(以下、日本経済新聞から転載)
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女性がひらく 多様性育み、企業に元気
均等法25年、主要企業役員らに42人
2011/11/29 16:35
労働人口の減少と厳しい国際競争に直面する日本の産業界で、女性の人材に対する期待が高まっている。世界のグローバル企業の多くは人材の多様性(ダイバーシティ)を競争力向上に結びつけており、とりわけ女性の視点と知恵を生かした製品・サービスの開発や生産性の向上がカギを握る。今年は男女雇用機会均等法施行から四半世紀の節目に当たり、経営・幹部層に女性の姿も珍しくなくなった。企業に活力をもたらし、新たな成長の扉をひらく彼女たちを追った。
■組織には男女両方必要
米ボーイングの最新航空機「B787」の就航に向けて活気づく成田空港。全日本空輸のカウンターは多い日に1万人強が訪れる。航空券発行などを手がけるANAエアサービス東京(千葉県成田市)の小山田亜希子(45)は7月、約1000人の社員を束ねる旅客部部長に就任した。
小山田亜希子さん
1987年に短大を卒業してグランドホステス枠で入社し、2002年の管理部門への異動を機に男性と同じ責任を担うことになった。「男性と比較されているのではと気負いがあった」。吹っ切れたのは06年。成田第2ターミナルから第1ターミナルへのカウンター機能の移転拡張の現場責任者となり、トラブルや客の苦情で意気消沈しがちな部下を持ち前のきめ細やかさと目配りでまとめ上げた。09年に課長へ昇進。「男性には男性の仕事の進め方、女性には女性ならではの視点があり、組織には両方が必要。この25年で女性の意識は大きく変わり、さらに活躍する社会になる」
企業の戦力として存在感を増す女性。女性の労働力人口は10年に2768万人と均等法施行前年の85年から約17%増え、同人口全体の42%を占める。日本経済新聞社の今年8月の国内主要500社調べによると、女性の社内取締役と執行役員は計42人。小山田のように同法施行直後に社会人となった女性の中から、部長や役員として最前線に立つ人材が育っている
日本政策投資銀行の栗原美津枝(47)は87年、日本開発銀行(当時)にただ1人の女性総合職として入行した。今年5月に部長職に当たる医療・生活室長に抜てきされ、11月から女性起業家を支援する新設組織のトップを兼務する。
「女性を意識して仕事をしてきたつもりはなかった」が、08~10年に米スタンフォード大学に客員研究員として派遣されたことが転機となった。ベンチャー支援を研究しながら、世界の女性経営者らの生き生きとした姿を目の当たりにし、日本の企業風土は独特だと痛感した。「女性が起業家として挑戦する環境は貧弱で、企業の中でキャリアを形成するのにも時間がかかる。均等法第1世代の私たちが道を切り開かねば」。政投銀初の女性部長になった栗原の言葉だけに重い。
■部課長職で6.2%止まり
日本は03年、「20年までに経済や政治、行政などあらゆる分野で指導的地位に占める女性比率30%」との目標を掲げた。だが部課長職に占める女性比率は6.2%(10年の4万6226事業所、厚生労働省調べ)。
政府試算によると、労働力人口は女性や高齢者らの労働市場参画が進まないケースで50年に4228万人とピーク時(00年)の3分の2に落ち込む。目まぐるしく経営環境が変わるなか、ダイバーシティ経営は世界の潮流だ。日経が国内500社の自己資本利益率(ROE)を調べたところ、女性取締役のいる45社の平均は9.02%と、いない企業の5.73%を上回った(金融を除く、直近の本決算)。縮む国内市場、新興国の台頭、超円高など逆風にさらされる日本企業こそ殻を破る必要がある。一歩先を行くのはグローバル企業だ。
「顧客志向の組織を実現したい。あなたが必要だ」。日産自動車執行役員の星野朝子(51)は02年、カルロス・ゴーン社長(57)にこう口説かれ、社会調査研究所(現インテージ)から転職した。経営学修士(MBA)を取得し、専門はマーケティング。「会社を変えることを期待されていると感じた」と振り返る。
これに応えるように、情報をベースに意思決定することを根気強く訴えた。当時、購入者の8割は男性名義だったが、夫婦への聴きとりを通じ、多くの場合、妻が購入の決定権を握っていることを数字で証明した。
■女性活用で成長後押し
異なる経歴を持つ社員が健全な議論を戦わせることから活力や創造性、競争力が生まれる。そこでは性別も国籍も年齢も関係ない――。星野と、彼女の改革を支えたゴーンに共通する考えだ。「ダイバーシティを追求する企業でないと重要な経営判断さえも、あうんの呼吸や都合のいいデータで下してしまう危険性が増す」。星野はこう実感している。
9月、米国サンフランシスコ。アジア太平洋経済協力会議(APEC)は初めて「女性と経済サミット」を開いた。講演した米国務長官のヒラリー・クリントン(64)は世界の経済活性化に向け女性の潜在力の重要性を訴えたうえで、日本については「男女の雇用格差を解消できれば国内総生産(GDP)が16%押し上げられる」と指摘した。女性の活用にこそ、ニッポンが世界で勝ち残るヒントがある。
=敬称略
(高橋香織、安川寛之、石塚史人、星正道)
[日経産業新聞2011年11月29日付の記事を再構成しました]
