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毎日の暮らしの中にある大好きなもの、こと、出合(会)いなどについての気まま日記

いちばん長い夜に

2013-03-09 14:18:33 | 読書

始めからスッと物語に入っていける作品というのは好み、それともやはり作者の文章力なのだろうか。
「いちばん長い夜に」は、「いつか日の当たる場所で」「すれちがう背中を」の連作短編シリーズ続編であり、完結編でもある。
かつて祖母の暮らした下町で、人との距離を保ちつつ肩を寄せ合うように暮らす芭子と綾香は前科もちのムショ仲間だ。
過去を知られることにおびえながら暮らしている二人だけれど、下町ゆえにいろんな人とのかかわりに巻き込まれるわけで、それがおかしくも切ない。

何の隠し事もせずに済む相手だった二人の関係が微妙に違い始めたのは、あの日の出来事からだ。
この時期にこの本を読んだことに驚いてしまったのだが、タイトルと同じ短編「いちばん長い夜に」で感じた違和感。
心理描写の巧みな筆者にしても、この微にいり細にいるこのリアルさは。
作者自身も予測していなかった物語の終わり方に、偶然は必然という言葉が浮かんだ。
それにしてもこんなことが現実に起きるとは驚きです。
綾香の心の変化と共に、命の重さ、これからを改めて考えさせられる作品です。

「いちばん長い夜に」 乃南 アサ