「僕が旅に出る理由は、だいたい100個くらいあって・・・・・・」
くるりの「ハイウェイ」という曲の出だしだ。
突然、八丈島のダイビングを思いついたのは、今となっては何がきっかけだったかわからない。メタメタに破れた心を修復するためだろうか。それとも、もうどうにもならないんじゃないかというわけのわからない恐怖からなのか。難しく考えてはじめたらきりがないことを難しく考えてしまう。後悔することなんて山ほどあり、過去は決して変えることが出来ないのに・・・・・・。
ラブ・コメ映画の『Holiday』でキャメロン・ディアスが泣けない女を演じていた。耐えるケイト・ウィンスレットと比較して、キャメロンはどちらかと言えば苦手なオンナだなあと思っていたが、ふと、実生活で泣けない自分がいることに気がついた。DVDなど絵空事では、それこそ涙が止まらなくなるものの、自分のことになると涙が乾ききって何にも出てこない。なんて嫌なオトナになってしまったのだろうか。それとも、自分の気持ちが整理できずに感情を失くしてしまったのだろうか?
旅に出る理由。しかしほんとは、理由なんてどうでもいい。
「僕には旅に出る理由なんて何一つない」
つまり、色々な事があったけれど、それがいい事であったのか、悪い事であったのかはわからない。 なんでかはわからないけれども、泣くことのできない嫌な男いて、旅に出ることに決めたから出かけてみる、ということだ。
9月14日、 船はこの日の夜の10時30分に竹芝桟橋を出航した。さすがに3連休の前夜ということで、桟橋はサーフボードを担いだ若者達や、大きなクーラーボックスに釣竿をぶら下げた男たち、そしてダイビングのキャリーバッグを抱えたダイバー達でごった返していた。東海汽船のカメリア丸は関東を目指して北上中の秋雨前線をくぐり抜けて行ったが、航海中の揺れはほとんどなかった。僕の眠りは浅く、船底に近い2等船室の和室のスペースで、毛布に包まりながらたびたび目を覚ました。ぼくのとなりで、ツアー同行のダイビングインストラクターのなつこさんが熟睡中。彼女はガイドの見習い中だ。かわいい寝顔の彼女を起こさないように、翌朝の8時過ぎにデッキに出てみる。外は晴だ。透き通るような青い大空だった。すでに前方に島が見えている。あれが、八丈島だ。八丈島のインディゴブルーの海を見て一気に目が覚める。
<はるかな はるかな 見知らぬ国へ 一人で行く時は 船の旅がいい>
by 井上揚水