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女性がひらく 多様性育み、企業に元気
均等法25年、主要企業役員らに42人
2011/11/29 16:35
労働人口の減少と厳しい国際競争に直面する日本の産業界で、女性の人材に対する期待が高まっている。世界のグローバル企業の多くは人材の多様性(ダイバーシティ)を競争力向上に結びつけており、とりわけ女性の視点と知恵を生かした製品・サービスの開発や生産性の向上がカギを握る。今年は男女雇用機会均等法施行から四半世紀の節目に当たり、経営・幹部層に女性の姿も珍しくなくなった。企業に活力をもたらし、新たな成長の扉をひらく彼女たちを追った。
■組織には男女両方必要
米ボーイングの最新航空機「B787」の就航に向けて活気づく成田空港。全日本空輸のカウンターは多い日に1万人強が訪れる。航空券発行などを手がけるANAエアサービス東京(千葉県成田市)の小山田亜希子(45)は7月、約1000人の社員を束ねる旅客部部長に就任した。
小山田亜希子さん
1987年に短大を卒業してグランドホステス枠で入社し、2002年の管理部門への異動を機に男性と同じ責任を担うことになった。「男性と比較されているのではと気負いがあった」。吹っ切れたのは06年。成田第2ターミナルから第1ターミナルへのカウンター機能の移転拡張の現場責任者となり、トラブルや客の苦情で意気消沈しがちな部下を持ち前のきめ細やかさと目配りでまとめ上げた。09年に課長へ昇進。「男性には男性の仕事の進め方、女性には女性ならではの視点があり、組織には両方が必要。この25年で女性の意識は大きく変わり、さらに活躍する社会になる」
企業の戦力として存在感を増す女性。女性の労働力人口は10年に2768万人と均等法施行前年の85年から約17%増え、同人口全体の42%を占める。日本経済新聞社の今年8月の国内主要500社調べによると、女性の社内取締役と執行役員は計42人。小山田のように同法施行直後に社会人となった女性の中から、部長や役員として最前線に立つ人材が育っている
日本政策投資銀行の栗原美津枝(47)は87年、日本開発銀行(当時)にただ1人の女性総合職として入行した。今年5月に部長職に当たる医療・生活室長に抜てきされ、11月から女性起業家を支援する新設組織のトップを兼務する。
「女性を意識して仕事をしてきたつもりはなかった」が、08~10年に米スタンフォード大学に客員研究員として派遣されたことが転機となった。ベンチャー支援を研究しながら、世界の女性経営者らの生き生きとした姿を目の当たりにし、日本の企業風土は独特だと痛感した。「女性が起業家として挑戦する環境は貧弱で、企業の中でキャリアを形成するのにも時間がかかる。均等法第1世代の私たちが道を切り開かねば」。政投銀初の女性部長になった栗原の言葉だけに重い。
■部課長職で6.2%止まり
日本は03年、「20年までに経済や政治、行政などあらゆる分野で指導的地位に占める女性比率30%」との目標を掲げた。だが部課長職に占める女性比率は6.2%(10年の4万6226事業所、厚生労働省調べ)。
政府試算によると、労働力人口は女性や高齢者らの労働市場参画が進まないケースで50年に4228万人とピーク時(00年)の3分の2に落ち込む。目まぐるしく経営環境が変わるなか、ダイバーシティ経営は世界の潮流だ。日経が国内500社の自己資本利益率(ROE)を調べたところ、女性取締役のいる45社の平均は9.02%と、いない企業の5.73%を上回った(金融を除く、直近の本決算)。縮む国内市場、新興国の台頭、超円高など逆風にさらされる日本企業こそ殻を破る必要がある。一歩先を行くのはグローバル企業だ。
「顧客志向の組織を実現したい。あなたが必要だ」。日産自動車執行役員の星野朝子(51)は02年、カルロス・ゴーン社長(57)にこう口説かれ、社会調査研究所(現インテージ)から転職した。経営学修士(MBA)を取得し、専門はマーケティング。「会社を変えることを期待されていると感じた」と振り返る。
これに応えるように、情報をベースに意思決定することを根気強く訴えた。当時、購入者の8割は男性名義だったが、夫婦への聴きとりを通じ、多くの場合、妻が購入の決定権を握っていることを数字で証明した。
■女性活用で成長後押し
異なる経歴を持つ社員が健全な議論を戦わせることから活力や創造性、競争力が生まれる。そこでは性別も国籍も年齢も関係ない――。星野と、彼女の改革を支えたゴーンに共通する考えだ。「ダイバーシティを追求する企業でないと重要な経営判断さえも、あうんの呼吸や都合のいいデータで下してしまう危険性が増す」。星野はこう実感している。
9月、米国サンフランシスコ。アジア太平洋経済協力会議(APEC)は初めて「女性と経済サミット」を開いた。講演した米国務長官のヒラリー・クリントン(64)は世界の経済活性化に向け女性の潜在力の重要性を訴えたうえで、日本については「男女の雇用格差を解消できれば国内総生産(GDP)が16%押し上げられる」と指摘した。女性の活用にこそ、ニッポンが世界で勝ち残るヒントがある。
=敬称略
(高橋香織、安川寛之、石塚史人、星正道)
[日経産業新聞2011年11月29日付の記事を再構成しました]