しばらく眠りに落ちていたらしい。ふと目を覚ますと家はパイプオルガンの演奏をやめていた。狂風は収まっていた。階下の怒鳴り声は聞こえなくなった。兄たちは風が収まった合間を縫って帰宅したらしい。ミシミシと階段を踏み鳴らして父か昇ってきた。部屋の外から声をかけた。
「泊っていくのか」
彼は目をこすった。
「そうだねえ、また風が吹き出すと心配だから今夜は泊っていくよ」
そうか、というと父は自室に入っていった。しばらく寝入っていた体は急には動かず重たい。あたりが静寂に包まれると先ほどの怒鳴りあいのことを思い出した。兄の声も父の声も、そうして妹の声もすこし変わって聞こえた。みんな別人のようだった。パイプオルガンの演奏に乗っかって変調していた。なかでも兄の声はまったく聞きなれない妙な声に聞こえた。
「あの声はどこかで聞いたな。誰の声だったか」
思い出そうとしたが、声の主を特定できなかった。確かに聞いた声だ。
再び彼が眼を開けた時は強烈な朝日がカーテン越しに差し込んでいた。