荷風の日記は来訪者あるいは飯を一緒に食った人の名前、場所それらが読書日記が主要な内容をしめる。他人の文章で一番多いのは江戸時代の漢文(墓碑銘を含む)、それからフランスの書籍が多い。
フランスではもちろんモーパッサン、ゾラ、ジッドが目につくが、その他では無名の(或いは私の知らない)作家の作品が多い。おそらく同時代の作家だろう。たえず、フランス文壇の時流に関心があったようだ。
アメリカの作家もみられる。荷風は銀行員としてニューヨークに滞在していたし、その関係で実業界との交友があった。それらの友人がアメリカの最近の事情を報告していたらしい。
前に読んだ作品でタイトルは思い出せないが、ハードボイルタッチの作品もある。おそらく実業界の友人が「こんなのがアメリカで流行っているよ」と雑誌を持ち帰ったものらしい(ブラックマスクあたりか)。それを模倣したのか、ごく短い作品で駕篭かき風のタクシー運転手とキャバレーの女給を思わせる女とのトラブルを描いている。ハードボイルド・タッチはこの作品一つだとおもうが、