堤卓の弁理士試験情報

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20/12/27 東京地裁平成15年1月31日判決

2008-12-27 08:32:43 | Weblog
東京地裁平成15年1月31日判決
減速機付きモーター

4 争点(4)(5)について
(1)本件登録意匠に係る物品と被告製品の物品とを対比すると,本件登録意匠に係る物品は減速機であるのに対し,被告製品は,減速機部分にモーター部分を連結して一個の物品となした減速機付きモーター(ギヤードモーター)であるから,両者は物品が異なり,被告製品の意匠は本件登録意匠と同一又は類似であるということはできない。
 また,原告が主張するように,利用関係による意匠権の侵害が認められるとしても,前記認定に係る本件登録意匠の要部は,前記3認定の事実からすると,被告製品の意匠においては,外部から認識できないから,このような場合には,利用関係が存すると認めることはできず,したがって,利用関係による意匠権の侵害も認められない。
(2)この点,原告は,本件登録意匠との類否判断の対象となるべき製品は,被告製品の減速機部分であると主張するが,前記認定のとおり,減速機部分は,ねじでモーター部分と固定されており,減速機部分は減速機付きモーターの一構成部分にすぎないというべきであるから,被告製品の減速機部分のみを切り離して本件登録意匠との類否判断の対象とすることはできないというべきである(もっとも,利用関係の判断に当たっては,減速機部分のみを類否判断の対象にすることがあり得るが,利用関係も成立しないことは前述のとおりである。)。
 また,原告は,意匠法は意匠の持つ「形態価値」を保護するものであり,「形態価値」を保護するためには保護されるべき意匠が物品の流通過程で見えるかどうかは問題ではなく,モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」と,減速機付きモーターとして「使用される場面」に注目しなければならないと主張するが,意匠法において意匠とは,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美観を起こさせるものをいい(意匠法2条1項),また,意匠保護の根拠は,流通過程における混同防止にあると解されるから,意匠法の保護の対象となるのはあくまで物品の外観であって,外観に現れず,視覚を通じて認識することがない物品の隠れた形状は,意匠権侵害の判断に当たっては考慮することはできないというべきであり,この点は,利用関係の判断に当たっても変わらないというべきである。原告が主張するように,モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」や,減速機付きモーターとして「使用される場面」に注目したとしても,減速機付きモーターにおいて登録意匠の要部が外観に現れなければ,意匠権侵害といえないことは,前述のとおりであって,これらに注目したところで結論が変わるものではない。

※コメント
 本件登録意匠に係る物品は、「減速機」という部品です。
 被告製品は、減速機を組み込んだ「減速機付きモーター」という完成品です。
 この東京地裁判決は、流通過程に置かれた物が対象製品であるとして、本件登録意匠と被告意匠とを対比して、部品と完成品とでは、意匠は非類似であると認定しました。
 すなわち、意匠法23条の類否判断においては、被告製品である「減速機付きモーター」から「減速機」のみを取り出して類否判断をすることはできないということです。流通過程に置かれた「減速機付きモーター」の全体が被告製品であると認定することになります。意匠法2条1項の意匠の定義から導き出される考え方です。
 原告は、「モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」と,減速機付きモーターとして「使用される場面」に注目しなければならない」と主張しましたが、東京地裁判決は、「組み立て場合」も「使用される場合」は、いずれも流通過程に置かれた状態ではないので、侵害の成否にあたっては、考慮できないと認定しました。
 したがって、被告が本件登録意匠と同一又は類似する意匠に係る減速機を用いて減速機付きモーターを製造しているとしても、流通過程に置かれた物が減速機付きモーターであるときは、意匠法2条3項の「使用」する行為にも該当しないということです。
 この東京地裁判決では、「利用関係による意匠権の侵害」という表現を使用しています。
 これは、登録意匠と実施意匠とが同一又は類似していなければ、意匠法23条の侵害は成立しないところ、登録意匠と同一又は類似する意匠をそっくりそのまま利用しているときは、意匠法26条による侵害に該当する、という考え方です。

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20/12/27 最高裁平成11年7月16日判決

2008-12-27 08:08:49 | Weblog
最高裁平成11年7月16日判決
被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法

3 本件方法は本件発明の技術的範囲に属するのであるから、上告人が上告人医薬品の製造工程において本件方法を使用することは、本件特許権を侵害する行為に当たる。
 したがって、被上告人は、上告人に対し、特許法100条1項により、本件方法の使用の差止めを請求することができる。
 しかし、本件発明は物を生産する方法の発明ではないから、上告人が、上告人医薬品の製造工程において、本件方法を使用して品質規格の検定のための確認試験をしているとしても、その製造及びその後の販売を、本件特許権を侵害する行為に当たるということはできない。
 したがって、被上告人が、上告人に対し、上告人医薬品の製造等の差止めを求める前記(1)の請求はすべて認容することができないものである(なお、本件訴訟の経過に徴すれば、右(1)の請求を、本件方法の使用の差止めを求める趣旨を含むものと解することもできない。)。

※コメント
 本件特許発明は、測定法という方法の発明です。
 本件特許発明は、物を生産する方法の発明ではありません。
 そうすると、本件特許権の効力が及ぶのは、特許法2条3項2号の「使用」する行為のみとなります。
 すなわち、特許法2条3項1号の「その物の生産」等や、特許法2条3項3号の「その方法により生産した物の使用」等には、本件特許権の効力が及ばないこととなります。
 ところが、本件特許発明は、本件特許発明に係る測定法を使用すると、必ず医薬品が製造されるものという特徴があります。
 1審被告は、本件特許発明に係る測定法を使用していましたので、方法の使用の差止めは認容されています。
 しかし、医薬品の製造の差止めは、この最高裁判決で棄却されました。方法の使用が同時に医薬品の製造になったとしても、本件特許権の効力は、方法を使用する行為にのみ及び、方法を使用して医薬品を製造する行為には及ばないとしたものです。
 すなわち、発明の実施行為としては、方法の使用と医薬品の製造とは同一視することができないということです。
 なお、前記のとおり、本件特許発明に係る方法を使用すると必ず医薬品が製造されますが、この場合でも、本件特許権の効力は、医薬品を製造する行為には及ばないこととなります。


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