この時期になれば、『秋ナスは嫁に食わすな』という、ことわざの由来があちこちのブログで見つかる。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によれば、『秋ナスは身体が冷えるから食べさせるなと言う意味と、うまいものだから嫁に食わせるのはもったいないという意味と二通り伝えられている。また、元来は嫁ではなく夜目であり、ネズミを指したとの説もある。』
とあり、ネットで見かける記述も、どれも同じことが書いてある。しかし、どちらが本当の由来なのかは決着がついていないようだ。
ー最初の説(身体が冷えるから)
これは、「茄子は性寒利、多食すれば必ず腹痛下痢す。女人はよく子宮を傷ふ(養生訓:貝原益軒(1630-1714))」から、嫁の体を案じた言葉だとする説である。これは、もともとは中国の明王朝時代(1368~1644)に書かれた「本草綱目」という書物に「茄性寒利,多食心腹痛下利,婦人能傷子宮。」という記述があることから、貝原益軒が人に注意を促したことを原点としている。未確認ではあるが、中国ではほかにも、 「開本草」という書物には「茄子は、性冷にして腸胃を冷やす、秋に至りて毒最甚し・・・」、「傷寒論」にも「多食すれば子宮を損なう」という記述があるらしい。
また、江戸時代初期の伊勢貞丈も「安斎随筆」のなかで、「子宮を痛めるから、秋茄子は嫁の身体に良くない」と書いているとのことだ。
一般に、夏野菜は身体を冷やす効果があると信じられているようだが、それを裏付ける実験データは見たことがない。ちなみに、貝原益軒は「菜譜」という書物の中で、きゅうりについて「これ瓜類の下品なり、味良からず、かつ小毒あり」としている。どうやら、食べ物は必ずしもすべて身体にいいわけではないらしい。
ー2番目の説(嫁に食わせるのはもったいない)
この説の根拠とされるのは、夫木和歌抄に詠われている「秋茄子わささの糟に漬けまぜて 嫁には呉れじ棚に置くとも」という和歌のようだ。早酒(わささ)とは新酒のこと。夫木和歌抄:(ふぼくわかしょう)は鎌倉後期(1310)の私撰和歌集であり、嫁を憎む姑の心境を歌ったうたで、姑の心境は核家族化して嫁と姑の関係が希薄化した今も変わるところがないようだ。女性の基本的な心理を的確に表している。のかもしれない。
この2つの説の元になっている書物を単純に年代だけを比べると、どうやら、「嫁に食わせるのはもったいない」の方が古く、こちらに軍配があがりそうである。和歌は四季の美しさを詠む公家の文化であった。その後、応仁の乱で京都が荒廃すると、公家や禅僧は地方に移り、学問や文化の地方波及や庶民化を促した。室町時代には、惣村の成立や都市の発達により庶民が文化の担い手になってくる。このような経緯で、庶民に「秋茄子わささの糟に漬けまぜて 嫁には呉れじ棚に置くとも」の和歌が広まったと考えられる。一方、養生訓は儒教と中国医学とを修めた貝原益軒が、江戸時代の庶民のために書き下ろした生活習慣病と老化予防の本である。
「飲食は身を養ひ、ねぶり臥すは気を養なふ。しかれども飲食節に過れば脾胃をそこなふ。ねぶり臥す事ならざれば、元気をそこなふ。」
この養生訓の中の一節の意味は、食物は体を作り養う、睡眠も生きてゆく上で必要不可欠なことである。しかし、飲食も休養も睡眠も、ほどほどに節制が必要である。過ぎたるは猶及ばざるがごとし。---とこのように、基本的には食物に対してポジティブなスタンスである。
「茄子、本草等の書に、性好まずと云。生なるは毒あり、食ふべからず。煮たるも瘧痢(ぎゃくり:急性下痢)傷寒(しょうかん:高熱疾患)などには、誠に忌むべし。他病には、皮を去切(さりきり)て米みず(しろみず:米のとぎ水)に浸し、一夜か半日を歴(へ)てやはらかに煮て食す。害なし。葛粉、水に溲(こね)て、切て線条(せんじょう)とし、水にて煮、又、みそ汁に鰹魚(かつお)の末(まつ)を加へ、再煮て食す。瀉を止め、胃を補ふ。保護に益あり」
子供の頃、食卓に出たナスは、味がない事からおいしいと思って食べた事はなかった。ナスのからし漬けやぬか味噌漬けの味がわかったのはいつからだろう。当時、ナスの色素は、アントシアン系の「ナスニン」という色素であり、アルミの化合物であるミョウバンを使うと紫に近い明るい紺色、鉄分を含む釘などを使うと青みの強い色に漬物が仕上がるという記述を読んで、薬品を使うことに対しての抵抗感からナスに対する嫌な印象を抱いていたのかもしれない。
この記事、最後はどうやってまとめようかと苦心している。オチを思いつかないのだ。ナスだけに「オチはなす(なし)」なんてオチは、ナスにしてねと読者から前もって釘をさされている。もうそろそろ、ナスの旬を過ぎてしまいそうな時期なので、だれかに助けてもらいたい。だれか、ナス(ないす)なオチ」があったら、コメントをくれないだろうか。というオチは、ある女性から頂いたのだが、どうだろう。
秋ナスを嫁に食わせるのはもったいないという言葉からすれば、それ以上のオチはないような気もするが・・・・・・。