トム・ウェイツがピアノを弾きながら歌う(You Can Never Hold Back Spring )幻想的な冒頭のシーン。しぶい歌声で、この映画で描かれている献身的な愛と悲惨な戦争という組み合わせのやるせなさが滲みだしていた。
******そう、春のままにしておく事はできないさ さあ、目を閉じて、心を開いてごらん。
原題は"LA TIGRE E LA NEVE (雪と虎)"。ベニーニ扮する詩人のアッティリオが出版した詩集のタイトルだ。
雪の降る中にトラがいたら・・・・・・しかも、ローマの街中で。
いろんな、無理難題というものがある。
映画「ローマの休日」で、新聞記者のオスカーが8時30分に出社した時に、編集長のジュリアスが窓の外の晴れ渡った夏空を見上げていった言葉は、<今日は雪でも降るか・・・・・・>だった。
地中海沿岸のローマでは、雨がほとんど降らない。冬でも零度以下になることがないから、雪は十年に一度ぐらいしか降ることはない。でも、まったく降らないってわけじゃないから、ヴィットリアが言った事は100%不可能ではない。ほんの少しだけど可能性を残して。そして、ローマでは奇跡がよく起こる。
とにかく、アッティリオはよくしゃべる。エディ・マーフィーのマシンガントーク なみ。あるいは、しゃべり倒すと言う意味で、スティーブ・マーティンの映画「lonely guy」なみか。ちなみに、ジム・ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」の一編では、ドライバー役のベニーニがしゃべり続けることで、乗客が心臓発作を起こしてしまったりする。
けれど、ベニーニの違うところは、相手を言いくるめるのではなく、自分を納得させるためのトークであるということ。だから、彼に好感が持てるのかもしれない。
彼がしゃべりまくる言葉は、真実ばかりじゃない。なかには、すぐにわかるようなウソの話も混ざったりしている。でも、こうしたウソは、天然痘になって顔がただれた妻を気づかって、死ぬまで目を閉じたまま失明をしたふりをしていた老人のエピソードのように、人生で不可避の惨さや残虐さを覆い隠すウソなのだ。「ライフ・イズ・ビューティフル」然り、ベニーニの映画に共通するものは、人間愛と言葉の勝利への賛歌だ。
喜劇の原点が、人の想像の及ぶ範囲(キャパシティー)を越えた行動や所為にあるとすれば、最もシリアスで悲惨な戦争を舞台に、とんでもない行動を重ねるアッティリオは、喜劇としての王道を行くものだ。そして、エンディング。ただ、笑わせるだけではなく、笑って泣かせるというより高度なテクニックで締めくくっている。
あれだけ突拍子もなく、いろんなことをしゃべり続けるアッテリオが、ただひとつの事だけは言わない。それさえ言えば、自分が望んでいるものが手に入ると言うのに・・・・・・。ヘタレなぼくは、わけもなく、このラストショットでアッティリオに男を感じてしまう。
そして、ラヴコメの映画と言うのに、心がじーんと熱くなってしまったりする。
You can never hold back spring
You can be sure that I will never
Stop believing
The blushing rose will climb
Spring ahead or fall behind
Winter dreams the same dream every time
You can never hold back spring
Even though you've lost your way
The world keeps dreaming of spring
So, close your eyes open your heart
To the one who's dreaming of you
You can never hold back spring
Baby
You can never hold back spring
La tigre e la neve