(以下、毎日新聞から転載)
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働くナビ:介護現場に外国人が増えています。
◆介護現場に外国人が増えています。
◇不況で転職、行政も後押し ヘルパー養成など支援、課題は日本語読み書き
「肩」「頭」「背中」。ビルの一室、隣の人と肩が触れるほど狭い机で、ブラジル国籍の和山クラウジオ和男さん(56)は真剣な表情で漢字の書き取りをしていた。
三重県鈴鹿市のNPO法人「愛伝舎」が、県からの委託事業で3月に開催した「外国人向けホームヘルパー2級養成講座」。ブラジル、ペルー、チリ国籍の19人が参加した。「清拭(せいしき)」「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」など、読み方も意味も難しい専門用語にポルトガル語の対照表をつけ、講師と通訳がペアで教える。
世界同時不況で、製造業の職場で働いていた多くの日系外国人が失業した。その後も製造業の雇用は回復せず、自治体やNPO法人が、介護分野への転身を後押しするようになった。
和山さんは17年前、「余生は母国で」と望んだ移民1世の母(84)と、難病の妹(53)を連れて来日。部品工場や組み立て工場で働いては退職の繰り返しを余儀なくされ、昨春には、勤めていた部品製造会社が未払い給料を残して倒産した。母の世話と妹の看病をしながら次の仕事を探したが見つからない。真っ暗な気持ちの時、ハローワークで講座を紹介され「希望が生まれた」という。
人間相手の仕事に不安もあるが、それ以上に喜びを感じている。「今までは部品を作り、検査して不良品を捨ててきた。人間は部品じゃないし、命に不良品はない。手助けが必要な人の役に立てたらうれしい」
講座やセミナーで日系人の就職を後押ししてきた同法人の坂本久海子(くみこ)理事長は「日系人はコミュニケーション能力が高く、お年寄りを大切にする。介護に向いている」と話す。「日本で生きていくと決めた以上、もっとさまざまな職種に就き、安定した生活を築くべきです」。介護職には正社員採用の道も開けている。
*
同県四日市市の社会福祉法人「青山里会」では、特別養護老人ホームなど7拠点で働く職員約900人のうち61人が外国人だ(10年2月末現在)。介護現場の人手不足が深刻だった08年10月、介護経験のある日系ブラジル人を採用したのがきっかけだった。
富永エリザベッテさん(48)はエアコン製造工場から転職。「気持ちが通じ合う時がうれしい。手取り給与は工場より減ったが、充実感があるし、正社員で安定している」と満足そうだ。
青山里会人事室長の三瀬(さんせ)正幸さんは「会話能力の問題は解決できる」と話す。ある日系ブラジル人が発話がうまくできない子を担当したところ、数カ月後にはその子の言いたいことを一番くみ取れるようになった。壁になる介護記録の記入や書面での引き継ぎなどの読み書き。漢字まで十分分かる人は少なく、日本人職員がカバーせざるを得ない。そのためにもお互いを理解することが重要で、親睦(しんぼく)会や研修旅行を欠かさないという。
*
それでも介護士として働ける外国人は、基本的に日系ブラジル、ペルー人と日本人の配偶者に限られている。
「働きたい外国人は多いと思う」と話すのは、ネパール国籍のチベット難民2世ドルマ・セーリングさん(35)=東京都荒川区。日本留学後「人の役に立つ技術を身につけたい」と介護福祉専門学校に進み、都の奨学金を受けた。実習ではお年寄りに「遠いところからよく来たね」と励まされ、深夜まで勉強して介護福祉士の試験に合格した。だが就職段階で、介護職では労働ビザが認められないと知った。やむなく別の仕事に就いたという。【藤田祐子】
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働くナビ:介護現場に外国人が増えています。
◆介護現場に外国人が増えています。
◇不況で転職、行政も後押し ヘルパー養成など支援、課題は日本語読み書き
「肩」「頭」「背中」。ビルの一室、隣の人と肩が触れるほど狭い机で、ブラジル国籍の和山クラウジオ和男さん(56)は真剣な表情で漢字の書き取りをしていた。
三重県鈴鹿市のNPO法人「愛伝舎」が、県からの委託事業で3月に開催した「外国人向けホームヘルパー2級養成講座」。ブラジル、ペルー、チリ国籍の19人が参加した。「清拭(せいしき)」「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」など、読み方も意味も難しい専門用語にポルトガル語の対照表をつけ、講師と通訳がペアで教える。
世界同時不況で、製造業の職場で働いていた多くの日系外国人が失業した。その後も製造業の雇用は回復せず、自治体やNPO法人が、介護分野への転身を後押しするようになった。
和山さんは17年前、「余生は母国で」と望んだ移民1世の母(84)と、難病の妹(53)を連れて来日。部品工場や組み立て工場で働いては退職の繰り返しを余儀なくされ、昨春には、勤めていた部品製造会社が未払い給料を残して倒産した。母の世話と妹の看病をしながら次の仕事を探したが見つからない。真っ暗な気持ちの時、ハローワークで講座を紹介され「希望が生まれた」という。
人間相手の仕事に不安もあるが、それ以上に喜びを感じている。「今までは部品を作り、検査して不良品を捨ててきた。人間は部品じゃないし、命に不良品はない。手助けが必要な人の役に立てたらうれしい」
講座やセミナーで日系人の就職を後押ししてきた同法人の坂本久海子(くみこ)理事長は「日系人はコミュニケーション能力が高く、お年寄りを大切にする。介護に向いている」と話す。「日本で生きていくと決めた以上、もっとさまざまな職種に就き、安定した生活を築くべきです」。介護職には正社員採用の道も開けている。
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同県四日市市の社会福祉法人「青山里会」では、特別養護老人ホームなど7拠点で働く職員約900人のうち61人が外国人だ(10年2月末現在)。介護現場の人手不足が深刻だった08年10月、介護経験のある日系ブラジル人を採用したのがきっかけだった。
富永エリザベッテさん(48)はエアコン製造工場から転職。「気持ちが通じ合う時がうれしい。手取り給与は工場より減ったが、充実感があるし、正社員で安定している」と満足そうだ。
青山里会人事室長の三瀬(さんせ)正幸さんは「会話能力の問題は解決できる」と話す。ある日系ブラジル人が発話がうまくできない子を担当したところ、数カ月後にはその子の言いたいことを一番くみ取れるようになった。壁になる介護記録の記入や書面での引き継ぎなどの読み書き。漢字まで十分分かる人は少なく、日本人職員がカバーせざるを得ない。そのためにもお互いを理解することが重要で、親睦(しんぼく)会や研修旅行を欠かさないという。
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それでも介護士として働ける外国人は、基本的に日系ブラジル、ペルー人と日本人の配偶者に限られている。
「働きたい外国人は多いと思う」と話すのは、ネパール国籍のチベット難民2世ドルマ・セーリングさん(35)=東京都荒川区。日本留学後「人の役に立つ技術を身につけたい」と介護福祉専門学校に進み、都の奨学金を受けた。実習ではお年寄りに「遠いところからよく来たね」と励まされ、深夜まで勉強して介護福祉士の試験に合格した。だが就職段階で、介護職では労働ビザが認められないと知った。やむなく別の仕事に就いたという。【藤田祐子】