ正常に戻り、慢性的な物不足やホテル不足も徐々に改善されはじめた。しかし、未だに北部の地域では少年兵問題が国際非難をあびているのは周知の通りである。
1998年に発表されたジャイルス・フォーデンによる同名小説をもとにした本作のタイトル“The Last King of Scotland”は、実際のアミンの言葉からとったものだ。ついこの前まで植民地支配していたイギリスの内政干渉に対して、アミンは外国人記者団に「私はスコットランドの最後の王だ」と語る。つまり、“イギリスとウガンダ”の関係は“イングランドとスコットランド”の関係と同様にかつての従属関係ではなく対等だと言ってのけたのだ。アミンは、チャップリンの独裁者を思わせる大衆の心を捉える芝居がかった演説、人懐こい笑顔など、一見するとカリスマ性のある人物だ。しかし、独裁者の常で、信じられるものは自分だけという世界に引きこもり、精神のバランスを崩して残虐な粛清の深みにはまっていく。
現在ですら外務省の海外安全情報では危険な国とされるウガンダに出向いたのは、スコットランドの医学校を卒業したギャリガンだ。スコットランドではないどこかを求め、地球儀で偶然ウガンダを指す。白人の若手医師が遊び半分で出かけた先が、殺戮と戦いの現場だったのだ。
映画のラスト、命と引き換えにギャリガンを助けた医師は言う。
「生き残って、ウガンダの真実を世界に知らせてくれ。君の言うことは皆信じる、君が白人だから」
アミンは在任中、30万人以上を虐殺した。彼の蛮行は映画の終盤に一気に映像化されている。一人の独裁者の孤独と、彼の暴走を止められなかった周囲の愚かさ、虚しさが苦く後味として残る。
以下はチャップリンの「独裁者」のラストを飾る13分30秒もの壮絶な演説の一部。
言うまでもなくチャップリンが全世界の人々へ伝えたかったことだ。
To those who can hear me, I say "Do not despair"
The misery that is now upon us is but the passing of greed, the bitterness of men who fear the way of human progress, the hate of men will pass and dictators die, and the power they took from the people will return to the people, and so long as men die, liberty will never perish.
人々よ失望してはならない。
貧欲はやがて姿を消し、恐怖もやがて消え去り、独裁者は死に絶える、大衆は再び権力を取り戻し、自由は決して失われぬ!