四年前まで自分の部屋だった。久しぶりに押し入れから出して黴臭い布団を敷いて横になった彼は天井を見上げた。新築時に父が祖母のための隠居部屋として作った十畳の部屋である。彼の中学時代から彼の部屋になった。網代天井を見上げながら家全体がパイプオルガンのように騒ぎ立てるのを聴いていた。
築四十年の木造家屋はいたるところで建てつけが緩んで外気の注入口が無数にあった。同様に風の通り抜け口があり、それを通過する音は実に様々な音の発生源になった。穏やかな風が吹き抜けるときはそれは、人の話し声や出入りの音のように聞きなした。若いころにはふと目を覚ました彼は階下の風呂場あたりから誰かが丑三つ時に誰かが家に忍び込んだかと身震いしたものである。
便所は風呂場の近くにあったので彼はそんな「話し声、気配」を聞くと階下に降りていくのが怖くなった。それにしても今日の狂風は例になく凶暴で建物全体を凶暴な音で絶え間なく家を満たしていた。
階下では兄と父とが大声を出してやりあっている。兄や妹はいつまでいるのだろうか。この天候の荒れ模様では遅くなると帰れなくなるとテレビの天気予報は警告していた。父と兄の怒鳴りあう合間に今晩は妹の甲高い声が聞こえてくる。
切れ切れに聞こえてくる会話から判断すると妹は兄に同調して家を処分することに賛成しているらしい。この間までは彼女は正反対に意見だった。いつの間にか不動産屋の兄に同調しているらしい。これが父を激高させたのだろう。父はこの妹に甘く、妹がガラクタの衣装を買い込んでも、遊びまわっても見逃していた。それが突如兄に同調したので一層父を激高させたらしい。