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毎日の暮らしの中にある大好きなもの、こと、出合(会)いなどについての気まま日記

猫鳴り

2008-06-03 10:32:35 | 読書
作者もタイトルも思いつかぬまま図書館の棚を見ていたら、沼田まほかるさんの「猫鳴り」に目がとまった。
道夫秀介さんのデビューのきっかけになったホラーサスペンス大賞で、満場一致で大賞受賞した「九月が永遠に続けば」
「背の眼」がおもしろかったのに、どんな作品だろうと読んでみたのでした。
ハードな内容でしたが、やはり大賞作品。
次の作品は出ていないのかと思っていたら、これが第三作目でした。

ミーミーとひっきりなしに鳴く仔猫の声が近くから聞こえてくる。
流産した赤ん坊と仔猫の声が、ずっと遠いどこかでひとつにつながっているような奇怪な感触。
嫌だなと信江は思う。
一度目は新聞紙にくるんで、二度目はもっと遠くへ。
傷を負い弱っているにもかかわらず、生き延びるられる可能性にかけて、また戻ってきた。
今度はもっともっと遠くに捨ててこよう。

小さい子供を見ると、どういうわけだか凶器じみた殺意が突き上げてくる行雄。
傲慢な、醜悪なチビ。
訳もなくイライラし、何かを探しているような、追いかけられているような。

最近毎日のように起きている陰惨な事件は、加害者の心情がまったく理解できない。
個人の欲望や不満を、場当たり式に満たす。
他者はそのために存在しているとでも思っているように。
第二部に登場する行雄もそんな感じだが、仔猫を飼うことによって父親との関係も、そして自身も変わっていく。
人間関係が希薄になっている今、誰かの支えになっているってことはとても重要なことですよね。
猫を通して、病んだ心が癒され開放されていく。
現実には、受け取る側の感性っていうのも重要ですけど。

第三部、最後のほうは少し読んでは涙、経験を思い出しては涙・・・
じっと人間を観察しているかのような猫に、犬はちょっとかなわないかな。
読み応えのある作品。

「猫鳴り」 沼田まほかる